解説者のプロフィール

日比野佐和子( ひびの・さわこ)
医療法人康梓会Y’sサイエンスクリニック広尾統括院長、大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学 特任准教授。内科医、皮膚科医、眼科医、日本抗加齢医学会専門医。同志社大学アンチエイジングリサーチセンター講師、森ノ宮医療大学保健医療学部准教授、(財)ルイ・パストゥール医学研究センター基礎研究部アンチエイジング医科学研究室室長などを歴任。国際的にも広く活躍するとともに、テレビや雑誌等メディアでも注目を集める。著書に『日めくりまいにち、眼トレ』シリーズ(扶桑社)『1日1分、2週間眼トレ 日比野&林田式』(ベストセラーズ)など多数。
▼Y’sサイエンスクリニック広尾 (公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
毛様体筋をほぐすと目の不調が改善する
現代は、スマホやパソコンなしには生活ができません。
つまり、目の酷使が避けられないのです。ですが、皆、目のケアをしっかりしているかというと、そこまで気を遣ってはいない印象です。
実は、目は全身の健康状態を映し出します。そのため、目の健康も気にしなければ、全身の健康を害するのです。
私がお勧めするのが、負担を和らげる「目のストレッチ」です。
ストレッチをして体を伸ばすと、血行がよくなり、伸ばした部分が温かくなりますが、目の筋肉も同じです。目のストレッチによって筋肉のこわばりをほぐすことで、血行がよくなり、目の疲労を回復させる効果があります。
そのほか、かすみ目、老眼、ドライアイなどの予防も期待できるのです。
最近は「スマホ老眼」と呼ばれる症状も増えています。
老眼は45歳前後から起きるのが一般的ですが、スマホの見過ぎで20〜30代でも、近くや遠くのものにピントが合わず視界がぼやけるという、老眼のような症状に悩まされているのです。
目のピントを合わせる毛様体筋という筋肉は、近くを見るときに収縮し、遠くを見るときには緩みます。
しかし近い距離でスマホをずっと見続けると、この毛様体筋が緊張し、こり固まって、ピントが合わなくなるのです。これが、スマホ老眼です。

毛様体筋は水晶体を調整してピントを合わせる筋肉。筋肉なので、ストレッチでほぐすことがたいせつ!
毛様体筋を柔らかく、しなやかにするためには、下でご紹介している「毛様体筋ストレッチ」(遠近トレーニング)が効果的です。
親指の爪を近くで凝視した後、遠くで凝視することで、遠くと近くの交互にピントを合わせて、ピント調整能力を上げることができます。
年齢とともに目の筋肉が衰えて、寄り目をするのが難しくなってきますが、遠近トレーニングを行うことで、筋肉が動きやすくなり、目の疲労も回復しやすくなります。
目がかすむ、ピントが合わない、ショボショボするといった眼精疲労に特有の原因も、毛様体筋がこわばっていることで引き起こされている症状でもあるので、このトレーニングが有効な改善策となります。
日比野佐和子先生が実践!
毛様体筋ストレッチのやり方
■1回5セット

❶片手の親指を顔から10cm離して立て、親指の爪を1秒間凝視する

❷腕をまっすぐ伸ばし、親指の爪を1秒間凝視する。その後親指から視線を外し、2m以上先にある物を1秒間凝視する
ドライアイには涙を増やすグー・パーストレッチ
日本ではドライアイの患者は2000万人以上といわれています。その原因は、やはりスマホやパソコンを長時間見る生活と考えられています。
スマホやパソコンを見ている間はまばたきの回数が減るため、涙の分泌量が減り、目が乾くのです。
また、エアコンなどで乾燥した部屋でコンタクトレンズを装着して過ごすと、コンタクトレンズが涙を吸収し、涙が蒸発しやすくなるので、ドライアイを引き起こしやすくなります。
ドライアイの改善に効果的なのは「目のグー・パーストレッチ」です(やり方は下記参照)。
このストレッチは「グー」のときギュッと目をつぶって、「パー」のときは目を見開く動きで、毛様体筋をほぐし、まばたきをする際に使う、目の周りの眼輪筋という筋肉も鍛えることができます。
また、ホットアイマスクの使用もお勧めです。
目を温めると、まぶたの中にある特殊な皮脂腺(マイボーム腺)からの油脂成分の分泌を促進するため、涙の蒸発を防いでくれます。
ドライアイには目薬も有効です。しかし、場合によってはさしすぎると症状が悪化することもあります。市販のものは防腐剤を多く含むこともあるので、できれば眼科で目薬を処方してもらいましょう。
これらの目のストレッチはいつ行っても、何回行っても構いませんが、疲れるほど行うのは逆効果です。自分が「気持ちいい」と感じる程度でじゅうぶんです。
早い人ではストレッチを2週間も続ければ「老眼鏡なしで手元の文字が見えた!」「目がショボショボしなくなった!」といった効果を感じる人もいます。何事も継続が大事です。
日比野佐和子先生が実践!
目のグー・パーストレッチ
■1回5セット

❶目に力を込めて、ギュッと2秒間目をつぶる

❷目を大きくパッと見開いて、2秒間キープする
クルミやソバも目に効く!
目のストレッチのほかに、日常生活でも気をつけてもらいたいことがあります。
まず、スマホやパソコンの画面は1時間以上、連続して見ないこと。1時間経ったら15分は、窓の外など、遠くを見るなどして目を休めてください。
また、パソコンの画面と目の距離は40cm、スマホは30cm離して、首の負担も減らしましょう。
首が下を向いていると頭の重みで大きな負荷がかかり、肩こり、頸椎症、ストレートネックなどの原因となってしまいます。
姿勢の悪さから血行が悪くなり、目にも血液や酸素が行き渡りづらくなり、目の疲れにもつながります。
スマホやパソコンの画面から出るブルーライトも、目のダメージの原因です。
特に暗闇でブルーライトが目に入ると、目の負担が増え、眼精疲労が悪化します。ついクセになっている方も多いと思いますが、寝る前のスマホやパソコンの利用は控えましょう。
食生活では、目の健康のためにビタミンA、C、Eをとることを心がけてください。トマト、ニンジン、ホウレンソウ、クルミ、ブルーベリーなどがお勧めです。
ソバに含まれるルチンは、毛細血管を強化してくれるので目の血流アップが期待できます。
外からの情報の90%は、視覚から入ってきます。そのため、目の不調で見えにくいという状態はストレスになり、全身の健康状態にも悪影響を及ぼします。
美容面では、目のストレッチをすることで筋肉がほぐれると、目の周りの血行がよくなって、目のくまやたるみ、解消や肌のトーンアップにもつながります。
目は小さな器官ですが、全身の健康はもちろんのこと、美容とも大いに関係があります。ぜひ今回ご紹介した目のストレッチを行い、目をたいせつにする生活をしてください。

この記事は『ゆほびか』2020年5月号に掲載されています。
www.makino-g.jp