ガニ股は股関節にとって自然で安定する姿勢
変形性股関節症は、足のつけ根にある股関節の軟骨がすり減って、痛みが出たり、動きが制限されたりする病気です。
その主な原因の一つに、寛骨臼形成不全があります。
寛骨臼(臼蓋)は、骨盤側にある骨で、茶碗をひっくり返したような形をしており、大腿骨の先端にある丸い骨(大腿骨頭)を覆っています。その傾きや形には、個人差があります。
股関節は、歩いたり、走ったりすることで、体重の数倍の負荷がかかります。そのため、臼蓋と大腿骨頭の間にある軟骨は、日々傷めつけられますが、通常は滑液(関節内液)の働きにより、ひと晩かけて修復されます。
ところが、成長期までに臼蓋の発育がうまくいかないと、覆う面積が狭いため、軟骨の損傷が通常よりひどくなり、ある年齢からは、ひと晩では修復できなくなります。こうして、変形性股関節症を発症するのです。
生まれたばかりの赤ちゃんは、ガニ股のように足を開いています。この形が股関節にとって自然であり、最も安定する姿勢です。ですから、臼蓋が出来上がる5歳ごろまでは、なるべく足を広げてガニ股の姿勢を取らせると、臼蓋が大腿骨頭を覆えるようになります。
変形性股関節症は、特に女性に多い病気です。女性は、妊娠時や、育児中のだっこなどで荷重が増え、股関節に負担がかかります。ですから、股関節が悪い女性も、このガニ股の姿勢を取ることが大事なのです。
動かしやすくなって股関節が安定する
お相撲さんは、「しこを踏む」ことで、しっかりとした股関節をつくっています。そうしないと、おそらく捻挫や脱臼をしてしまうでしょう。
私は、変形性股関節症の多くを外科手術で治していますが、術前術後に患者さんに勧めていたのが、「しこ」の姿勢を基本にした運動です。この姿勢は、赤ちゃんのガニ股とほぼ同じです。私が勧める運動は、これをヒントに考案したものです。
現在、股関節痛のある患者さんには、投薬で痛みを減らし、しこなどの運動を行ってもらっています。そのなかには、手術の先送りや回避ができている人も少なくありません。
しこの目的は二つあります。
一つは股関節の可動域を広げてよく動くようにすること。これで、滑液の働きにより軟骨の修復を図ります。
もう一つは、足やお尻の筋力を強化し、股関節の安定を確保することです。
変形性股関節症が進行すると、まず足が開きにくく、伸びにくくなります。開きにくくなるのは、太ももの内側にある内転筋、伸びにくくなるのは前側にある大腿四頭筋と、腸腰筋(背骨と大腿骨をつなぐ筋肉)が関係しています。そのほか、股関節周囲の筋肉が拘縮して短くなると、股関節が動かしにくくなります。

しこは、これらの筋肉を緩めて拘縮を取る運動です。やり方もいくつか種類がありますが、ここでは、どなたにもお勧めの横しこをご紹介します。特に、内転筋を緩める効果は抜群です。
内転筋は足を閉じるときに使う筋肉です。この筋肉が拘縮していると、股関節をうまく開くことができません。
横しこは、足をなるべく広く開いて立ち、ひざを曲げてゆっくり腰を落とす運動です。1回をゆっくりと行い、10回ほどくり返します。

股関節周囲の筋肉を緩め鍛える「横しこ」のやり方
1日に2~3度、行いましょう。何度も行う必要はありません。股関節が痛い人は、最初は無理をせず、痛くない範囲で行いましょう。
少しずつでも毎日続けていると、だんだん股関節が動かしやすくなります。動かすことで、大腿骨頭が臼蓋の中に納まってきます。
また、股関節が動くようになると、栄養や酸素を供給している滑液が関節全体に行き渡り、すり減った軟骨が修復されやすくなります。さらに、股関節を支えている筋肉が強くなるので、股関節の安定性が増し、痛みの軽減にもつながります。
こうして、少しでも股関節の状態がよくなると、少々痛みがあっても気にならなくなります。すると、よく歩けるようになり、さらに筋力がついてきます。
女性はふだんからなるべくズボンをはき、横しこを行ってください。また、お行儀はよくないですが、人前でなければ、足を開いて座るようにしましょう。それだけでも足が外転しやすくなり、股関節を守ることができます。
変形性股関節症は、最終的には人工股関節置換術という切り札があります。しかし、あくまでも手術は最後の選択です。骨の状態が悪ければ、手術後にも骨折などの危険性があります。ですから、術後も横しこなどの運動に取り組んでください。骨が丈夫になり、そうしたリスクの回避にもつながります。

この記事は『壮快』2020年6月号に掲載されています。
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