解説者のプロフィール

水野雅登(みずの・まさと)
2003年に医師免許取得(医籍登録)、19年2月13日にアキバ水野クリニックを開設、院長となる。両親ともに糖尿病家系。自らの体の劇的な変化をきっかけに、糖質制限を中心とした治療を開始し、ブログやFacebook、Twitter、講演会などで精力的に発信。著書『薬に頼らず血糖値を下げる方法』、『みるみるやせる・血糖値が下がる 最強の糖質制限ガイドブック』(いずれもアチーブメント出版)はともにベストセラー。
脂質を摂取すると糖質への依存を減らせる
実をいうと私は、5~6年前まで、医者の不養生を絵に描いたような状態でした。身長160cmに対して、体重が76.8kgもある肥満体で、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)も起こしていました。
当時の私は、満腹になるまで食事したあとに、果物やお菓子を食べていました。両親とも糖尿病家系なので、さすがに私も危機感を覚え、情報を集めて実践したのが、糖質制限でした。 具体的には、米やパンなどの主食を断ったのです。
効果は絶大でした。1年間で14kg減量し、肝機能も正常化。疲労感が消え、朝もすっきり起きられるようになりました。

太っていたころの水野先生
なぜ、糖質を制限すると、やせるのでしょうか。
糖質をとると血糖値が上がり、膵臓からインスリンが分泌されます。インスリンは、血液中の糖を筋肉などに取り込むと同時に、余った糖を中性脂肪に変え、脂肪細胞にため込む作用もあります。つまり、糖のとり過ぎとインスリンの出過ぎは、脂肪の蓄積に直結するのです。
実体験で効果を確信し、生化学や生理学を踏まえたうえで、私はこの食事法を治療に取り入れました。すると、患者さんたちは皆、ヘモグロビンA1cが下がり、インスリン注射や薬をどんどんやめられたのです。私の患者さんのインスリン離脱率は、100%でした。
私はこの食事法を、「糖質制限」ではなく「たんぱく脂質食」と呼んでいます。糖質を控えるだけでなく、たんぱく質と脂質を十分とってほしいからです。
1日にとるたんぱく質の目安は、体質や運動量などで違ってきますが、目安は肉300g+卵3個以上です。主食のつもりで食べてください。
これだけ食べると、ご飯やパンは入らなくなるものですが、「満腹でも食べたい」という人もいます。このように糖質への欲求が強い人は、鉄分が不足している可能性があります。鉄不足を解消することや、脂質を摂取することで、糖質への依存を減らすことができます。
脂質は血糖値を上げず肥満の原因にもならない
今話題の「牛脂ダイエット」は、高脂質・糖質オフを基本にした食事です。牛脂は良質な動物性脂肪なので、上手に使うといいでしょう。
「脂質は太る」というイメージが強いかもしれません。しかし、脂質自体は血糖値を上げず、肥満の原因にもならないというのが、最新の常識です。
もっといえば、脂質こそがダイエットや糖尿病改善のカギを握っています。食事で血糖値を上げず、たんぱく質を過不足なくとり、糖質を減らした分のエネルギーを脂質で補うのが、健康的にやせる食事なのです。
具体的には、米や小麦などの穀類、根菜、砂糖の入ったお菓子や飲料、ビールや日本酒、ワインなどの醸造酒などを控えます。
そのかわり、肉や魚、卵を主食と考えてください。脂質も気にせずとってかまいません。さらに、甘くない乳製品、根菜以外の野菜、大豆製品、焼酎やウイスキーなどの蒸留酒もOKです。
ここで気をつけたいのが、脂質の種類です。
マーガリンやショートニング、サラダ油などは、動脈硬化を促進するトランス脂肪酸を含むので、避けましょう。
牛脂やバター、ラードなどの動物性脂肪、低温圧搾の植物油(オリーブオイル、ココナッツオイル、エゴマ油、アマニ油、シソ油)、中鎖脂肪酸を主成分としたMCTオイルがお勧めです。
一点、必ず守っていただきたいことがあります。
服薬の有無にかかわらず、病気の人、健康診断で異常を指摘されている人、体調不良の人は、自己判断での食事変更は絶対にやめてください。
世界的にも、「万人に通用する安全で有効な食事法はない」というのが共通認識になっています。
必ず糖質制限に詳しい医師のもとで、服薬中の場合は薬を変更・調整してもらい、食事内容を変えてください。「たかが食事」と考えていると、思わぬ影響が出ることがあります。
牛脂を活用する「たんぱく脂質食」のやり方
❶ 動物性たんぱく質をしっかりとる→肉300g+卵3個以上を毎日食べる
❷ 糖質を控える→米、小麦、砂糖、根菜、醸造酒を控える
❸ 良質の脂肪をとる→糖質を控えた分、油脂でエネルギーを補う。

・牛脂やバターなどの動物性脂肪、オリーブオイル、ココナッツオイル、エゴマ油、アマニ油、中鎖脂肪酸を主成分としたMCTオイルがお勧め。
・マーガリンやショートニングなど、トランス脂肪酸を含む油脂は避ける。

この記事は『壮快』2020年5月号に掲載されています。
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