解説者のプロフィール

樋田和彦(ひだ・かずひこ)
ヒダ耳鼻咽喉科・心療内科院長。医学博士。日本ホリスティック医学協会顧問、日本高麗手指鍼療法学会名誉会長。医学の東西に縛られることなく、「こころとからだ」を全人的に診る統合医療を取り入れ、心と身体と環境の面からアプローチする医療を追求する。
http://www.holistic-hida.jp/
手の指への刺激は脳の老化を防ぐ
[別記事:「指そらし」のやり方→]
今から40年以上前、私は「高麗手指鍼法」に出合いました。高麗手指鍼法とは、韓国の柳泰佑博士が提唱した鍼灸術で、韓国では1970年代から広く普及しています。
高麗手指鍼法では、全身の状態はすべて手に反映されると考えます。
それを聞いて私は、実際に「手は全身を表すのか」を検証しました。歯が痛いときは歯に相当する手のツボを押したり、耳の調子が悪いときは耳に相当する手のツボを押したりしました。すると、確かにほかのところ押すよりも痛く感じるのです。
そして、その部分をもんだり、鍼を打ったりして刺激すると、患部の症状が改善することを確認できました。それ以来、私の医院では、統合医療による心身医学療法として、高麗手指鍼法を治療の一つとして取り入れています。
高麗手指鍼法の考えでいくと、手は全身を表すわけですから、手全体を刺激すれば、全身をほぐすことと同じ意味になります。
また、高麗手指鍼法ではもっと広く、手首=首、そこから上を頭と捉える考え方もあります。その場合、手のひらが顔、手の指が脳に当たります。つまり、手の指への刺激は、脳への刺激にもなるわけです。
現代医学的に見ても、手の指は脳の神経ネットワークとつながっています。そのため、手の指への刺激は、脳の老化防止に役立ちます。また、手の指を動かすと、脳の血流がよくなり、脳の機能が改善することもわかっているのです。
手指全体を刺激する方法としてお勧めなのが、「指そらし」です(基本的なやり方は別記事参照)。
実際、指そらしを習慣的に続けていたら、頭がスッキリして、物忘れが少なくなったという高齢者は少なからずいます。指を動かすことは、本来、とても複雑な作業で、脳の神経ネットワークがしっかり働いていないとできないものなのです。
前かがみ姿勢の多い現代人に最適
私は高麗手指鍼法のほかに、40年以上前、日本におけるヨガの草分け的指導者である沖正弘師のもとで、ヨガを学びました。
ヨガでは、日常的な体の使い方とは逆の動作をすることで、全体のバランスを整えるという考え方が基本にあります。前かがみの姿勢が多い人は体をそらせる、頭ばかり使っている人は体を使う、といったような感じです。
ふだんの生活の中で、指を前に曲げることはよくあります。何かを握るとき、手に取るとき……すべて指を前に曲げます。指をそらす動作をすることはほとんどないのではないでしょうか。
ふだんしない動きをあえてやることは、ヨガの考え方からいっても非常に理にかなっていて、体のバランスを整えることに通じます。
高麗手指鍼法の考え方では、指をそらすことは全身をそらせるのと同じことです。何かと前かがみの姿勢になることが多い現代人には、指そらしはとても意味のあることだと思います。全身を整え、軽い不調ならその場で改善するでしょう。

手指は全身と相関するので、指をそらすだけで全身をストレッチするのと同じ効果が得られる!
また、指そらしと同時に、ぜひ行ってほしいことがあります。それは「人をほめる」ことです。人はほめられると、脳の循環がよくなるのです。
私たちの体は、一つひとつの部位だけでなく、心ともつながっています。ほめられて「うれしい」と思う気持ちは、脳へのいい刺激となり、循環をよくし、脳をいきいきさせる効果があるのです。
私の患者さんで、ある会社の指導的立場にある人が原因不明のセキに悩まされていました。
そこで私は、この患者さんに「あなたは会社をしょって立つ人だね」というほめ言葉をかけました。すると、体調はガラッと変わって健康になり、セキもピタリととまったのです。ほめられるだけで、人の体はこれほど変わるのです。
人をほめて、相手の脳の循環がよくなると、いいエネルギーが返ってくるので、ほめた側の脳の循環もよくなります。まさに「生かし合い」というわけです。
指そらしを行えば、体や脳の機能が改善し、さらに人をほめることで、いい循環がどんどん広がっていきます。
指をそらすだけで、全身を伸ばせるだけでなく、多くの人が健康で幸せになれる、まさに理想のストレッチなのです。
[別記事:「指そらし」のやり方→]

この記事は『ゆほびか』2020年5月号に掲載されています。
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