フロアバレエの特徴は、寝たままで行えること。一つひとつの動きが正しくできるようになると、それらが複合した動きである「立つ」「歩く」「走る」などといった日常の動作が、自然に、負担なくできるようになっていきます。【解説】佐々木達也(BASフロアバレエ主宰)

解説者のプロフィール

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佐々木達也(ささき・たつや)

BASフロアバレエ主宰。早稲田大学教育学部卒業。バレエを夏山周久氏、フロアバレエをロベルト・ベストンソ氏らに学ぶ。2004年、東京バレエ団に入団。退団後はマリインスキーバレエやアメリカンバレエシアターなどのツアーに出演するが、ケガのためダンサーを引退し、フロアバレエの指導者となる。体の使い方を精密に解析・修正するアプローチが評価され、現在はフロアバレエの専門家として全国100カ所以上のバレエ教室へ技術提供する。フロアバレエの指導者育成も積極的に行う。フードコーディネーター、食生活アドバイザー、アスリートフードマイスターとして、食生活の指導も行い、雑誌などでも紹介されている。
▼BASフロアバレエ(公式サイト)

寝たままで運動できる!

皆さん、体を鍛えたり、柔軟にしたりするには、ハードなトレーニングや、きつい筋トレが必要だと思っていませんか?

実は、そんなことはありません。寝たままでできる簡単なストレッチでも、体を強くしたり、柔軟にしたりできるのです。それが、私が指導している「フロアバレエ」です。

フロアバレエは、もともとバレエの体作りとして、1930年代にフランスで生まれた伝統的なメソッドです。欧米のバレエ学校では、基礎レッスンとして採用されているほか、寝たまま行う安全性から、ケガや妊娠中にもできるレッスンとして、バレエ経験のない人もたくさん受けています。

私は19歳のとき、フロアバレエと出合い、フランスに渡ってそのメソッドを学びました。その後、大きな転機が訪れます。

足の骨折で寝たきりになった祖父が、そのまま亡くなったのです。

まったく運動ができなくなった祖父でも、フロアバレエならできたのではないか、私にできることはもっとなかったか……祖父の死をきっかけに、高齢や病気、ケガで体が思うように動かせない人でもできる運動の必要性を痛感しました。

当時、私自身もケガをしていて、フロアバレエが役立っていました。そこで、改めて再勉強し、フロアバレエの指導者になったのです。

当初は、自分や家族、友達など、身近な人の健康作りに役立てればと思っていました。

ところが、いざ指導を始めてみると、「教えてほしい」というニーズがとても多いことに驚かされました。私が指導するフロアバレエのような、体に不安を抱えている人ができる運動が、これまでになかったということでしょう。

今は、全国各地でフロアバレエのレッスンをしています。そこではバレエを習っている子どもから、健康な体作りを目的とした中高年、ケガや痛み、病気で激しい運動ができないかた、妊娠中のかたなどもいっしょにレッスンを行っています。

ガチガチに硬い人も開脚できる!

フロアバレエの特徴は、寝たままで行えること。そして、ダンスだけではなく、日常生活の中でも行うような基本的な動作を、正しい体の使い方で行うことにあります。

例えば、「歩く」という動作。これは足を前に出したり、後ろに引いたり、ひざを曲げたり、伸ばしたり、いろいろな動作の複合によって成り立っています。

フロアバレエでは、こうした動作を一つひとつ分解し、正しい状態で行えているかどうかチェックしながら、改善していきます。ですから、必然的に動作は、「歩く」よりもシンプルになります。寝て行うので、転倒や接触の危険もありません。これが誰にでもできる理由です。

こうして一つひとつの動きが正しくできるようになると、それらが複合した動きである「立つ」「歩く」「走る」などといった日常の動作が、自然に、負担なくできるようになっていきます。

ひざ痛や腰痛といった体の痛みも、ひざがねじれた状態で歩いていたり、腰をそらした姿勢になっていたりなど、体の間違った使い方によって、特定の部位に負担がかかっていることが原因の一つです。

フロアバレエによって体の使い方が改善されれば、そのような痛みの解消にもつながります。

ストレッチやトレーニングは、体を正しく使えていれば、小さな動きでも、じゅうぶんに効果を得られます。そのため、一般的なトレーニングのように負荷をかけたり、速度を早くしたり、回数を多くしたりする必要はありません。

正しい動作は少ない回数でも、優れた運動になったり、体を強くしたり、柔軟性を高めたりすることができるのです。

実際、フロアバレエのレッスンを受けたかたからは、「体が軽くなった」「動作が楽になった」という声をよくいただきます。肩こり、腰痛、ひざ痛、股関節痛などの理由でほかの運動の代わりに、フロアバレエを実践しているかたにも、効果を実感していただいています。

もちろん、最初は体が硬くてガチガチのかたもいらっしゃいますが、レッスンを受けるうちにほとんどのかたは溶けるように股関節が柔軟になっていきます。

画像: フロアバレエを指導する佐々木先生。ふだんの生活でしている動作を床に寝て行う

フロアバレエを指導する佐々木先生。ふだんの生活でしている動作を床に寝て行う

プロアスリートから高齢者まで有効

今回は、フロアバレエの中でも、最も基礎的な動きとなる4つのエクササイズを紹介します。

たいせつなことは、闇雲に行うのではなく、「腰がそっていないか」「背中を床に押しつけ過ぎていないか」「体がねじれたり、ズレたりしているところはないか」など、自分の体が不自然な状態になっていないか、確認しながら行うことです。

フロアバレエは1人で行っていても、実は心強いパートナーが常にいます。それはフロア、「床」です。体がそったり、ゆがんだりしていないかを教えてくれるのは、床の感触なのです。

最初から完璧な動きを目指す必要はありません。床を感じ、床の声を聞きながら、きちんと体をコントロールできているかを意識することから始めてみてください。

少しずつ体がうまく使えるようになってくれば、柔軟性が高まり、体がそったり、ゆがんだりすることも少なくなっていきます。

バレエは4、8、16のリズムが基本となります。なので、行う回数もこのいずれかがいいと思いますが、私はきちんと意識できていれば、一つの動作につき4回ずつでもかまわないと思います。

筋肉を鍛えるトレーニングと違って、フロアバレエの基本は体の使い方を改善すること。まずは簡単な動きで、自分の体をコントロールすることに集中してください。呼吸も、自然呼吸でかまいません。

日々意識して自分の体をコントロールしていくことで、やがて体の動きが楽になっているのに気づいたり、痛みが軽減したり、開脚ができるようになったりなど、変化が実感できることでしょう。

フロアバレエの動作はとても簡単ですが、日常のあらゆる動きの基本となるものです。ですので、子どもから高齢者、また、プロアスリートから激しい運動のできないかたまで、誰もが行えるメソッドです。ぜひフロアバレエを生活の中に取り入れて、健康長寿に役立ててください。

「寝たままバレエストレッチ」のやり方

1. ルティレ・パラレル

画像1: 1. ルティレ・パラレル

あお向けに寝て、両手を肩の高さで横に広げる。片足ずつ、ひざを曲げて伸ばす。体がまっすぐになっているかを確認しながら、4回繰り返す

画像2: 1. ルティレ・パラレル

うつぶせで両手を床につき、同様の動作を行う

2. プリエ

画像1: 2. プリエ

あお向けに寝て、つま先同士をつけたまま、ひざを曲げながら両足を開き、伸ばしながら両足を閉じる。体がまっすぐになっているかを確認しながら、4回繰り返す

画像2: 2. プリエ

うつぶせで両手を床につき、同様の動作を行う

3. 前後のタンデュ

画像: ※無理に高く上げない

※無理に高く上げない

あお向けに寝て、両手を肩の高さで横に広げる。足を伸ばしたまま、片足ずつ上げて下ろす。体がまっすぐになっているかを確認しながら、4回繰り返す

画像: 3. 前後のタンデュ

うつぶせで両手を床につき、同様の動作を行う

4. 左右のタンデュ

画像: ※無理に大きく開かない

※無理に大きく開かない

あお向けに寝て、両手を肩の高さで横に広げる。足を伸ばしたまま、片足ずつ横に開いて閉じる。体がまっすぐになっているかを確認しながら、4回繰り返す

画像: 4. 左右のタンデュ

うつぶせで両手を床につき、同じことを行う

画像: この記事は『ゆほびか』2020年5月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『ゆほびか』2020年5月号に掲載されています。

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