慢性腎臓病は症状が現れにくく、自覚症状が現れたときには人工透析が必要、という人も少なくありません。機能不全に陥った腎臓は回復できません。しかし、そうなる前に進行を止めたり遅らせたりすることは可能です。ですから、早期発見・早期治療が重要です。【解説】永野正史(練馬桜台クリニック院長)

解説者のプロフィール

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永野正史(ながの・まさし)
練馬桜台クリニック院長。1985年に佐賀医科大学卒業後、三井記念病院にて内科研修医、内科腎センター医員を経て、1992年に敬愛病院内科に勤務。1996年に敬愛病院副院長を務めた後、2003年に練馬桜台クリニックを開業(内科・透析・健診)。主な著書に、『110歳まで元気に生きる! 実験オタクなドクターに学ぶ健康長寿のウソ・ホント』(幻冬舎)などがある。

腎機能が低下すると多くのトラブルを招く

腎臓は握りこぶしほどの大きさで、そらまめ型をしています。腰の上に、背骨を挟んで、左右一つずつあるのです。腎臓には「腎動脈」「腎静脈」の2本の太い血管と、細い「尿管」がつながっています。その中には、およそ100万個の「糸球体」と呼ばれる毛細血管の塊があります。

腎臓は小さな臓器ですが、大変な働き者であり、その仕事は多岐に渡ります。ですから、腎臓の機能が低下すると、さまざまな弊害が生じます。まずは、その腎臓の働きと、生じる弊害について説明しましょう。主な働きは、次の四つです。

尿を作る

腎動脈から送られてくる血液には、体に不要なものが含まれています。これを糸球体がフィルターとなり、血液をろ過して不要物を取り除きます。

そして、必要なものだけになった血液を、腎静脈を通して全身に送り出します。同時に、取り除かれた不要物は尿となり、体外へ排出されるのです。

このろ過機能が低下すると、本来は体に必要なはずのたんぱく質などの栄養分が、不要物といっしょに取り除かれて、尿として排出されてしまうのです。

もし尿が泡立っていたら、それはたんぱく尿の疑いがあります。また、赤みがかった尿は、尿中に赤血球が出ている可能性があります。

画像: 腎臓の構造の模式図

腎臓の構造の模式図

体内の水分と血圧を調整する

腎臓は、体内の水分バランスが保てるように、常に尿の量を調節しています。この水分調整が血圧調整にもつながるのです。

この機能が低下すると、体内に水分が溜まり、むくんでしまいます。また、高血圧の原因にもなります。

さまざまなホルモンを作る

腎臓は、私たちが健康を維持するための、さまざまなホルモンを作っています。たとえば、血圧を調整する「レニン」や、赤血球を増やすための「エリスロポエチン」、カルシウムの吸収を助けるための「活性型ビタミンD」などがあります。

腎臓の機能が低下すると、これらのホルモンが作られずに、高血圧貧血になったり、カルシウムが不足して骨粗しょう症になったりします。

体内の酸性度を調整

私たちが健康を維持するためには、体内が中性に近い弱アルカリ性に保たれていなければなりません。しかし食事をすると、体内での化学反応に伴い酸ができます。

腎臓は、この酸を尿とともに体外に排出したり、酸を中和する「重炭酸イオン」という物質を放出したりして、体内の酸性度を調整しています。

しかし、腎臓の機能が低下すると、これらの働きが正常に行われずに、酸が排出されなかったり、重炭酸イオンが減少したりして、体が酸性に傾きます。酸性度のバランスを保てなくなってしまうのです。

自覚症状が現れたときは人工透析の必要性が高い

このように、腎臓は多くの働きを担っているゆえに、機能が低下すると、さまざまな問題が起こります。

さらに、腎臓は全身とかかわっている臓器ですので、腎機能が悪化すると、ほかの臓器にも障害が生じます。たとえば心臓に負担がかかり、心筋梗塞狭心症のリスクを高めてしまうこともあります。

腎臓の働きが悪くなる病気を総称して「腎臓病」といいます。そして、慢性的に続く腎臓病が「慢性腎臓病(CKD)」です。

困ったことに、慢性腎臓病は症状が現れにくく、かなり悪化しないと自覚症状がありません。そのため、自覚症状が現れたときには人工透析が必要、という人も少なくありません。

機能不全に陥った腎臓は、回復できません。しかし、そうなる前に進行を止めたり遅らせたりすることは可能です。ですから、早期発見・早期治療が重要です。

では、もし腎臓病と診断されたら、どのような治療を行うのでしょうか。まずは、それぞれの症状に合わせた対処療法を行い、腎機能低下を抑制します。

尿が出にくく、むくみがある場合は、利尿剤を使用します。高血圧ならば血圧を下げる降圧剤、血液が酸性に傾いている場合は中和剤、また、貧血がある場合は増血ホルモン剤を注射します。

これらの対処療法と同時に、食事指導も行います。また、腎機能を表す「eGFR」(詳しくは別記事参照)がおおむね、10以下の人は、人工透析治療が必要な段階といえます。

[別記事:腎機能の低下がひと目でわかるeGFR早見表→

人工透析とは、腎臓の働きを肩がわりするシステムです。透析器を通して、血液中の老廃物や過剰な水分を取り除きます。そして、きれいになった血液を体内に戻します。時間にすると1回につき3〜4時間ほどかかります。

人工透析そのものに痛みはありません。最初に針を刺すときにチクッとするくらいですから、そのあとは皆さん昼寝をしたり読書をしたりしています。最近ではスマホでゲームをしている人もいます。

とはいえ、週3回通院して人工透析治療を受けなければなりませんので、ある程度生活に制限が加わります。

腎臓病患者の6割以上に基礎疾患がある

腎機能の低下を防ぐには、まずは規則正しい生活と軽い運動を習慣としましょう。塩分とたんぱく質のとりすぎに注意して、バランスの取れた食生活で生活習慣病の予防を心がけることも大切です。

糖尿病や高血圧の人は、熱中症などで脱水症状が起こると、急速に腎不全へ進行することがあります。このようなケースを防ぐためにも、生活習慣病を予防・改善することは、腎臓の病気になるリスクを大きく下げるためにも重要です。

画像: 腎臓病患者のタイプ別割合 糖尿病や高血圧など、生活習慣病の人が半分以上を占めている。

腎臓病患者のタイプ別割合
糖尿病や高血圧など、生活習慣病の人が半分以上を占めている。

実際、腎臓病患者の割合をタイプ別に見ると、糖尿病・高血圧の基礎疾患のある人が6割、糸球体に慢性的な炎症が起こる「慢性糸球体腎炎」が2割、膠原病や感染症によるものが各1割ずつほどになります。

糖尿病や高血圧でなくても、健康診断で正常でなかった場合は、決して放置せずに、腎検査を受けましょう。もちろん、糖尿病や高血圧のある人はいうまでもありません。

腎機能低下の原因の一つに、加齢もありますので、高齢の人はふだんから腎臓のことを意識したほうがいいでしょう。人工透析治療の患者さんも高齢者が多く、私のクリニックでは3割ほどが80歳以上の高齢者です。

腎臓の病気は、早期発見・早期治療が重要です。医薬は日進月歩で進化し、近年、腎臓の薬もよいものが出てきています。健康診断を必ず受けて、腎機能低下の兆候があるようなら、ほうっておかずに、必ず治療を継続的に受けるようにしましょう。

画像: この記事は『壮快』2020年7月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年7月号に掲載されています。

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