解説者のプロフィール

冨澤敏夫(とみざわ・としお)
1969年生まれ。院長を務めるさいたま中央フットケア整体院は、全国各地から足の悩みを持つ患者さんが来院する駆け込み寺的存在。整体+セルフケア+体重管理指導のトータルケアを行う。著書に「《不安定足首》と《ペンギン歩き》を治せばしつこい「足の痛み」は消える!」(現代書林)がある。https://www.kokansetu.info/
30代で空手を引退したら、股関節に激痛が!
当院のモットーは、「患者さんを通わせない」こと。基本的に3回の通院で、体の痛みを改善に導くことが目標です。
私は、中学生から空手を始め、指導者としても20年以上活動してきました。長年続けた空手ですが、30代後半で完全引退。すると、練習をしなくなったことが引き金か、股関節に違和感を覚えるようになりました。最初は違和感だけでしたが、40代になると、股関節が極端にかたくなり、とうとう痛みが出てきたのです。
まさに激痛でした。しゃがむだけで痛むので、靴下も満足に履けません。歩くときは、足を引きずるようになり、しだいに座っているだけでも痛みが出るように……。ついには、夜、寝ているときもズキズキと痛むようになったのです。
日常生活はもちろん、整体院の仕事にも支障を来すようになりました。あたりまえですが、足を引きずっている先生に施術してほしい患者さんは1人もいません。
そこでまずは、股関節痛の改善に定評がある施術家を探し、各地の治療院に足を運びました。このとき、いろいろな先生から施術を受けたり、股関節痛に効くと話題のストレッチを試しました。それらの経験のなかで、自分の痛みがどうしたら和らぐのか、試行錯誤をくり返していきました。
そして、仮説と検証を重ねた結果、ついに股関節痛に特化した治療法を確立したのです。それにより、私自身の股関節痛も完治して、全くできなかった開脚も可能になりました。歩行はもちろん、日常生活で困ることは一つもありません。
現在では、この自分自身の経験と、たどり着いた治療法をもとに施術に当たっています。股関節の痛み、つらさを知る私だからこそ、患者さんの悩みに、本気で寄り添うことができると自負しています。
肩をほぐすと歩行が楽になる
今回ご紹介するストレッチは、私がたどり着いた治療法における重要な取り組みの一つで、患者さんに自宅で必ず行ってもらうプログラムです(やり方は下項参照)。このストレッチには、一般的な股関節痛対策のストレッチと大きく異なる点があります。
それは、一見すると股関節と関係ないと思われがちな「肩」の運動を組み込んだ、「肩回しストレッチ」を中心に、股関節周辺の筋肉を刺激する、という点です。
股関節痛を抱えている人は、悪いほうをかばいながら生活しているので、どうしても体の片側がかたくなりがちです。その影響は、肩にも及びます。
かたくなった肩をほぐせば、腕の振りがスムーズになって、歩行が楽になります。これまでの施術の経験から、この歩行の改善により、股関節への負担が大きく減り、痛みが和らぐことがわかっています。ですから、肩の運動を組み入れているのです。

上半身を緩めることが股関節の負担減につながる
ストレッチのポイントを詳しくお伝えしましょう。行うときは、左右の股関節のうち、痛いほうだけ行ってください。痛いほうの股関節を集中して緩め、左右のバランスを取るためです。(左右どちらも痛い場合は、両方行ってください。)
ステップ①でお尻をほぐすのは、ここに立ったり座ったりするときに体を支える筋肉があるからです。また、股関節を安定させる役割もあります。股関節痛のかたは、お尻の筋肉がかたくなっている場合が多いので、念入りにほぐしましょう。
ステップ②と③で、肩をほぐします。先ほどお伝えしたとおり、肩関節をやわらかくすることで、上半身を緩めることが目的です。力を入れず、息を止めないように意識して行いましょう。
ステップ④では、太もも前面部にある筋肉(大腿四頭筋)を緩めます。この筋肉がかたいと、太ももの骨(大腿骨)が、上へと引っ張られてしまい、股関節の余裕がなくなるのです。大腿四頭筋を緩めれば、股関節のすきまが拡がり、軟骨どうしの衝突を防げます。
この肩回しストレッチは、就寝前、入浴したあとに行うと、より効果的です。股関節をよい状態にしてから寝ることで、体の修復力が高まり、股関節の痛みが軽くなる、という好循環が生まれます。
このセルフケアを教えるようになって、いつしか当院は、「どこに行っても改善しなかった痛みがよくなる」と話題となり、北海道から沖縄まで、全国から患者さんが訪れるようになりました。
整形外科の医師から、すぐに手術が必要といわれた変形性股関節症の女性(50代)も、3回の通院でみごと痛みが改善。その後も、お伝えしたセルフケアを続けていて、今でも手術を回避できています。
ほかにも、「あぐらをかけるようになった」「手すりにつかまらずに、階段をスタスタ上れた」など、たくさんの喜びの声をいただいています。
股関節痛に苦しむかたにはもちろんですが、今現在、股関節痛を抱えていないかたにも、ぜひ予防としてお試しいただきたいと思います。
肩回しストレッチのやり方
①~④までの4ステップを1セットとし、3セットを目安に行います。痛くない程度に、リラックスして無理せずゆっくり行いましょう。
STEP ❶ お尻マッサージ
・痛いほうの股関節を上にして、横向きに寝る。
・足首とひざ、股関節の角度がそれぞれ90度になるように上側の足を曲げる。床側の手は頭の下に置く。
・お尻エクボを人差し指、中指、薬指の3本で強めに20回マッサージし、股関節周辺の筋肉を緩める。
※お尻エクボは、お尻の穴をキュッと締めたときにお尻の下部にできる大きめのくぼみのこと。わからなければ、お尻全体を入念にマッサージするだけでもOK!

直接地肌をマッサージするほうがよい。

痛みがある場合は、ひざの下にクッションを入れる。
STEP ❷ 腕を縦に振る
・足と床側の手はSTEP①の状態のまま、上側の手を大きく頭の上まで上げて、太ももの横に戻す。
・これを10回くり返し、肩関節を伸ばす。
・10回めは腕を頭の上まで振り上げたまま深い呼吸をしながらリラックスした状態で10秒キープ。

STEP ❸ 腕を横に振る
・足と床側の手はSTEP②の状態のまま、上側の手のひらを前方向の床につけ、次にその手を背中側に大きく開く。
・これを10回くり返し、胸を開く。腰をひねるのではなく、胸の筋肉を伸ばすように行う。
・10回めは腕を開いた状態で10秒キープ。

腕といっしょに顔も動かすと、胸が大きく開く!
STEP ❹ 足の甲を引っ張る
・床側の手と足はSTEP③の状態のまま、上側のひざを曲げて手で足先を持ち、背中側にリズミカルに引っ張って緩める。
・これを10回くり返す。
・10回めは足を引っ張った状態で10秒キープ。足に力を入れず、リラックスして行う。

おなかを突き出すようにする。

足に手が届かない場合は、立ってイスにつかまってもOK!

この記事は『壮快』2020年6月号に掲載されています。
www.makino-g.jp