解説者のプロフィール

齋藤嘉美(さいとう・よしみ)
元東京大学医学部講師・介護老人保健施設むくげのいえ施設長、1932年東京都生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部講師を退官後、西新井病院病院内科医師などを経て、現職。タマネギの健康効果研究の第一人者。
▼専門分野と研究論文(CiNii)
切ったら30分放置するとよい
数ある食品の中で、タマネギほど健康効果の高い野菜は、そう多くはありません。
その健康効果をもたらす成分は、大きく二つに分かれます。一つは、有機硫黄化合物です。これは、同じネギ属のニンニクにも含まれている成分ですが、ニンニクよりもタマネギのほうが、種類も量もはるかに多いのです。
もう一つは、フラボノイドの一種であるケルセチンです。タマネギのケルセチンは、量が多いだけでなく、質的にも優れています。吸収が極めて速く、血液に入ると血中濃度が高くなり、半減期(血中濃度が半分に減るまでの時間)が長いのです。したがって、血中に長くとどまって、効果を長時間発揮します。
では、それぞれがどのような成分でどんな作用を持つのか、お話ししましょう。
●有機硫黄化合物
有機硫黄化合物には、次の三つの種類の成分があります。
①タマネギにもともと存在する成分
②タマネギを切ったときに、新しくできる成分
③香り成分
①で最も多いのはイソアリインで、細胞の中の原形質に存在します。
②の代表的なものは、チオスルフィネートです。タマネギを切ると、タマネギの細胞が破壊されて、アリナーゼという酵素が放出されます。この酵素とイソアリインが反応すると、チオスルフィネートができます。
チオスルフィネートには、がんやぜんそくの抑制作用、血糖低下作用、血小板の凝集を抑制する作用などがあります。
チオスルフィネートは、タマネギを切って20~30分たつと生成されます。アリナーゼは、加熱すると活性を失うので、タマネギを加熱調理するときは、切って20~30分ほど置いてからにすると、チオスルフィネートの効能を生かすことができます。
③は、タマネギを切ったときに生じる香り成分です。量的に多いのは、サイクロアリインという物質で、これにもがん抑制、血糖低下、脂質低下、血流改善などの作用があります。
これらの有機硫黄化合物は、加熱によって損なわれることはありません。ただし、水に溶けやすいので、調理の際に、水に長時間さらすと、失われます。
●ケルセチン
ケルセチンは、害虫や紫外線などから自分の身を守るために植物が備えている成分「フラボノイド」の一つです。タマネギの可食部や外皮に含まれ、強い抗酸化作用があります。
抗酸化作用とは、活性酸素を除去する作用のことです。活性酸素は、酸化力が非常に強い酸素で、これが過剰になると、老化やがん、動脈硬化など、さまざまな病気を引き起こします。
ケルセチンには、活性酸素の害を防いで、動脈硬化やがん、老化を防ぐ作用があります。さらに、女性ホルモン(エストロゲン)様の作用もあり、骨粗鬆症(骨がもろくなる病気)の予防に有効です。また最近では、認知症の予防・改善に役立つ、との研究もあります。
このようにタマネギには、いろいろな有効成分が豊富に含まれています。それを存分に活用するためには、調理の際に、以下の2点を守りましょう。
・タマネギを切ったら、そのまま20~30分放置する
・水にはなるべくさらさない
この2点を守れば、後はどう調理しても大丈夫です。
普段、タマネギを使った料理を作るときに、これを実践すると、より体にいい料理になりますから、ぜひ覚えておいてください。
酢と合わせるのはお勧めの食べ方
タマネギは、これまでにいろいろな食べ方が考案されてきましたが、一番有名なのが、「酢タマネギ」でしょう。
酢タマネギは、タマネギの食べ方としてはとてもお勧めの組み合わせです。なぜなら、酢とタマネギには共通する作用が多く、二つを組み合わせることで、次のような相乗効果が期待できるからです。
●脂質改善効果 ●降圧効果 ●血糖改善効果 ●血流改善効果 ●抗炎症、殺菌効果
こうした作用の他、酢には、タマネギにないストレス緩和効果、疲労回復効果などもあります。
酢タマネギで期待できる健康への効果
血栓を防ぎ血流をよくする
酢には、赤血球変形能(赤血球を柔らかくして変形しやすくする能力)があり、毛細血管の血流をよくします。タマネギにも、血液が固まりやすくなるのを防いで、血栓を予防したり血流を改善したりする作用があります。
血糖値の上昇を抑える
糖の燃焼を助けたり、インスリンの感受性を高めたりして、血糖値の上昇を防ぎます。
血中脂質を減らす
酢にもタマネギにも、LDLコレステロールや中性脂肪を減らす作用があります。
血圧を下げる
血圧を上げるアンジオテンシン変換酵素(ACE)の働きを阻害して、血圧を下げる作用があります。また、調味料として使うと、減塩できて血圧降下に役立ちます。
炎症を防ぎ殺菌にも役立つ
菌による感染症、熱や腫れなどの炎症症状を抑えます。
1日の摂取量は50gで十分
今まで述べてきたタマネギの健康効果を得るには、新タマネギではなく、辛味の強い通常のタマネギがお勧めです。市販されているタマネギの大部分は、このタイプです。
私自身も、毎日のようにタマネギを食べています。私が好きなのは、スライスしたタマネギと、缶詰のサーモンをあえたものです。
栄養的にも、タマネギの有効成分に、サーモンのアスタキサンチン(カロテノイドの一種)、魚油(EPA、DHA)などが加わって、抗がん作用や血液サラサラ作用がパワーアップします。
1日に食べる量としては、200gくらいの大きさのタマネギを、4分の1個程度でいいでしょう。下に、症状別の1日のタマネギ必要摂取量の目安の表を載せますので、そちらもあわせて参考にしてください。
目的 | 摂取量(1日) |
---|---|
がん予防 | 1/2個以上 |
血栓予防 | 1/4個以上 |
脂質(コレステロール・中性脂肪)改善 | 1/4個以上 |
高血圧 | 1/4個以上 |
糖尿病 | 1/4個以上 |
気管支ぜんそく | 1/4個以上 |
抗炎症・抗菌 | 1/4個以上 |
骨粗鬆症 | 1/4個以上 |
フラボノイドの一日の摂取量は25mgとされていますが、200gのタマネギなら、2分の1~4分の1個で、必要なケルセチンがとれます。
がんについては、欧米人で半分とされているので、体の小さな日本人は、5分の2個くらいでいいでしょう。
ただ、タマネギは安全な食品ですが、注意した方がいい人もいます。それは、血小板凝集を抑える抗血小板薬や、血栓(血液の塊)を抑える抗凝固薬を服用している人です。
タマネギには血液をサラサラにする作用があるので、薬と併用すると、人によっては、出血傾向が強くなる恐れがあります。心配な場合は、医師に相談した上で食べましょう。
また、タマネギを生で食べると、特に胃の弱い人は、胸焼けや胃もたれなどの症状を起こすことがあります。この場合は、食べる量を少なめにするか、あるいは加熱したものを食べるようにするといいでしょう。

この記事は『安心』2020年6月号に掲載されています。
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