解説者のプロフィール

永野正史(ながの・まさし)
練馬桜台クリニック院長。1985年に佐賀医科大学卒業後、三井記念病院にて内科研修医、内科腎センター医員を経て、1992年に敬愛病院内科に勤務。1996年に敬愛病院副院長を務めた後、2003年に練馬桜台クリニックを開業(内科・透析・健診)。主な著書に、『110歳まで元気に生きる! 実験オタクなドクターに学ぶ健康長寿のウソ・ホント』(幻冬舎)などがある。
体調がよくなった患者さんが増えた!
私のクリニックでは、患者さんに腹巻きを勧めています。
もともとはおなかを温めて免疫力を高め、感染症を予防するのが目的でした。しかし、腹巻きをして、腹、腰、背中などを温めると、慢性腎臓病の悪化防止につながることが、臨床経験上わかりました。
まず、腹や腰を温めると、膀胱炎などの尿路感染症の予防になります。
以前から、おなかを冷やすと尿路感染症になりやすいというのは、よくいわれています。その理由の一つとして、免疫力の低下が挙げられます。
一般的に、尿道から尿路に侵入した細菌は、排尿により体外に排出されたり、免疫によって退治されたりします。免疫細胞は、体温が下がると働きが低下することがわかっています。さらに、免疫細胞のおよそ9割はおなか(小腸)にあります。
従って、特におなかが冷えると、より免疫力が落ちて細菌が繁殖しやすくなるため、尿路感染症になるリスクが高まってしまうのです。
尿道から侵入した細菌が、膀胱で増殖して炎症を起こすと膀胱炎になります。さらに、細菌が遡って腎盂(じんう)や腎臓に達することで、腎不全にもつながる腎盂腎炎が起こるのです。
慢性腎不全になると、腎機能は回復不可能となります。もともと腎臓が悪い人が腎盂腎炎になると、崖から突き落とされるほどのダメージを腎臓に与えてしまいます。
ですから、起因の膀胱炎を防ぐことが、非常に重要なのです。
また、おなか周りが冷えるとトイレが近くなるので、水分を控える人がいます。しかし、体内の水分量が減ると、血液の量も減ってしまい、腎臓への血流が低下します。
その結果、排出すべき老廃物が排出できなくなったり、体にとって必要な塩分や糖分などの再吸収がうまくいかなくなったりするなど、腎臓に障害が起こってきます。つまり、水分量の観点からも、おなかを温めることが大切なのです。
そしてもう一つ。体が冷えを感じると、交感神経が緊張して血管を収縮させるので、血圧が上がります。
血圧が高いと、腎臓への負担が増えて、その機能は低下します。そして、余分な塩分と水分の排泄ができなくなり、それがさらに血圧を上げて腎機能を低下させる、という悪循環となってしまうのです。
一方、体が温まると、副交感神経が優位となり血管を拡張することで、血圧は下がります。
このように、腹部や腰を温めると、腎臓病のリスクを低減したり、腎臓病の悪化を防いだりすることにもつながるのです。
実際、私のクリニックでは、腹巻きをするようになって、以前よりも体調がよくなったという患者さんが増えました。
季節に関係なく腹巻きをしよう

おなかを温めると、慢性腎臓病悪化を食い止められる!
冒頭でも述べましたが、患者さんに腹巻きを勧めるようになったのは、もともとは免疫力を上げるためでした。
現在、私のクリニックでは、人工透析を受けている患者さんが、常時150人くらいいます。以前、そのうちご高齢のかたを中心に、5〜10人くらい患者さんが、毎年寒い冬の時期に残念ながら亡くなってしまうことが多かったのです。
それを防ぐために始めたのが、「腹巻きをしましょう」という呼びかけでした。
人工透析は、瀕死の重傷・重病を負っている患者さんなど、ほんとうに体が弱ってしまったかたに最後の手段として用いることが多い治療法です。患者さんは免疫力も低下していて、感染症にかかりやすいのです。
そこで、ご高齢で体力の衰えている患者さん、合併症を起こしている患者さんなどに対して、しつこいくらい「腹巻きをしてください」と勧めました。その結果、真冬から春にかけて、1人の死亡者も出なくなったのです。
昔と違い、今は夏もエアコンで体が冷えることが多いので、患者さんには季節に関係なく腹巻きを勧めています。もちろん私も、一年中腹巻きをしています。
腎臓の機能は、悪化したら元には戻りません。腎機能を低下させないため、そして、腎臓病を悪化させないための努力の一つとして、「おなかを温める」ことを習慣にしましょう。

この記事は『壮快』2020年7月号に掲載されています。
www.makino-g.jp