解説者のプロフィール

吹野治(ふきの・おさむ)
ふきのクリニック院長。1975年、鳥取大学医学部卒業。九州大学医学部心療内科に勤務後、講師に着任。国立療養所鳥取病院医長、静岡県総合健康センター健康科学課長、松原徳洲会病院内分泌代謝内科部長などを経て、2004年、健康の森内科診療所所長に就任。08年、ふきの予防医学研究所・ふきのクリニックを開院。専門は内科、心療内科。予防医学のほか漢方や自然医学(断食療法、西式健康法)の研修も行う。
▼ふきのクリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
食べる量を減らしたら体が丈夫になった
私は、現代の病気のほとんどは食べ過ぎ、しかも体によくない食品の過剰摂取によって起こると考えています。
胃腸の処理能力を超えて食べ過ぎると、腸管内に排出物が停滞します。いわゆる宿便です。すると、腸の動きが悪くなり、有害な毒素が発生し、腸内環境が悪化します。その結果、腸管の免疫力が低下して、さまざまな病気を招くのです。
食事の量を減らし、体に悪い食品を極力とらないようにすると、みるみるうちに健康になります。私自身、「少食健康法」を30年以上続け、虚弱体質を、ほぼ克服できました。
私は生まれたときから体が弱く、中学校・高校時代に慢性腎炎を患いました。そのせいで、体育の授業は2年間、見学組でした。当然、病院に通っていましたが、はかばかしい改善はありません。
私が医師を志したのも「虚弱な体質を少しでも改善して人並みに元気になりたい」と願ったからです。しかし、私に希望を与えてくれたのは、西洋医学ではなく、「断食」でした。
医学部在学中に、断食道場に赴き、本格的な断食を、2回体験しました。1回めは、入所1ヵ月間で断食は10日間。胃腸の調子がよくなり、悩みの種だった蓄膿症が改善。「これは本物だ」と確信しました。
翌年の夏休みには、別の道場に40日間、入所しました。この2回めの断食は18日にわたり、私には少々きつかったのですがいい勉強になりました。
その後、少食療法で高名な、故・甲田光雄先生と出会い、先生のもとに体験入院することになりました。そこで、厳しい断食よりも、食べる量を減らす少食療法のほうが自分の体に合っていることを知り、実践するようになったのです。
おかげで、医師として働くようになって以降、休診日以外に仕事を休んだことは一度もありません。カゼをひくことはあっても、働きながら治します。
実際、甲田先生も、数々の病気に少食療法が有効であると、症例を報告されています。
食事の量で免疫機能に大きな差が出る
私がこうして健康体になることができたのは、ひとえに少食により、自然治癒力が高まったからでしょう。それを私は、研究により実証しました。
私は、静岡県の健康センターで予防医学の調査に携わっていたことがあります。このとき、県の健康診査受診者205名を対象に、生活習慣と免疫機能などの関連性を調べました。
月経や年齢、性別の影響を排除するため、対象者を59~70歳の女性に限定。免疫機能については、ガン細胞やウイルスを直接攻撃するリンパ球「NK細胞」の活性を測定しました。
その結果、睡眠時間、飲酒、運動習慣、栄養バランスなどの7項目では関連性は見つかりませんでしたが、食事量の違いで免疫機能に大きな差が出ました。
常に満腹まで食べる人のグループは、NK細胞の活性度が平均36.1%であるのに対し、腹八分目を心がける人のグループは43.9%と、活性度が7%も高かったのです。
また、これは現九州大学総長の久保千春先生が1992年に行った実験ですが、ラットに与える栄養を、ある程度制限すると、通常の免疫機能を保ったまま、寿命が2倍以上延びることがわかっています。
では、最も高い延命効果を得るためには、どの程度栄養を制限すればよいのか。
その最大効果は、腹六分目だと判明しました。少食が、免疫にも長寿にも有効と、実証されたのです。
私は自分の体験や、こうした多くの研究報告をもとに、患者さんに少食療法を指導しています。ポイントは次の六つです。
❶ 1日に摂取するカロリー(熱量)の目安は、1400〜1800kcalを目安にする。
❷ 朝食は、生野菜ジュースやみそ汁に、果物を足す程度にして軽めにとる。
❸ 昼食と夕食は質とバランスのよい和食を中心に。腹六分目は無理でも、腹八分目に抑え、よく噛んで食べる。
❹ 寝る前の2〜3時間は何も食べず、空腹ぎみで床に就く。
❺ 水分は1日1〜2L、食前30分と食後2〜3時間を避け、お茶か水でとる。冷やして飲むのはなるべく避ける。
❻ 食品添加物や残留農薬、砂糖の多い食品、体を冷やす冷たい食品はとらない。
この少食療法をきちんと実践する人は、たいていよい結果が出ており、「以前よりも元気になった」といいます。半年のうちに、12kgも体重が減り、肥満が解消した人もいます。
ただ、この少食療法を、誰もが同じように行う必要はありません。
胃腸の弱い人は、少量ずつ、1日3食をとったほうがいい場合もあります。個々の体質に合わせて、無理なく実践するのが長続きの秘訣です。

朝食は野菜ジュースで軽く済ませよう

この記事は『壮快』2020年6月号に掲載されています。
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