便秘やガス腹を予防・改善するにはどんな物を食べるようにすればいいのでしょうか。私がお勧めしたいのはイモ類です。イモ類に含まれるレジスタントスターチという成分が、非常に有効であることがわかっているのです。【解説】桑原厚和(立命館大学創薬科学研究センター客員教授・農学博士)

解説者のプロフィール

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桑原厚和(くわはら・あつかず)
立命館大学創薬科学研究センター客員教授・農学博士。鹿児島大学卒業後、東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。その後、岩手大学農学部助手、米国・オハイオ州立大学医学部博士研究員、岡崎国立共同研究機構生理学研究所助手、静岡県立大学環境科学研究所教授、京都府立医科大学大学院医学研究科特任教授などを経て現職。消化管、特に壁内神経系を介した、各種消化管機能の制御機構の研究を一貫して行っている。

高齢者は食事も水分も不足しやすいので注意!

[別記事:ガス腹スッキリ薬膳→

高齢になると、便秘になるかたが非常に増えてきます。主な要因としては、食事量の不足、水分摂取量の不足の二つが挙げられます。

一つめの要因は、加齢に伴って食事の量そのものが減ることです。これはすなわち、摂取した食べ物から栄養分、水分などが吸収された残りの量、つまり、便の量が減ることを意味します。

便というものは、ある程度の大きさを持っていることが重要です。なぜなら、あまりに便が小さいと、腸管を通過する際に内壁を刺激することができません。その結果、便を送り出す腸の運動、すなわち蠕動運動が弱くなるのです。

二つめの要因、水分の摂取不足の問題も深刻です。お年寄りほど、夜間頻尿を避けるために水を飲むのを控える傾向があります。さらに、加齢に伴って渇きを感じにくくなるので、ますます水分摂取量が減るのです。

消化の過程で、小腸へ約8Lの水分が流入します。この水分は栄養分とともに吸収され、大腸でもさらに吸収されます。そして、最終的には便自体に含まれる水分は200ml程度になるのです。

そのため、摂取する水分が足りなければ、便はよけいにカチカチにかたくなり、動きにくくなって停滞します。水分には、便をやわらかくして、スムーズに滑らせる役割があるのです。

このようなことから、ご高齢のかたは、特に注意しないと便秘になり、それに伴ってガス腹になってしまうでしょう。

善玉菌のエサになり腸内環境を改善

では、便秘やガス腹を予防・改善するには、どんな物を食べるようにすればいいのでしょうか。

私がお勧めしたいのは、イモ類です。イモ類に含まれるレジスタントスターチという成分が、便秘やガス腹の解消に非常に有効であることがわかっているのです。

レジスタントスターチの、レジスタントは「難消化」、スターチは「でんぷん」という意味です。わかりやすくいえば、「消化しにくいでんぷん」ということになります。

もしかすると、「消化されないなら、なんの役にも立ってないのでは?」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。

皆さんがよくご存じの「食物繊維」も、消化されない性質がありますが、便となって出るまでの過程で、さまざまな役に立っています。実は、レジスタントスターチは、食物繊維と同等か、それ以上の働きをしているといっても過言ではないのです。

イモ類を食べると、消化されないレジスタントスターチが大腸まで届きます。この際、食べかすなどを巻き込んで便になります。先ほどもお話ししたように、レジスタントスターチは、この便のカサを増大させることによって、排便を促すのです。

画像: イモは天然の整腸薬

イモは天然の整腸薬

もう一つが、腸内環境に対する効果です。

私は長らく、消化管についての研究に取り組んできました。そのなかで発見したのが、「短鎖脂肪酸」という物質が、健康を守るうえで重要な役割を持っているということです。

レジスタントスターチは、腸内に到達すると、善玉菌であるビフィズス菌などのエサになります。そして、それが発酵して短鎖脂肪酸を作るのです。

すると、短鎖脂肪酸は、腸管を弱酸性に保ちます。悪玉菌の働きが抑制され、腸内環境がよくなるというわけです。

腸内環境が悪化して悪玉菌が増えると、腸内で有害なガスが発生するのを許し、ガス腹を引き起こす誘因となります。この点からも、レジスタントスターチから作り出される短鎖脂肪酸が、ガス腹予防に役立つといえるでしょう。

また、短鎖脂肪酸が増えると、腸管の水の分泌も促されます。その結果、腸管内での便の動きがスムーズになります。この点でも便秘解消に有効なのです。

ここまでお話ししたレジスタントスターチの働きについては、私たちが行ったマウス(実験用のネズミ)やヒトでの実験によって、科学的にきちんと実証されています。

ちなみに、短鎖脂肪酸を摂取するのであれば、食用酢や、チーズなどの乳製品を食べればいいと思われるかもしれません。しかし、口から摂取しても、短鎖脂肪酸は小腸で吸収されてしまうので、ご紹介したような効果は期待できないのです。

その点、レジスタントスターチは、消化しにくいという利点を持っています。

日々の食事のなかで、レジスタントスターチを多く含んだイモ類を、摂取する習慣を続けてみましょう。その結果、皆さんが便秘やガス腹の悩みから解放されれば、研究者としては非常に幸甚です。

[別記事:ガス腹スッキリ薬膳→

画像: この記事は『壮快』2020年5月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年5月号に掲載されています。

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