ストレスによる腸の不調に役立つ
鍼灸治療では、遠隔部位の治療を行うことがよくあります。例えば、手のツボを押すことによって、離れた位置にある目や胃腸の調子を整えることができるのです。
私は、このような体表への刺激が、内臓などのほかの体の部位にどのような効果や作用をもたらすのかを、科学的に検証する研究を行っています。
例えば、「足の反射区」という考え方があります。足裏の人体に相当するゾーンを刺激すると、そこに対応した特定部位の状態を改善できるのです。
私は、あるテレビ局の依頼を受けて、足裏と腸の関係について調べたことがあります。
腸の状態を調べるのには、体内の音を感知する高性能センサーを用いました。腸の活動時には、腸音という音が鳴るとされています。これを計測すれば、腸がどのような状態なのかをとらえることができます。
そこで、足の裏をもむプロの施術者に、被検者の胃に対応するゾーンを刺激してもらいましたが、腸に目立った変化はありませんでした。
その後、もむ場所が「小腸」に対応するゾーン(下記やり方を参照)に移った瞬間、腸音が大きく鳴りました。そして、刺激する場所が、小腸から離れると音が小さくなったのです。
このように、足裏の特定の場所への刺激が、実際に小腸の動きと連動している様子が確認できたのです。
ではなぜ、このような現象が起こるのでしょうか。
ツボを正確にとらえて刺激を与えると、「ズーン」と響くような感覚を受けることがあります。これは、ツボへの刺激が、その部位の深部神経に届いた証拠です。
足の反射区にしても、同じことが起こっています。足の裏には、腱(骨と筋肉を結びつける組織)がたくさんあり、この腱を有効に刺激することが、深部神経への刺激となります。
深部を走っている感覚神経を刺激すると、それが脊髄を介して脳へ伝わり、自律神経の働きを整えるのです。
自律神経は、私たちの意志とは無関係に働き、体内活動に必要な各器官や血管をコントロールしています。内臓も、当然のことながら、自律神経の支配下にあります。
自律神経には、昼間、主に優位となり、私たちの昼間の活動を支える交感神経と、夜に主に優位となり、私たちの体に休息を与える副交感神経の二つがあります。両者は、バランスを取りながら働いています。
例えば、交感神経が活発になると心拍数は増えますが、胃腸の働きは抑制されます。逆に副交感神経が活発になると、心拍数は減り、胃腸の働きが活発になります。
当然ながら、ストレスがかかると交感神経が優位になり、腸の動きは悪くなります。足裏への刺激は、深部神経を介して、この自律神経の働きを整えることになるのです。
そして、交感神経優位に傾いていた状態が改善される結果、腸が動き出すと考えられます。腸の動きがよくなれば、便秘解消にも役立つでしょう。
逆に、ストレスによって、下痢を起こすこともありますが、こういう場合も、自律神経の働きが整えられれば、下痢を改善する効果も期待できるのです。
ズーンと響く反応が目安
腸の動きを活性化するのに有効な部位として、足裏の小腸のエリア以外にもう一つ、手の合谷(ごうこく)というツボを挙げておきましょう。
合谷は、親指と人差し指の骨が交わる辺りの、人差し指側のくぼんでいるところにあります。これはもともと、非常に多くの効能があるとされているツボですが、腸の調子を整える効果もよく知られています。
足裏の小腸ゾーンと合谷は、ともに指で指圧することができますが、足裏の場合なら、青竹踏みのような方法でもいいでしょう。
過刺激になってしまってはいけませんが、「痛気持ちいい」くらいの強さで、押してみましょう。合谷や足裏の小腸のエリアを押していて、ズーンという響く反応があったら、それは、深部神経が有効に刺激されたしるしとお考えいただいてよいでしょう。
ぜひお試しいただき、ガス腹や便秘の解消のお役に立てば幸いです。
足の裏刺激・合谷刺激のやり方
■足の裏刺激

足の裏にある「小腸」ゾーンの周辺を、親指の腹や人差し指の第二関節などでぐりぐりと刺激する。

■合谷刺激

合谷は、手の甲の、親指のつけ根の骨(第1中手骨)と、人差し指のつけ根の骨(第2中手骨)との間の分かれ目にある。

合谷に親指を当てたら、人差し指を手のひら側に回して裏から押さえ、かなり強めにギューッと指圧する。

この記事は『壮快』2020年5月号に掲載されています。
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