腎臓にとっても、脱水は絶対によくありません。しかし、腎機能が衰えている高齢者や、慢性腎臓病の人が水を飲み過ぎると、ミネラルの少ない水が体にたまり、体液が薄まり、「水中毒」ともいわれる、低ナトリウム血症が起こったりするのです。【解説】内山葉子(葉子クリニック院長) 

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

内山葉子(うちやま・ようこ)

葉子クリニック院長。関西医科大学卒業。大学病院・総合病院で腎臓内科・循環器・内分泌を専門に臨床・研究を行った後、葉子クリニックを開設。総合内科専門医、腎臓内科専門医、ホメオパシー専門医。著書に『パンと牛乳は今すぐやめなさい!』『おなかのカビが病気の原因だった』『健康情報のウソに惑わされないで!』(いずれもマキノ出版)。
▼葉子クリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

夜8時以降の水分は「水毒」むくみや夜間頻尿を招く

「健康のために、水を1日2L以上飲みましょう」という情報を、よく耳にしませんか? 実はこれ、腎機能が低下している人にとっては、非常に危険な場合があります。

私たちの体は、約6割を水分が占めています。普通に生活していると、1日当たり、皮膚や呼気から500〜750ml、尿や便から1〜1.5Lの水分が出ていきます。体重換算すると、50kgの人で1日約2Lの水分が必要ということになります。

ですから、水分を摂取することは、とても大切なことです。腎臓にとっても、脱水は絶対によくありません。

しかし、単純に水を1日2L以上飲めばいいというものではないのです。

私たちは生きていくうえで、当然、食事をとります。その食事のなかにも水分は含まれています。当たり前の食事をしていれば、1日1〜1.5Lの水分はとっているはず。それにプラスして水を2Lとる必要がないことはわかると思います。

また、「水」でとるというところが問題です。体内の水分は単なる水ではなく、ミネラルをはじめとするさまざまな成分を含んでいます。ミネラルウォーターでも、体内の水分組成と比較すると、含まれているミネラルは微々たるものなのです。

若くて健康な人なら、腎臓がきちんと水分調節をしてくれるので、特に問題はありません。しかし、少なからず腎機能が衰えている高齢者や、慢性腎臓病の人にはやっかいです。

そのような人が水を飲み過ぎると水分調節ができずに、ミネラルの少ない水が体にたまります。すると、体液が薄まります。例えば、体液中のナトリウム濃度が薄まり、低ナトリウム血症が起こったりするのです。

低ナトリウム血症は、「水中毒」ともいわれます。軽度なうちは、頭痛や吐きけなどが主な症状ですが、ひどくなるとけいれん、昏睡、そして死に至ることもあります。

画像: 水を飲み過ぎると体内のミネラルが不足する

水を飲み過ぎると体内のミネラルが不足する

私は腎臓内科医として病院に勤務していたとき、健康情報をうのみにして水を一生懸命に飲み、低ナトリウム血症で入院される人を目にしてきました。

腎臓に問題のない人でも、長期にわたって水を大量に飲み続けていると、体内のミネラルが不足します。すると、体がだるくなったり、代謝トラブルなどが起こったりしてきます。

水で食べ物を流し込むような形になり、消化不良を起こしたり、おなかを下したりする人もいるでしょう。そうなると栄養が入ってこないため、たんぱく質不足にも陥りかねません。

食事がしっかりとれない高齢者は特に、水を飲み過ぎると、ますます食事量が減り、もともと不足しがちなたんぱく質がさらに不足します。すると、血液中に水を保持する力が弱まり、血管の外に水がしみ出て、むくみ心不全が起こる可能性もあります。

さらに、東洋医学では、夜8時以降の水分は「水毒(すいどく)」になると考えられています。

ヒトの体は、夜は水をためるようにできています。それなのに、夜間に必要以上に水をとると、体内によけいな水がたまり、むくみや夜間頻尿の原因になります。

夜中に何度もトイレに起きると熟睡できず、体は休まりません。腎臓もフル回転しなければならず、その機能が限界を超えたとき、体にはさまざまな弊害が起こります。

脳卒中の予防になるからと、のどが乾いてもいないのに、夜寝る前に水を飲んでいませんか? 最近は認知症にも水分摂取が勧められているようです。

そのような情報に踊らされず、腎臓や心臓の機能が低下している人、食事がしっかりとれない高齢者は、必要以上に水を飲むことは危険と心得るべきです。

500mlの水に天然塩をひとつまみ!

では、慢性腎臓病の人は、どのような水分のとり方をすればよいのでしょうか。

先にことわっておきますが、腎不全の人や人工透析を受けている人は、特に注意が必要です。水分のとり方も、〝必ず〟医師の指示に従ってください

ここでは、そこまで重症ではないものの、慢性腎臓病で腎機能が低下している人や、高齢者に向けた水分のとり方を説明します。

まず、「1日に必要とされる水分=飲み物として摂取すべき水」という考えは捨ててください。食事に含まれる水分量も考慮して、不足分を飲料水で補うという意識が大切です。

そう考えると、普通に食事をしていれば、飲み物として摂取すべき水の量は、1日1Lくらいが適量です。体重や汗の量、湿度などでも変わりますが、多くてもせいぜい1.5Lくらいでしょう。

それを少量ずつ、こまめに摂取します。入浴で汗をかいたときや、薬を飲むときなど、必要に応じて水を飲むのはかまいません。しかし、夜8時以降はむやみに水分をとり過ぎないよう注意してください。

そして、より健康的な水分のとり方としては、ミネラル分もいっしょにとることが理想的です。真水よりは、マグネシウムなどのミネラルを含んだミネラルウォーターのほうがいいでしょう。

あるいは、真水に少量の天然塩を加えて飲むのもお勧めです。水500mlに塩ひとつまみで十分です。

塩は、精製されてナトリウム以外に入っていない食塩ではなく、ミネラルを豊富に含む天然塩を使ってください。特に、汗をたくさんかく人は、ミネラルが必須です。天然塩のかわりに梅干しを加えてもかまいません。

また、カフェインの入っていない飲料を飲んでもいいでしょう。例えば、ミネラルの多い麦茶や、ビタミンが含まれるハーブティーなどです。こうした変化をつければ、味や香りも楽しめるのではないでしょうか。

スポーツドリンクは、砂糖や果糖ブドウ糖が含まれているので、お勧めできません。

なお、食事で注意すべきは、加工食品です。加工食品は水分を飛ばしている物が多く、さまざまな添加物が入り、加工塩もたくさん使われているため、消化する際に多くの水分が奪われます

食事からの水分量をしっかり確保するには、加工食品は避け、ご飯、汁物、野菜、魚などを、1日3食きちんととることを基本にしましょう。

そうした水分や食事のとり方を実践することが、腎機能の改善につながります。ぜひ、皆さんも心がけてください。

慢性腎臓病の人の水分のとり方

※腎不全の人や人工透析を受けている人は、医師の指示を受けること。ここでは、そこまで重症でない慢性腎臓病の人を対象とする。

画像1: 【水の飲みすぎに注意】3食しっかりとれば飲む水は1リットルで十分 少量ずつこまめに摂取がコツ

■飲み物として摂取すべき水の量
1日1L(多くても1.5L)

■飲み方
少量ずつこまめにとる。
汗をかいたときや薬を飲むときは飲んでよい。
夜の8時以降は控えめにする。

画像2: 【水の飲みすぎに注意】3食しっかりとれば飲む水は1リットルで十分 少量ずつこまめに摂取がコツ

■お勧めの水(飲み物)
マグネシウムなどのミネラルを含むミネラルウォーター
真水500mlに天然塩をひとつまみ入れた水
真水500mlに梅干し1個を入れた水
カフェインの入っていない飲料:麦茶やハーブティーなど

■お勧めできない飲み物
砂糖や果糖ブドウ糖が含まれる飲料:スポーツドリンクやジュース
カフェインの入った飲料

画像: この記事は『壮快』2020年7月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年7月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.