緑内障は非常に身近な目の病気です。しかし病院に行ったものの、主治医の説明が分からないし、頭に入らない…と不安を抱いている人は少なくないのではないでしょうか。緑内障はどういう病気?どんな検査をするの?など、基本的なことを伺いました。【回答】平松類(二本松眼科病院医師)

回答者のプロフィール

画像: 回答者のプロフィール

平松類(ひらまつ・るい)
二本松眼科病院医師。昭和大学医学部卒業。昭和大学病院、彩の国東大宮メディカルセンター眼科などを経て2018年より現職。緑内障手術トラベクトーム指導医。テレビ、雑誌、新聞などでの分かりやすい医療解説に定評がある。『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』(SBクリエイティブ刊)、『「マス目」で気づく目の病気』(翔泳社)など著書多数。

緑内障の全てが分かる一問一答
Q. 緑内障とはどういう病気ですか?

A.
緑内障は、目から入ってきた情報を脳に伝達する視神経」が障害され、神経線維が少しずつ減っていくために、視野が欠けていく病気です。

私たちがものを見るときの仕組みから説明しましょう。

目から入った光は、まずスクリーンに当たる網膜(もうまく)で像を結びます。その像が網膜にある視細胞で電気信号に変換され、視神経を通して脳に伝えられて初めて、脳で映像として認識されます。

緑内障によって視神経が障害されると、ちょうど液晶テレビなどのモニターが「ドット落ち(一点が正常に表示されない不良)」を起こしたように、その視神経が担当していた部分の信号が脳に伝わらなくなります。

視神経は約100万本ありますから、1本2本「断線」しても自覚症状はありません。

しかし「ドット落ち」した部分が積み重なれば、視野が狭まる「視野狭窄(しやきょうさく)」や、視野が部分的に欠けてしまう「視野欠損」といった症状が現れ、最悪の場合、失明に至ります。

画像: 緑内障の全てが分かる一問一答 Q. 緑内障とはどういう病気ですか?

緑内障の全てが分かる一問一答
Q. 視神経が障害される原因は何ですか?

A.
視神経が障害を受ける最大の要因は、視神経に対して過大な「圧力」がかかることです。

眼球は、水晶体を境に「房水(ぼうすい)」というサラサラの液体と、「硝子体(しょうしたい)」と呼ばれる透明なゼリー状の物質で満たされた二つの水風船がくっついたような構造をしています。この水風船を内側から膨らませている力が「眼圧」です。

房水は、毛様体(もうようたい)から分泌され、血管のない水晶体や角膜に栄養や酸素を与えた後、隅角(ぐうかく)から排出され静脈に吸収されます。

画像: 緑内障の全てが分かる一問一答 Q. 視神経が障害される原因は何ですか?

通常であれば、毛様体で作られる房水の量と隅角から排出される量のバランスが取れていますが、隅角にある線維柱帯(せんいちゅうたい)というフィルターが目詰まりを起こすと、うまく排出されなくなります。

本来の容量以上にたまった房水が眼圧を高めると、硝子体側の水風船にもその圧力が伝わり、視神経を圧迫して傷めてしまうのです。

その他の原因としては、強度近視により、眼軸(眼球の奥行)が長くなることが挙げられます。視神経が集合している視神経乳頭は眼球の一番奥にあるため、眼軸が伸びれば視神経が圧迫されて、緑内障が起こりやすくなるのです。

さらには血流の悪さなどが影響し「そもそも視神経が弱っている」ことも原因となります。これには高血圧、低血圧、糖尿病、冷え症、睡眠時無呼吸症候群などが関係します。

緑内障の全てが分かる一問一答
Q. 緑内障にはどんな種類がありますか?

A.
まず、何か他の原因によって眼圧が上がって起こる「続発緑内障」(後述)と、他に原因がない「原発緑内障」があります。

原発緑内障はさらに、房水の出口である隅角の狭さで「閉塞隅角緑内障」と「開放隅角緑内障」に分けられます。

閉塞隅角緑内障は、隅角がふさがれて房水が排出されなくなるため、あるとき突然急激に眼圧が上がり、一気に視神経が障害されて失明する危険があります。目の痛みや吐き気、頭痛などの「急性緑内障発作」を伴います。

画像: 閉塞隅角緑内障

閉塞隅角緑内障

一方、開放隅角緑内障は、隅角は開いているものの、房水によって運ばれる老廃物を濾過する「線維柱帯」という部分が詰まり、房水が排出されにくくなった状態です。出口の目詰まりは少しずつ起こるので、症状も少しずつ進んでいきます。緑内障の8割が、この開放隅角緑内障です。

画像: 開放隅角緑内障

開放隅角緑内障

続発緑内障の原因としては、目のぶどう膜炎、手術後、ケガなどの他、糖尿病や脳疾患、またステロイドなどの薬の副作用によるものもあります。この場合、元の原因の治療も重要です。

緑内障の全てが分かる一問一答
Q. 眼圧は正常値なのに緑内障と診断されました。なぜですか?

A.
正常眼圧範囲は10~21mmHgとされています。しかし、眼圧がこの値内にあるにも関わらず、視神経に障害が見られ、視野の狭窄や欠損の症状が出る場合があります。これが「正常眼圧緑内障」です。

以前は、緑内障は眼圧が高まることで、視神経が障害され視野が欠けていく病気だと考えられていました。しかし、実は日本人の緑内障患者の約6割は、この正常眼圧緑内障なのです。

眼圧は「正常」なのに障害が起こるとはどういうことか。

本来、この10~21mmHgという数値は「病気を起こさない安全な値」という意味ではなく、「この範囲に納まる人が多い」という目安であり、「通常眼圧」や「平均眼圧」などと呼ぶ方が実態に近いのです。

緑内障が起こるかどうかは、その人の眼圧と視神経の強さの関係で決まりますが、視神経の強さには非常に個人差があります。

25kgの荷物を平気で持っていられる人もいれば、10kgの荷物でも耐えられない人もいるように、眼圧が正常範囲であっても、その負荷に視神経が耐えられない場合もあるのです。

私の患者さんの中には、眼圧が10mmHgという正常眼圧の下限値でも、緑内障を起こしている人もいます。

画像: 緑内障の全てが分かる一問一答 Q. 眼圧は正常値なのに緑内障と診断されました。なぜですか?

緑内障の全てが分かる一問一答
Q. 緑内障の検査はどのようなものですか?

A.
緑内障で行われる主な検査は「眼圧検査」「眼底検査」「OCT検査」「視野検査」「隅角検査」などです。

眼圧検査では、眼球に圧搾空気を吹きつけて、眼球の弾力性から眼圧を測定します。プシュッと目に空気が当たるので驚くかもしれませんが、痛みはありません。

眼底検査は、眼底カメラや眼底鏡などを使って眼底(目の奥)を観察し、異常を調べます。眼底は全身で唯一、外から直接血管や神経の出入り口が観察できる部位で、緑内障以外の病気の発見にも役立ちます。症状がなくても、年に一回は受けておきましょう。

OCT(光干渉断層撮影)検査は、網膜の断面を測定し、網膜の厚みや視神経の状態を測る検査です。

視野検査では、視野に欠損があるかどうかを確認し、ある場合には視野欠損の位置や程度などを調べます(詳しくは下項参照)。

そして、隅角検査では、隅角鏡という専用コンタクトレンズを着用し、隅角の閉塞や開放の状態を調べます。

緑内障の全てが分かる一問一答
Q. 視神経乳頭陥凹拡大とはどのような状態ですか?

A.
健康診断などで「視神経乳頭陥凹拡大(ししんけいにゅうとうかんおうかくだい)」として精密検査を勧められることがありますが、即、緑内障につながるわけではありません。

「視神経乳頭」というのは、目のスクリーンに当たる網膜に広がっている約100万本の視神経が眼球の奥(眼底)で集まって1本の束になり、脳につながるために眼球を突破する「穴」の部分です。

網膜全体から集まってきた視神経が、視神経乳頭を通るときにはゆるいカーブを作って曲がるため、視神経乳頭はすり鉢状にへこんでいます。これが「視神経乳頭陥凹」で、緑内障でない人にも見られる形状です。

この視神経乳頭陥凹が通常よりも大きくなっているのが、「視神経乳頭陥凹拡大」です。緑内障で視神経が障害されて本数が減っていくと、その分、視神経乳頭に集まる視神経が作る層が薄くなり、すり鉢の直径が大きくなっていきます。

画像: 緑内障の全てが分かる一問一答 Q. 視神経乳頭陥凹拡大とはどのような状態ですか?

しかし、視神経乳頭陥凹の大きさは個人差が大きいのです。「視神経が減少したから、へこみが大きくなった」のか、「元々へこみが大きいだけ」なのかを視神経乳頭陥凹の大きさだけで測ることはできません。

視神経乳頭陥凹を測る眼底検査は、暗いところで瞳孔を開きカメラで撮影するだけなので、数分で簡易に痛みもなく行えます。

緑内障のスクリーニング(ふるい分け)の一つとして有効ですが、網膜の断面を撮影し、視神経の層の厚みを計測するOCT(光干渉断層計)検査などの結果と合わせて、判定する必要があります。

緑内障の全てが分かる一問一答
Q. 緑内障が自然に治ることはありますか?

A.
残念ながら、現在の医療ではまだ、一度失われた視神経を再生させることはできません。緑内障の治療目標は、「治す」ことではなく「死ぬまで失明させない」ことなのです。

緑内障と診断された場合、できるのは視神経への負担を減らし、緑内障の進行を遅らせることだけです。具体的には、目薬ないし内服薬を使って眼圧のコントロールをします。

進行が早くて、薬で思うような効果が得られない場合には、レーザーや手術で眼圧を下げる治療を行います。レーザー治療や手術をした後も、眼科には定期的に通い、目薬や内服薬を使い続け、再手術が必要になることもあります。

緑内障の全てが分かる一問一答
Q. 緑内障になりやすいのはどういう人ですか?

A.
家族に緑内障にかかっている人がいる。強度近視。女性。40代以上の人、が特に高リスクですが、誰にでも起こりうる病気だと考え、毎年一度は眼圧検査と眼底検査を受けることをお勧めします。

さらに、喫煙習慣がある人、激しいいびきとともに呼吸が一時的に止まる睡眠時無呼吸症候群の人、低血圧や冷え症、首や肩のこりが強い人は眼底の血流が悪いことが多く、視神経が弱って眼圧に負けやすい傾向があります。

また、糖尿病から緑内障を起こすこともあります。糖尿病の合併症でよく知られているのは「糖尿病性網膜症」ですが、糖尿病だともろくて壊れやすい血管ができやすくなります。そうした血管やそこからの出血が、房水の出口をふさいで眼圧が高くなりやすいのです。

また、強いストレスにさらされている人も緑内障のリスクが高くなります。

緑内障気質」という言葉がありますが、細かいことにまで気を遣い、自分のことよりも他人を優先。責任感が強く先のことまでよく考えているような人が、緑内障の患者さんには多いのです。

これは裏を返せば、細かいことを気にし過ぎて、ストレスがたまりやすい性格ともいえます。

緑内障と診断され、失明の恐怖にストレスをためるのは緑内障に悪影響となります。しっかり治療をすれば緑内障でも視力を維持することはできます。几帳面な性格のあなたなら、長期にわたる治療も乗り越えられるはずです。

緑内障の全てが分かる一問一答
Q. 視野検査で目を動かしてしまったり反応が遅れたり、リズムで押してしまうことがありますが、検査に影響はありますか?

A.
視野検査は、片方の目ずつ、「目を動かさずに見えている範囲」を調べる検査です。

半球状の機械の中で、指示された中央の光を見つめたまま、周囲で一瞬光ったのを感知したら即ボタンを押します。そうやって、視野の中で見えているところ、見えていないところを判定します。

視野検査を受けた患者さんが「ちゃんとできなかったかもしれない」と心配されることがあります。目を動かさないように言われても、チカチカといろいろな明るさの小さな光がさまざまな場所で点滅するのを感知しようとするのですから、光ったと感じた方へつい目線が動いてしまうこともあります。

光ったか光っていないか判断に迷いが出て、ボタンを押すタイミングを失うこともあるでしょう。反対に、集中力が途切れて、見えていないのに適当に押してしまったときもあるかもしれません。

そうしたミスがあったとしても、問題はありません

基本的に機械が目の動きやまばたき、年齢による反応速度を考慮した上で判定を出しています。明らかに適当に押している場合にはいったん止め、休憩してから再検査になります。

そもそも視野検査は、体調などによっても変化が大きいので、検査結果を経時的に比較することが重要であり、1回の結果を診るものではないのです。

ついまばたきを忘れがちになりますが、いつも通りにリラックスして、額を離さないようにしながら受けてください。

画像: この記事は『安心』2020年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年6月号に掲載されています。

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