解説者のプロフィール

藤原英祐(ふじわら・えいすけ)
ふじわら医院院長。日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医。医学博士。1979年広島大学医学部卒業。県立広島病院、広島大学病院など多数の病院勤務を経て、1997年にふじわら医院を開院。自身が専門とする泌尿器科や内科のほか、ストレス性疾患や、原因不明の愁訴に対して統合医学的アプローチを実践。
▼ふじわら医院(公式サイト)
実践した患者の4分の3超が効果を実感
[別記事:鎖骨ストレッチのやり方→]
私の医院は月に1回、かなや整骨院の金谷康弘先生に来ていただいています。その金谷先生がお勧めしているのが、「鎖骨ストレッチ」です。実際に患者さんに試してもらったところ、驚くほどの効果がありました。
2019年12月に集計した段階で、54名に試してもらい、効果があったという人は約4分の3に当たる41名。さらに、この41名中の20名は、特に顕著な効果を感じたようです。
私は以前から、いわゆるタッピング療法と呼ばれるような、心理面にも影響するセルフケアに関心があり、実際に自分でも試してきました。
金谷先生の鎖骨ストレッチは、それらのセルフケアに似た性格を持つ健康法と考えられます。そして、今まで試したなかではいちばん即効性があり、また、効き目も優れているという印象を持ちました。
具体的な効果は、実にさまざまです。鎖骨ストレッチを行った直後に、「目がスッキリした」「目の前が明るくなった」「よく見えるようになった」といった改善を感じた人が多数いました。
また、「頭痛や肩こりが楽になった」という人や、「めまいが消えた」という人もいました。
呼吸系の症状にも改善が見られました。「呼吸が楽になった」という人や、「胸が温かくなって、息苦しさが改善した」と感じる気管支ぜんそくの患者さんもいました。
胃腸の症状が改善した人も少なくありません。「胃もたれがよくなった」「みぞおちの不快感が消えた」といった人もいます。
うつや不眠についても効果があるようです。鎖骨ストレッチを行うと、その場で、気分が明るくなったと感じたり、眠くなったりした人も多くいました。眠くなるのはリラックス効果の現れです。

さまざまな症状が改善している。
すぐに呼吸が楽になった例も
では、なぜ、鎖骨ストレッチによって、このような多くの効果が生まれるのでしょうか。
脳には、扁桃体という部位があります。扁桃体は、人間の感情をつかさどっている部位ですが、強いストレスがかかったり、何かの体験がトラウマ(心的外傷)になったりすると、この扁桃体が過剰に興奮します。
そしてそれが、私たちの心身に大きな影響を及ぼします。扁桃体の興奮が、自律神経の働きを乱すのです。
自律神経は、私たちの意志とは無関係に働き、内臓や血管などをコントロールしている神経です。自律神経には、アクティブな活動を支える交感神経と、休息の神経とされる副交感神経の二つがあり、本来は両者がバランスを取り合って働いています。
しかし、扁桃体が過剰に働くと、そのバランスが乱れ、交感神経が過緊張を起こします。すると、不眠やイライラ、発汗、過呼吸、うつなどの不定愁訴が起こります。これが、いわゆる自律神経失調症と呼ばれるものです。
私は、鎖骨ストレッチで鎖骨周辺を刺激することは、扁桃体の興奮を抑える効果があるのではないかと考えています。
扁桃体の興奮が抑制されれば、自律神経の乱れも回復します。これによって、前述したような不定愁訴も改善すると考えられます。
では、鎖骨ストレッチが効果を発揮した体験例をいくつか挙げましょう。
70代の女性は、一度、ひどいじんましんを経験して以来、何か食べたら発作が出るのではないかと怖くなり、食べ物がのどを通らなくなっていました。
そこで鎖骨ストレッチを行ったところ、胸がスッキリした感じがあったそうです。3日後には、「以前のように、普通に食事できるようになりました!」と、うれしそうに報告してくれました。
このケースはトラウマによる強い不安、恐怖が短時間で消えています。自律神経の改善では説明できません。鎖骨ストレッチが扁桃体に直接作用している傍証と考えます。
50代の看護師の女性は、気管支ぜんそくがあり、ヒューヒューという喘鳴が出ていました。ところが、鎖骨ストレッチをすると、すぐに止まりました。
呼吸の状態を測る指標として、酸素飽和度という数値がありますが(正常値は96%以上)、この数値が、鎖骨ストレッチの前後で94%から98%まで改善し、明らかに呼吸が楽になっていることがデータでも示されたのです。
鎖骨ストレッチは、副作用の心配もありませんし、このように多くの効果が期待できる健康法です。ぜひ試してみてはいかがでしょうか。
[別記事:鎖骨ストレッチのやり方→]

この記事は『壮快』2020年5月号に掲載されています。
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