白内障は、一定年齢以上であればほぼ100%かかる、非常に身近な目の病気です。多くの人が手術を受けますが、主治医の説明が分からず、不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。白内障の原因や自覚症状、なりやすい人のタイプなどを伺いました。【回答】平松類(二本松眼科病院医師)
回答者のプロフィール

平松類(ひらまつ・るい)
二本松眼科病院医師。昭和大学医学部卒業。昭和大学病院、彩の国東大宮メディカルセンター眼科などを経て2018年より現職。緑内障手術トラベクトーム指導医。テレビ、雑誌、新聞などでの分かりやすい医療解説に定評がある。『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』(SBクリエイティブ刊)、『「マス目」で気づく目の病気』(翔泳社)など著書多数。
白内障の全てが分かる一問一答
Q. 白内障はどのような病気ですか?
A.
白内障とは、透明だった目の「水晶体」が濁ってしまうことで、光を通しにくくなったり、拡散したり乱反射したりして、鮮明な視界が得られなくなる病気です。
目はよくカメラの構造で例えられます。水晶体は目の「レンズ」に当たる部分で、近いところを見るときには厚く、遠くを見るときには薄くなってピントを合わせ、外からの光を「フィルム」に当たる網膜に集める働きをしています。
白内障は、カメラのレンズがくもったまま写真を撮っているようなものなので、ぼやけたりにじんだり、光が乱反射した画像になってしまうのです。

正常な眼球

白内障の眼球
水晶体の濁りは徐々に積み重なっていくため、早い人では40代で気になり始め、程度の差はありますが60歳で7~8割、80歳を超えるとほぼ全ての人が白内障を起こします。
白内障は手術で改善できるため、日本を含め、医療技術の進んだ先進国では失明にまで至ることはほとんどありません。しかし、世界全体で見ればいまだに失明原因の1位は白内障です。それだけ多くの人が悩まされる病気なのです。
白内障の全てが分かる一問一答
Q. 水晶体が濁ってしまう原因はなんですか?
A.
水晶体はほとんどが水と、「クリスタリン」と呼ばれる透明なたんぱく質からできています。このたんぱく質がさまざまな原因で変性し、白濁します。
ちょうど生のときには透き通っている卵白が、熱を加えてゆで卵になると白く不透明になるのと同様、一度変性したクリスタリンを元の透明な状態に戻すことはできません。
水晶体が濁る原因として大きいのが、酸化ストレスと糖化ストレスです。
酸化ストレスは活性酸素によって作られた「細胞のサビ」、糖化ストレスは血液中の糖とたんぱく質が結びついたAGEs(糖化最終産物)が蓄積することでできる「細胞のコゲ」と表現されますが、共に老化の元凶とされます。
酸化ストレスの原因となる活性酸素は、日光の中の紫外線や放射線、喫煙、ストレス、激しい運動などで発生します。
AGEsが増えたたんぱく質は褐変し、柔軟性が失われてもろくなりますから、白内障が進むと、水晶体は白から黄色、さらに褐色に変わり、分厚くなり柔軟性も失われてきます。
また、それ以外の原因としては、ボールなどが目に当たるなど強い衝撃や、花粉症などでよく目をかいたりこすったりするような摩擦刺激で水晶体が傷つくことがあります。
ステロイド剤を用いたことなどにより、水晶体がダメージを受けて、年齢が若くても白内障が発症することもあります。
白内障の全てが分かる一問一答
Q. 白内障ではどのように見えますか?
A.
白内障になったときの見え方は、人それぞれです。水晶体は一面真っ白になるわけではなく、人によって白くなり方が違うので、見え方もさまざまなのです。
水晶体の濁り方によっては、ものを見るときにまぶしいと感じたり、暗いと感じたり、全く逆の症状が現れる場合もあるでしょう。
中でも多い見え方としては、すりガラス越しのように全体がかすんで見えるというものです。また、濁った水晶体を通るときに光が拡散するので、ものが二重、三重に見えることがあります。

正常な見え方

白内障の見え方
白内障になると、水晶体が透明から徐々に白、黄色味を帯びて、進行すると褐色に近くなっていきます。
カメラのレンズにカラーフィルターをかけているようなものなので、白と黄色、黒と濃い青などの色の組み合わせの判別が難しくなっていきます。
そのため、白内障の患者さんでは、ガスコンロの使用中に鍋などの影で暗くなったところで青い炎の先が見えずに袖に火をつけてしまい、大やけどを負う事故が多いのです。

また、光が透過しにくくなるので、コントラスト(明暗の対比)が低いものも判読しにくくなります。
通常の視力検査で用いる真っ白な背景に真っ黒のランドルト環のようなものはよく見えるので、視力はそれほど悪くないのですが、夕方薄暗くなると急に見えにくくなるなど、生活上で不都合を感じる人もいます。
片目で見てもものが何重にもダブって見える | 全体に視界が白くかすんでいる |
夜に信号や街灯など、暗い中で光を見ると光がにじむ | 老眼鏡をかけても本が読みにくい |
白と黄色、濃い青と黒の組み合わせが見にくい | 対向車のヘッドライトがまぶしくてつらい |
色の鮮やかさを感じにくい | 晴れた日の日差しが異常なほどまぶしい |
急に視力が落ち、メガネを新しくしてもよく見えない | 常に視界が薄暗く感じる |
距離感がつかみにくくなった | 夕方薄暗くなると急に見えにくくなる |
白内障の全てが分かる一問一答
Q. 白内障になりやすいのはどのような人ですか?
A.
白内障は老化現象とされますが、同じ年齢でも白内障が進んだ人もいれば、それほどでもない人もいます。
この違いはどこから生まれるのかというと、「目のダメージ」と「目の回復」のバランスによるものです。
「目のダメージ」を増やすのは、上の項で挙げたようなものがあります。
日光を大量に長期にわたって浴びてきた人、例えば農業や漁業に従事したり、マリンスポーツやスキーが趣味の人が、紫外線を防ぐサングラスやゴーグルをしていなければ、白内障のリスクは非常に高いです。
一方のAGEsは、血糖値の高さと高血糖状態の持続時間が長いほど、体内で作られる量が増えます。糖とたんぱく質を含む食品を高温で調理するほどAGEsが作られ、体内に蓄積していきます。
ですから、糖尿病で高血糖状態の人や、AGEsを多く含む食事を多くとっている人は、白内障が進みやすいと言えます。肥満もリスクの一つです。
アトピー性皮膚炎やアレルギーの人も白内障になりやすいことが分かっています。かゆみのためについ目をこする物理刺激とステロイドが影響しています。
喫煙は、酸化も糖化も進めますから、白内障には非常に大きなダメージを与えます。
一方、「目の回復」は主に食事で決まってきます。バランスのよい栄養に富んだ食事をとっていれば、ダメージを消去することができます。
お勧めの食品については下項で詳しく説明します。
白内障の全てが分かる一問一答
Q. 白内障と老眼はどう違いますか?
A.
加齢により進行する白内障と老眼は、確かに混同しがちです。単純に分ければ、ピントが合わずにぼやけて見えているのが老眼、すりガラス越しにかすんで見えているのが白内障と言えるでしょう。
老眼は、レンズ(水晶体)の厚みを変えてピントを合わせる調節機能が衰えた状態です。
近くを見るときには水晶体が厚く、遠くを見るときには薄くなりますが、この厚みを調整できる幅が狭くなります。そのため、40~50㎝以内の近距離が見えなくなったり、手元を見た後に遠くを見るとピントが合うのが遅れたりします。
一方、白内障は、水晶体が白や黄色に濁ってくる病気です。また、生卵の白身に比べてゆで卵の白身のほうが硬いように、白濁した水晶体も硬く、厚くなります。
両方とも加齢などによる水晶体の衰えではあるのですが、老眼は水晶体の厚み調節機能の衰え、白内障は水晶体の透明度の衰えが中心ということになります。
老眼だけであれば、老眼鏡をかければ手元も見えるように、老眼はピントが合ってくっきり見える場所がどこかにはあります。
一方で、白内障はすりガラス越しにものを見ているので、老眼鏡をかけてピントを合わせても、見えやすさは改善しないのが、大きく異なる点です。
白内障の全てが分かる一問一答
Q. サングラスの選び方を教えてください。
A.
紫外線は、白内障の進行に大きく影響します。目の水晶体が紫外線を吸収すると、そのダメージが蓄積されるからです。
紫外線を目に入れない方法としてお勧めなのがあまり色が濃すぎず、紫外線カット効果の高い加工がされているサングラスです。
紫外線は目に見えない光なので、レンズの色合いで吸収できる紫外線量の差はありません。一方で色が濃すぎるサングラスだと、視界が暗くなるので瞳孔が開きます。すると、正面からではなく反射した紫外線などが目に入る確率が多少上がるため、色が薄いサングラスのほうがいいのです。
色よりも、紫外線の吸収率が高いことを明示してあるサングラスを選ぶことが重要です。表記の仕方は商品によっていろいろありますが、紫外線カット率99%以上、紫外線透過率1%以下、UV400と書いてあるものを選びましょう。
紫外線をカットするコーティングは使用しているうちに少しずつはげたり、劣化したりしてきます。高価なサングラスを長く使うよりも、目を守る消耗品として、2~3年ごとに買い替えるといいでしょう。

白内障の全てが分かる一問一答
Q. 白内障を進行させない食事や運動はありますか?
A.
目は光のダメージや直接的なダメージが蓄積しやすく、酸化によって白内障が起こりやすくなっています。そんな酸化を抑制してくれるのが抗酸化物質です。
抗酸化物質としてお勧めなのは、ブルーベリーなどに含まれているアントシアニンです。
また、ルテインも目のダメージを効率よく消去してくれる抗酸化物質です。マリーゴールドという花や、ケール、ゴーヤ、ホウレンソウなど色の濃い野菜にも多く含まれています。
さらには、フルーツなどに多く含まれるビタミンCも抗酸化物質なので、積極的に食べるといいでしょう。
AGEs(終末糖化産物)という物質のとり過ぎも、白内障が進行するので要注意です。AGEsは甘い清涼飲料水、焦げた肉などに多く含まれています。
日々運動を心がけることも、白内障の予防に大切です。
運動にもいろいろありますが、白内障に適しているのは、軽い有酸素運動です。ウォーキングやジョギング、水泳などがこれに当たります。
ちょっとでもいいので、毎日続けることが望ましいのです。30分くらいのウォーキングを習慣づけるだけで、血行がよくなるので、白内障の予防に効果的です。
一方、無酸素運動である短距離走や筋力トレーニングなどの激しい運動は、やり過ぎると、ストレスがかかり活性酸素を増やします。適度に抑える事が必要です。

この記事は『安心』2020年6月号に掲載されています。
www.makino-g.jp