解説者のプロフィール

今津嘉宏(いまづ・よしひろ)
芝大門いまづクリニック院長。慶應義塾大学病院などで外科と漢方の研鑽を積む。西洋医学と東洋医学を活用した総合的な診療に定評がある。
▼芝大門いまづクリニック(公式サイト)
呼吸こそ免疫力を上げるカギ!
新型コロナウイルスが全世界に蔓延し、あらためて「免疫」が注目されています。皆さんは、免疫とは具体的にどういうものか、ご存じでしょうか。
免疫とは、私たちの命を守るための防御する力です。ケガや病気に対する抵抗力、治癒力をはじめ一個人の生命活動のバランスをとっているのです。
臓器に着目すると、脳の働きがよければ、免疫機能もよい状態です。脳が色々な指令を出しているからです。肺や心臓、胃、肝臓などの各臓器でも同様のことがいえます。
つまり、各臓器の働きがよければ、免疫はよい状態なのです。もっと小さなことに目を向けると、栄養素をエネルギーに効率的な変換ができていれば、免疫は正常に働いているといえるでしょう。
免疫力は、個人差があるものです。本人の基準で、本人が元気だと感じたり、生命活動のバランスが取れたりしていれば、免疫はよい状態です。
このような意味を踏まえたうえで、免疫力を上げるには、どうしたらよいでしょうか。
答えのカギは「呼吸」にあります。
呼吸は人間の生命活動をスムーズに行うための絶対条件です。この土台がしっかりしていなければ、どんなによい薬や治療を取り入れても、ザルに水を注ぐようなものです。
呼吸をうまく行えると、免疫力は上がります。命に負担がかからないような、よいバランスを保てるのです。
重要点は「鼻から息を吸い」腹式呼吸をすること
免疫力を高めるための呼吸は、次の2点が重要です。
❶鼻から息を吸う
気管支や肺の肺胞の内壁にある繊毛(線毛)には、外から侵入したばい菌などの異物を捕らえて排除する役割があります。しかし、乾燥する空気を取り込むとボロボロになり、この働きが弱まるのです。
鼻から息を吸うと、奥にある副鼻腔を通る間に、乾いた空気が加湿され、肺に入る段階では湿度が100%になります。すると、繊毛を傷めることなく、免疫機能がきちんと働いてくれるのです。
❷腹式呼吸
おなかを大きく膨らませて、へこませる呼吸は、体内のいちばん大きな筋肉である横隔膜が上下にしっかりと動きます。すると、汗が出てきて体温が上がります。また、脳や各臓器に酸素が十分に行き渡り、各臓器の働きもよくなるのです。
こうしたことを踏まえ、私がお勧めするのは「息止め深呼吸」です。やり方は下の図を参照してください。
大切なのは、鼻から息を吸うことと、ゆっくり呼吸をすること。前述の腹式呼吸は、これで自然にできるはずです。体が温まり、自律神経のバランスが整って、心身も落ち着きます。
息止め深呼吸は、いつでもお好きなときに、何回やっていただいてもかまいません。私自身も気づいたら行うようにしています。
ただし、毎日行うようにしてください。起きた直後が特にお勧めです。起床後は、一日のなかで最も体温が低いからです。
息止め深呼吸のやり方
【ポイント】
・①~③を必ずセットで行う。
・毎日行う。いつ、何回行ってもよい。
❶
ゆっくり鼻から息を吸って吐き出す。息を吐き出すのは、鼻と口どちらからでもよい
*手の位置はどこでもよい。
*立って行っても、座って行ってもよい。
❷-1
①よりゆっくり鼻から息を吸う。

❷-2
2~3秒程度、息を止める。

❷-3
①よりゆっくり息を吐き出す。

❸
・②よりもさらに長い時間をかけて、ゆっくり鼻から息を吸う。
・可能な限り息を止める。
・②よりもさらに長い時間をかけて、ゆっくり息を吐き出す。
私は患者さんに、この息止め深呼吸を勧めています。
先日、肺ガンの手術をした60代の男性患者さんが来られました。術後、傷口が痛くて、呼吸が満足にできなかったそうです。最初に来られたときは、息がすぐに切れるので、なかなか話ができませんでした。
そこで、この呼吸法を教えたところ、1ヵ月後には元気になり、息を切らさずに長く話せるようになったのです。患者さんたちのさまざまな病気や、術後の経過も、呼吸のしかたを変えるだけで、よりよくなっていきます。
この息止め深呼吸は、時間や場所、行う体勢を問いませんし、お金も道具もいりません。また、病気のかたや、寝たきりのかたでも、問題なくできるいちばんシンプルで手っ取り早い健康法です。
どんな人にも、簡単に長く続けられるのが、よい健康法であると私は考えています。ぜひ、毎日の生活に息止め深呼吸を取り入れて、習慣化し、免疫力を高めてください。

この記事は『壮快』2020年6月号に掲載されています。
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