お湯で全身を温めることで、血管が広がります。これにより、たくさんの血液が体を巡ると、酸素や栄養分、そして免疫物質が細胞に運ばれやすくなるのです。私がお勧めする入浴法は「40度10分全身浴」です。【解説】早坂信哉(東京都市大学教授・医師・博士(医学))

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

早坂信哉(はやさか・しんや)
東京都市大学教授・医師・博士(医学)。1968年生まれ、宮城県出身。自治医科大学医学部卒業。温泉療法専門医。浜松医科大学医学部講師、同大准教授、大東文化大学教授などを経て現職。医師として入浴や温泉に関する医学的な研究に取り組んでいる。著書に『お風呂研究20年、3万人を調査した医師が考案~最高の入浴法』(大和書房)などがある。

入浴の健康効果は医学的に説明できる

今から20年ほど前、私は地域医療に従事していました。そのとき、入浴に関する問い合わせをたびたび受けていました。高血圧などの患者さんから、「お湯につかりたい」という希望があるものの、スタッフは体調の悪化を心配していたのです。

しかし当時は、「血圧がいくつまでならば安全に入浴できるか」について、科学的に正しく答えられる医学書や論文などはありませんでした。

このようなきっかけから、私は入浴の医学研究を始め、20年にわたって延べ3万8000人を調査してきました。そして、入浴が最高の健康法であることを、あらためて確信したのです。

入浴の健康効果は、さまざまな研究で医学的に証明されてきています。そのなかの一つに、入浴と、体の抵抗力を高める「免疫増強作用」の関係についての調査があります。

毎日温泉に入っている温泉地の小学生と、そうではない小学生を対象に、カゼにかかる率を調べたところ、温泉地の小学生のほうが罹患率が低いことが確かめられたのです。

小学生のカゼ罹患率と習慣的温泉浴の関係の調査結果(調査期間3ヵ月)

画像: (延永正、温泉科学1996;46;149-155の表1を改変し引用)

(延永正、温泉科学1996;46;149-155の表1を改変し引用)

また、週に7回以上入浴する高齢者は、週に0~2回しか入浴しない高齢者と比べ、要介護認定リスクが約3割減少することを、私たちは報告しました。

具体的に、入浴が体にどのように作用するかというと、主に次の2点が考えられます。

温熱作用

お湯で全身を温めることで、血管が広がります。これにより、たくさんの血液が体を巡ると、酸素や栄養分、そして免疫物質が細胞に運ばれやすくなるのです。ある調査では、免疫細胞の一種のNK(ナチュラルキラー)細胞の活性が入浴で高くなることが確認されています。

同時に、疲労物質や老廃物が細胞から回収されて、神経の過敏性も抑えられるので、慢性的な痛みも改善します。

自律神経への作用
私たちの体をコントロールしている自律神経には、緊張時に働く交感神経と、リラックス時に働く副交感神経があります。

お湯につかるのは、日中の活動で交感神経優位になった自律神経を、副交感神経優位に切り替えるのに役立ちます。昼間の疲れが癒されてリラックスでき、ぐっすり眠れるのです。

「40度」「10分」「全身浴」がポイント

このような健康増進効果を得るには、入浴方法にコツがあります。

また、入浴には注意しなければならないこともあります。例えば、急激な温度変化はめまいを起こしたり、失神を招いたりすることがあります。これは、血圧が急上昇するためです。

こうしたことを踏まえたうえで、私がお勧めする入浴法は「40度10分全身浴」です。

この入浴法は至ってシンプルで、「40度の湯船に10分間、肩までつかる」というものです。湯船につかる前には、かけ湯で体を慣らしましょう。入浴後は湯冷めしないように、早めにタオルで体をふいて服を着てください。

40度のお湯は、少しぬるく感じるかもしれませんが、10分間つかれば、体はしっかりと温まります。血圧の急上昇などを起こしにくく、幅広い年齢層、体力層に対し低リスクなのです。

肩まできちんとつかるのもポイントです。全身つかるほうが、体はよく温まり、温熱作用の効果が得られやすいのです。ただし、全身浴で息苦しく感じる場合や、心臓や肺に疾患のある人は、体への負担が小さい半身浴でもかまいません。

画像: 「40度」「10分」「全身浴」で体が芯から温まる!

「40度」「10分」「全身浴」で体が芯から温まる!

さらに、健康な人ならば週に2回程度「40度15分炭酸浴」を取り入れてもよいでしょう。

40度のお湯に、市販の炭酸系入浴剤を入れて15分間の全身浴を行うのです。体に刺激を与え、さらなる免疫力向上が期待できます。ただし、この入浴法は高血圧などの持病がある人にはお勧めできないので、ご注意ください。

また、いずれの入浴法でも、転倒事故には気をつけてください。風呂場で滑るだけでなく、脱衣所で服を脱いでいるときにバランスをくずして転ぶ例も多く報告されています。風呂場には滑り止めのマットを敷くほか、脱衣所にも手すりをつけるなどの工夫も大切です。

年齢が高くなると、湯船につかるのをめんどうに感じる人も増えますが、入浴は体の汚れを取ることだけが目的ではありません。毎日入浴する人は、前述の健康効果のほかに、幸福度が高いという調査結果もあります。介護予防にもなる手軽な健康法として、ぜひ毎日お風呂に入ってください。

画像: この記事は『壮快』2020年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年6月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.