解説者のプロフィール

永野正史(ながの・まさし)
練馬桜台クリニック院長。1985年に佐賀医科大学卒業後、三井記念病院にて内科研修医、内科腎センター医員を経て、1992年に敬愛病院内科に勤務。1996年に敬愛病院副院長を務めた後、2003年に練馬桜台クリニックを開業(内科・透析・健診)。主な著書に、『110歳まで元気に生きる! 実験オタクなドクターに学ぶ健康長寿のウソ・ホント』(幻冬舎)などがある。
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尿検査と血液検査で腎臓の状態がわかる
[別記事:慢性腎臓病は早期発見・早期治療が重要→]
腎臓病は自覚症状がなかなか現れない病気ですので、悪化させないためには早期発見が重要です。一般的な健康診断で行われる検査でも、慢性腎臓病の早期発見の重要な手がかりになります。
まず、尿検査の項目で腎臓の状態がわかります。
腎臓の糸球体が障害されていると、たんぱく質が漏れ出て尿といっしょに排出されます。ですから、尿たんぱくと尿アルブミン値が大きいほど、腎臓のろ過機能が低下していると考えられるのです。
そして、腎機能を知るうえで必ず確認していただきたいのが、血液検査でわかる「クレアチニン値」です。
クレアチニン値は、血液1dL中にクレアチニンが何mgあるかを示します。健康診断項目にないこともありますので、その場合は、病院で検査してもらうとよいでしょう。
クレアチニンは、筋肉から出てくる老廃物です。本来、血液によって腎臓に運ばれ、こし取られて尿中に排出されます。そして、クレアチニンは尿以外では体外に排出されることがありません。
つまり、クレアチニン値が高いということから、腎臓の働きが悪くなっているということがわかります。
ただし、先に述べたように筋肉からの老廃物ですので、クレアチニンが生じる量は筋肉量(体格)によって差があります。同じクレアチニン値でも、老若男女で意味合いが異なってくるのです。
そこで、一般的にクレアチニン値と年齢、性別をもとに算出したのが「eGFR(推算糸球体ろ過量)」です。年齢の数値をそのまま計算式に使用し、男女で計算式が異なるので、年齢や性別をある程度考慮した、老若男女共通の数値となります。
健康な腎臓は、1分間に90ml以上の血液をろ過しますから、eGFRの数値が90(ml/分/1.73㎡)以上ならば、腎臓は十分健全に働いていることになります。逆に、それより数値が低いと、腎臓の働きに注意する必要があるということです。
eGFRは、その数値に応じて、ステージ1〜5の段階に分けられています。eGFRが60未満はステージ2となり、軽度の慢性腎臓病が疑われます。eGFRがステージ5の15未満になると、人工透析が治療の視野に入ってきます。
eGFRが血液検査の項目に入っていない場合は、下記のeGFRの早見表を参考にしてください。
見方は、いちばん左のクレアチニン値の横列と、いちばん上にある年齢の縦列がぶつかったところが、あなたのeGFRになります。
例えば、72歳の男性でクレアチニン値が3.1の場合は、eGFRは16.3〜16.6となり、腎臓機能が高度に低下している状態のステージ4となるのです。
また、尿たんぱくや尿アルブミンの結果と組み合わせることで、詳しい慢性腎臓病の進行度を判別することができます(下の表を参照)。

※日本腎臓学会の「eGFR男女・年齢別早見表」を参考に作成。
数値は18歳以上に適用で、クレアチニン値は酵素法で作成したものを用いる。





クレアチニン値より正確なシスタチンC
ただし、この数値はあくまでも推定です。例えば、〝体格がよく筋肉量が多い〟女性の場合は、腎機能が低下していないのに、eGFRが低くなることがあります。
これは、計算式の性差による筋肉量の違いが「男性」「女性」の2通りしかないためです。筋肉量が多くてクレアチニン値が高い場合でも、一般的に筋肉が少なめの「女性」と同じ計算式で算出するため、eGFRが低めになってしまうのです。
また、食事や運動などでも上下することがあります。
より正確な腎機能を表す数値を出すには、筋肉量や食事、運動の影響をあまり受けない「シスタチンC」を用いて算出する方法があります。これは、早期の段階から、腎機能の低下を発見することができます。
しかし、通常の健康診断や血液検査では、シスタチンCをあまり調べません。クレアチニン値によるeGFRで腎機能低下の兆候があった場合や、特に腎臓が心配な人は、腎検査を受けてシスタチンCを測ってみるといいでしょう。
また、eGFRは年齢とともに若干下がっていきます。90台だったものが80台、70台と少しずつ、順次に下がっていくのなら正常の範囲と見ることができますが、80台からいきなり60台に下がるのは、異常があると考えられます。
このような場合は、超音波検査や腹部CTなどの画像検査をすぐに受けるべきです。
いずれにしても、eGFRの結果については、ご自身で判断せず、対応などを含め、医師に相談して対策を講じるべきでしょう。
このように、定期的な健康診断だけでも、腎機能の低下を早期に発見することは可能です。
腎臓は我慢強い臓器です。よほどひどくならなければ自覚症状が出ません。早期発見のためには、健康診断を必ず受けて、腎臓病の指標となる数値のチェックを心がけてください。
[別記事:慢性腎臓病は早期発見・早期治療が重要→]

この記事は『壮快』2020年7月号に掲載されています。
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