解説者のプロフィール

早川享志(はやかわ・たかし)
岐阜大学応用生物科学部教授。農学博士。1954年生まれ。三重大学卒業後、京都大学大学院博士前・後期課程修了(京都大学農学博士)。京都大学非常勤講師、東京農業大学助手、岐阜大学助手、助教授を経て2003年より岐阜大学教授。主に、体内の環境改善効果について研究。2011年、日本食物繊維学会学会賞を受賞。著書に『おいしく食べて体にいい快腸でんぷん健康法』(星雲社)がある。
便の量と水分を増やして排便がスムーズに!
[別記事:ガス腹スッキリ薬膳→]
「便秘で悩んでいる」「おなかがパンパンに張って苦しい」「おならが出て困る」
こういった症状でお困りの皆さんに、私は、「レジスタントスターチ」を含む食品をお勧めします。
レジスタントスターチとは、消化しにくいでんぷんのことです。米やイモ、マメ類などに含まれており、便秘解消をはじめとして、優れた健康効果が期待できる成分です。
私は以前、次のような実験を行いました。
ラット(実験用のネズミ)を三つのグループに分けます。一つめのグループには、食物繊維なしのエサ、二つめには食物繊維ありのエサを与えます。ちなみに、どちらのエサにもレジスタントスターチは含まれていません。
三つめのグループには、食物繊維を与えず、それに相当する量のレジスタントスターチを含むでんぷんを与えました。それ以外は、同じ栄養を与え、同じように生活させます。そして3週間後、それぞれのフンの状態を調べたのです。
結果としては、それぞれで明らかな違いがありました。
一つめの食物繊維をとっていないグループのフンは、黒くカチカチに固くなっていて、二つめの食物繊維をとったグループのフンは、白っぽくしっかりしたフンになりました。
そして、注目は三つめのレジスタントスターチをとったグループ。ほかのグループに比べて、はるかに大量の、さらに状態のいいフンが出たのです。
では、レジスタントスターチを摂取すると、なぜいい状態のフンが大量に出るのでしょう。
食物繊維には、水に溶けない「不溶性食物繊維」と、水に溶ける「水溶性食物繊維」の2種類があります。
不溶性の食物繊維は、便の量自体を増やしてその容量を大きくします。その結果、通過する際に腸壁を刺激するので、腸の働きが活発になり、排便を促す効果が発揮されます。
一方、水溶性食物繊維は、便をやわらかくします。それによって、水分を多く含んだ便となって、腸内をスムーズに通ることができるようになります。
レジスタントスターチがすばらしいのは、不溶性と水溶性の両方の性質を持っていることです。レジスタントスターチを多く含んだ食品をとれば、便の量自体が増すと同時に、便がやわらかくなって便通がよくなるのです。
また、レジスタントスターチは、腸内細菌のエサになって腸内環境を整えます。腸内環境がよくなれば、当然のことながら、便通がよくなり、ガス腹の解消に役立つのです。
血糖値の急上昇を抑え大腸ガンも防ぐ!
では、レジスタントスターチを摂取するには、どんな食品を摂取すればいいでしょうか。私が特にお勧めしたいのが、「ナガイモ」です。
レジスタントスターチは、加熱されると、大きく減少する性質があります。つまり、生のまま食べられるナガイモであれば、レジスタントスターチを減らすことなく、効率よく摂取できるのです。
お勧めの食べ方は、ナガイモをとろろや短冊切りなどにして、生で食べることです。
私は先日、NHKの『ガッテン!』という番組に出演しました。そのなかで、モニターの皆さんに、ナガイモを毎日の食事にプラスしてとってもらったのです。
すると、実験に協力してくれた12人のうち、8人の便の回数が増加して、便の状態もよくなったという結果が出ました。
ナガイモの場合、1日に摂取する量は、小鉢1杯(およそ100g)程度で十分です。
レジスタントスターチが含まれている食材は、とり過ぎると肥満につながるので注意が必要です。
また、人によっては、おなかが緩くなる場合があります。食べる量や頻度は、自分の体調に合わせて調節してください。
レジスタントスターチを含んだ食材は、ナガイモ以外にもアズキなどいろいろあります。
加熱してもレジンスタントスターチ量があまり減らないのは、玄米です。また、加熱するとレジスタントスターチが減るものの、冷やせば増えるのはサツマイモやジャガイモ、米などが挙げられます。
ちなみに、意外にもレジスタントスターチの含有量が多いのがパスタです。しかも、冷やすと含有量が増える性質があるので、特に冷製パスタやサラダにして食べるといいでしょう。
レジスタントスターチの健康効果は、ガス腹や便秘の解消だけにとどまりません。消化吸収を緩やかにするので、血糖値が急上昇するのを抑え、インスリンの分泌も少なくなります。その結果、腹持ちがよくなって食べ過ぎを防ぎ、ダイエット効果も期待できます。
また、日本人に急増している大腸ガンの原因の一つに、炭水化物の摂取量が減ったことがあります。レジスタントスターチの摂取は、腸内環境を整えるだけなく、大腸ガンの予防効果もあるのです。
まさに「快腸でんぷん」といえるレジスタントスターチを、上手に取り入れてください。
[別記事:ガス腹スッキリ薬膳→]

この記事は『壮快』2020年5月号に掲載されています。
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