東洋医学では「気・血・水」が過不足なく、また滞りなく全身を巡ることで生命活動が営まれていると考えられています。特に、目と関係が深いのが、「肝」と「腎」です。肝は「血」を蓄える働きがあり、「肝の状態は目に現れる」とされています。【解説】平地治美(和光治療院・漢方薬局代表)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

平地治美(ひらぢ・はるみ)
和光治療院・漢方薬局代表。薬剤師。鍼灸あん摩マッサージ師。明治薬科大学卒業後、漢方薬局での勤務を経て東洋鍼灸専門学校へ入学。約20年、漢方に携わる。自身の治療院で施術を行う他、カルチャーセンターで漢方レッスンなども担当。『やさしい漢方の本 さわれば分かる腹診入門』(日貿出版社)『げきポカ』(ダイヤモンド社など、著書多数。

目の症状は全身状態の反映

私は薬剤師・鍼灸師として臨床に携わる他、20年ほど前から一般の方向けの漢方講座を開催してきました。

特に皆さんの関心が高いのは、「目」をテーマとした講座です。スマホやテレビなどで目を酷使しやすいだけでなく、高齢化が進んで白内障緑内障など、目の病気に悩む方が増えているからかもしれません。

東洋医学では、生命エネルギーである「気」、全身に栄養を運び、与える「血」、リンパ液をはじめとする体液全般である「水」が過不足なく、また滞りなく全身を巡ることで生命活動が営まれていると考えられています。

また、目に症状が出ているとしても、目だけが悪いのではなく、全身状態が反映していると考えるのが特徴です。

特に、目と関係が深いのが、「」と「」です。

肝は、「血」を蓄える働きがあり、「肝の状態は目に現れる」とされています。

もう一つの腎は体内の水分代謝をつかさどる他、生殖・発育・成長という生命力の源でもあります。腎が強ければ免疫力(体の防御機構)が高く若々しさが保たれ、腎が弱くなれば老化が進んでいきます。

老化とともに起こってくる白内障は、肝と腎の弱りで起こる目の症状の代表格です。

55歳の女性Aさんは肩こりや腰痛、更年期症状を訴えて来院されました。これらの症状は肝と腎の弱りを示しています。そこで「杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)」という漢方薬を処方しました。

杞菊地黄丸を飲み始めて1週間後、「まぶしさを感じなくなって、目を開けるのがらくになった」と報告がありました。実は、Aさんは眼科で白内障の手術を勧められていたそうですが、見えやすさが戻ったため、手術を見送ったとのことです。

杞菊地黄丸は、字の通り、枸杞(くこ)と菊花(きっか)を含む漢方薬ですが、クコの実菊花茶は中華食材としても市販されています。普段の食事に取り入れるのもお勧めです。

緑内障は糖質のとり過ぎにも注意

眼圧は高くないのにそもそも視神経が弱過ぎて起こっている正常眼圧緑内障は瘀血(おけつ)(血の巡りが悪くなった状態)、眼圧が高くて視神経が傷められている緑内障は水毒(すいどく)(水が滞ったり偏ったりしてしまった状態)が大きな原因となっていることが多いです。

正常眼圧緑内障を抱える40代の女性Bさんは、頭痛や肩こりがひどく、だるくて起きていられない状態が続いていました。 瘀血があり、さらにストレス・寝不足・運動不足で肝が弱ったBさんは目のトラブルを抱えやすい状態だったといえるでしょう。

瘀血を解消するための代表的な漢方薬は「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」です。また、正常眼圧緑内障の人の多くは、首と肩がこっていて、頭部の血行が悪くなっているのも原因の一つなので、目の血流をよくするツボ押しも指導しました(下の図解参照)。

Bさんは今では保育士として元気に働くことができるようになり、手術に至ることなく視野を維持できているそうです。

目の血流をよくするツボの押し方

画像1: 緑内障は糖質のとり過ぎにも注意

耳の後ろの骨の出っ張り(乳様突起)に沿って上がり、頭蓋骨にぶつかるくぼみに親指の先を当てる。

画像2: 緑内障は糖質のとり過ぎにも注意

親指の腹で頭蓋骨を持ち上げるようにしながら、あごを上げる動きを利用して深く指圧する。頭蓋骨の下端に沿って中心まで指の位置を変えながら、リズミカルに顔を動かす。両側同時に行ってもよい。

眼圧が高くなる緑内障では、腎が弱り、水毒を起こしていることが珍しくありません。

体液が滞っている水毒の人は、見た目は太っていなくても、足首だけがむくんで太く、足を触るとしっとりとして冷えているという特徴があります。

加えて、梅雨時や台風が近づいて来るときに、めまいと頭痛がセットで起こりやすいです。体にため込んだ水分のために、気圧によって体調が大きく左右されるのです。

水毒の解消には、漢方薬の「五苓散(ごれいさん)」が効果的です。天候が悪くなると分かっているときは、事前に五苓散を飲んでおくと、体調の悪化を防ぎます。

眼圧の変化は自分では分かりづらいですが、目に余分な水分をため込むのも予防できるはずです。

また、水分と糖質をとり過ぎないことが大事です。汗を大量にかくようなとき以外は、食事以外で水分を摂取するのは0.8~1Lが適量です。

水分のとり過ぎを防ぐため、一気飲みはせず、チビチビと少量ずつこまめに飲むようにしましょう。

そして糖質には水分を保持する働きがあるので、甘味の強い果物やお菓子は控えてください。特に清涼飲料水は避けましょう。

画像: この記事は『安心』2020年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年6月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.