解説者のプロフィール

平柳要(ひらやなぎ・かなめ)
医学博士。東京大学大学院医学研究科修了後、イタリア・パルマ大学客員研究員、ハーバード大学客員研究員などを経て、日本大学医学部准教授となる。現在、㈱食品医学研究所の代表兼所長。著書に『病気にならない焼きネギ健康法』(サンマーク出版)など多数。
ネギはたたいて斜め切りにするのがコツ
今、世界中に広がっている新型コロナウイルスには、まだワクチンも治療薬も開発されていません。そうした感染症に対して、私たちにできることは、日ごろからウイルスに対する抵抗力を高めておくことです。
そこで皆さんにお勧めしたいのが、抗ウイルス作用(ウイルス不活化作用)の強い食品を積極的にとることです。
抗ウイルス作用を持つ食品で、私のいち押しは「焼きネギ」です。長ネギを切ってオリーブオイルに漬け、それを焼くだけの簡単な料理です。
ネギの甘みが口中に広がって、病みつきになるおいしさですが、新型コロナやインフルエンザのようなタイプのウイルスに効く可能性があるのです。
ウイルスには、脂肪の膜(エンベロープ)に覆われたエンベロープ・ウイルスと、膜がないノンエンベロープ・ウイルスがあります。新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスは前者、ノロウイルスやアデノウイルス(カゼの代表的なウイルス)は後者になります。新型コロナウイルスは、こうした膜で免疫などから身を守っているので、なかなか死滅しません。

新型コロナは脂肪の膜で身を守っている!
新型コロナウイルスの感染予防にアルコール消毒や手洗いが有効なのは、アルコールや石けんが膜を壊し、ウイルスにダメージを与えるからです。そして同様の効果が、焼きネギにも期待できるのです。
長ネギの白い部分には、イソアリインという、無臭の成分が含まれています。これを切ったりたたいたりすると、細胞が壊れて、アリイナーゼという酵素と反応し、イソアリシンという、におい成分に変わります。
米国ブリガムヤング大学の試験管内実験では、このイソアリシンがエンベロープ・ウイルスの膜を破壊することが判明。抗ウイルス作用を持つのです。
次に、この切った長ネギを100度以下で加熱すると、イソアリシンはスルフィドという成分に変化し、さらに油によってその一部がアホエンという成分に変わります。
こうして変化した長ネギの成分はいずれも、免疫調節力を高めたり、病原体に対して抗ウイルス作用や、抗菌作用、抗真菌作用を発揮したりすることが、ポーランドのヤギェウォ大学の研究などでわかっています。
さらに、長ネギの青い部分の内側や、白い部分の芯のほうには、ヌルヌルしたものがあります。これはフルクタンという水溶性の多糖類です。
メキシコ国立工科大学高等研究センターの研究によると、フルクタンは腸管内の免疫細胞に作用して免疫を適正に調節したり、ウイルスが細胞表面に付着するのを防いだりする働きがあるそうです。
このように長ネギには、ウイルスから体を守ってくれる多様な成分が含まれているのです。
これらの成分は調理のしかたによって変化しますが、それを余すところなくとれるのが焼きネギです(作り方は下記参照)。有効成分をしっかりとるためには、三つのポイントがあります。
一つは、長ネギをたたいて斜め切りにすること。切る前かあとにネギを麺棒や包丁の背で軽くたたいてください。たたくことや、斜め切りにして切り口を大きくすることで、細胞が壊れて酵素の反応がよくなり、イソアリシンが増えます。
二つめは、切ったネギを油に漬けること。抗ウイルス作用が強力なアホエンは脂溶性なので、油に漬けることで増えます。1日くらい漬けるとよりいいのですが、焼く前の20〜30分でもかまいません。使う油は、熱に強いエキストラバージンオリーブオイルをお勧めします。
三つめは、強火でサッと焼くこと。イソアリシンが多いままでは、刺激が強過ぎて胃の粘膜を荒らすおそれがあります。強火でサッと焼くことで、表面部分のイソアリシンを分解し、胃腸への負担を軽減します。また、内部にはスルフィドがたっぷり残ります。
これを1日15cm(11g)ほど食べます。朝食と夕食の2回に分けて食べてもいいでしょう。また、たくさん焼いて冷蔵庫で保存すれば、数日は持ちます。
焼きネギの作り方
【材料】(2人分)
・長ネギ…1本
・オリーブオイル…適量
※エキストラバージンオリーブオイルがお勧め
【作り方】

❶長ネギを麺棒か包丁の背でまんべんなく軽くたたく。

❷①のネギを斜め切りにする。青い部分も切る。

❸②を保存容器に詰め、オリーブオイルがひたひたになるまで入れる。

❹20~30分ほど漬けたら、フライパンにのせて、中火~強火で焼く。表面がキツネ色になるまで熱し、反対側も同様にキツネ色をつけると出来上がり。

◎1日に15cm(11g)ほど食べる。
【焼きネギをまとめて作る場合】
保存袋などに入れて冷凍庫で保存。食べる分だけをレンジで解凍して食べるとよい。また、2~3日中に食べるなら冷蔵庫に保存してもよい。
病原性細菌だけを選択的に殺すハチミツ
もう一つお勧めしたい食品が、ハチミツです。
国立シンガポール大学の研究によると、ハチミツのポリフェノールがウイルスの遺伝子や脂肪膜の合成を阻害する効果がわかっています。
長崎大学の研究では、特にマヌカハニー(ニュージーランドに多いマヌカという植物からとれるハチミツ)やソバハチミツの成分がインフルエンザウイルスの膜を破壊し、増殖を抑える力が強いこともわかっています。これは新型コロナウイルスの抑制にも期待が持てます。
さらに、ハチミツに含まれるオリゴ糖は、腸内の善玉菌のエサになり、腸内環境を整え、免疫調節力を高めてくれます。
ハチミツのなかでも、抗ウイルス作用が強いのはマヌカハニーですが、ウイルス対策として毎日とるのなら、安い物で十分。ソバやアカシア、百花蜜などの一般的なハチミツでも抗ウイルス作用は期待できます。
なお、ハチミツは抗菌作用も優秀です。ハチミツのグルコースオキシターゼという酵素が、グルコース(糖)を殺菌作用のある過酸化水素に変え、病原性細菌だけを選択的に殺します。
つまり、口に含んでいると、口内の有用菌は残しつつ、歯周病や虫歯などの悪い細菌だけを殺してくれるのです。
しかも、イランのマシュハド医科大学の研究では、ハチミツ70gを1ヵ月間、毎日とり続けても、空腹時血糖値が上がるどころか、4%も下がりました。
ハチミツのとり方

◎マヌカハニー(中央)ほどではないが、どのハチミツにも抗ウイルス作用がある。

◎外出前にスプーン1杯のハチミツを口に含み、ゆっくり食べる。

◎あるいは、抗ウイルス作用を持つ緑茶に入れて飲むとよい。
ハチミツは、1日に数回、口に含ませて、すぐに飲み込むのではなく、ゆっくりなめるといいでしょう。1日にとる量は、30g(大さじ1杯)を目安にしてください。外出前に小さじ1杯(5g)を口に含んでから出かけるのもお勧めです。
茶カテキンによる抗ウイルス効果を持つ緑茶(煎茶)にハチミツ小さじ1杯を溶いて飲めば、より効果的な抗ウイルス効果を得られるでしょう。
焼きネギもハチミツも、一度にたくさんとる必要はありません。少しずつでいいので、毎日とり続けて、ウイルスなどの病原体に負けない体をつくり、感染症を防ぎましょう。

この記事は『壮快』2020年6月号に掲載されています。
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