「足が痛い」「合う靴がない」「素足を見せるのが恥ずかしい」など、多くの女性が悩んでいる外反母趾。「治らない」もしくは「手術しかない」とあきらめていませんか? そんなことはありません。運動器(背骨、手足など)の障害に詳しい整形外科医の青木孝文先生に、外反母趾について教えていただきました。
【解説】青木孝文(山王病院整形外科部長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

青木孝文(あおき・たかふみ)

1957年、東京都生まれ。日本医科大学卒業。91年、日本医科大学大学院修了、医学博士修得。同年、日本医科大学整形外科医員助手。92年、ボストン大学神経筋研究センター留学。94年、帰国。97年、日本医科大学整形外科講師に昇任。99年、日本整形外科学会会長賞受賞。2008年、日本医科大学武蔵小杉病院整形外科部長。現在、山王病院整形外科部長。足の外科を中心に手足の神経、筋肉の活動の動態についての研究などを行う。著書に『外反母趾は包帯1本で治せる』(マキノ出版)などがある。日本整形外科学会認定整形外科専門医)
・日本手外科学会認定手外科専門医)
山王病院(公式サイト)
専門分野と研究論文(CiNii)

外反母趾の種類と診断基準

骨の変形と痛みの程度は必ずしも一致しない

外反母趾とは、本来まっすぐであるはずの足の第一指(親指)が、第二指(人差し指)側に「く」の字に曲がり、第一指のつけ根の関節(MTP関節)が変形して外側に突き出る症状です。

痛みを伴うことも多く、その要因は主に、
MTP関節の周りを動かす滑液包(バニオン)がこすれて痛む
関節周囲の筋肉がかたくなり痛む
皮膚表面を走っている細かい神経がこすれて痛む
など、三つのタイプが挙げられます。外来に訪れる患者さんの比率ではの痛みが50%、が40%、が10%となります。

外反母趾の症状については、大きな誤解があります。それは、関節の曲がりと痛みの程度は必ずしも一致しないということです。足の第一指がひどく曲がっているのに痛みがない場合もありますし、逆にあまり曲がっていなくても激しい痛みを訴える人もいます。

20度以上曲がっていたら整形外科へ

では、外反母趾の診断は、どのように行うのでしょうか。整形外科学会で作成されたガイドラインでは、足の第一指の曲がっている角度が、
20~30度=軽症の外反母趾
30~40度=中等症の外反母趾
40度以上=重症の外反母趾
というのが、外反母趾の診断基準となっています。

皆さん、自分の足の指の角度を測ってみてください。痛みがなくても、足の第一指の曲がっている角度が20度以上あれば外反母趾です。そのような人は、まず整形外科を受診することをお勧めします。

画像: 20度以上曲がっていたら整形外科へ

セルフケアで多くの人の痛みが改善

外反母趾と診断された人が治すのに、最も有効な手段は従来、手術しかありませんでした。手術は、足の第一指のつけ根の関節に関係する骨、あるいは筋肉や靭帯を切ったり繋ぎ直したりして、変形を矯正するものです。

しかし、手術をしても結果がよくないこともあります。また、入院期間が1ヵ月以上かかることもあります。入院すれば費用もかさみます。もしかすると再発するかもしれないといわれれば、積極的に手術を受けるべきかどうか悩む人も多いでしょう。長年、外反母趾に苦しんできた患者さんにとって、改善策が手術しかなければ、最後の最後に「苦渋の選択」を迫られるわけです。

そんななか、私は新しい選択肢として、自宅でできるセルフケアを紹介しています。これまで多くの患者さんに勧め、約85%の人の痛みが改善し、1~2年続けることで変形もよくなることがわかっています。決して「手術しかない」ということはありませんので、安心してください。

外反母趾の原因とは

横アーチのくずれがきっかけに

まずは、足の構造についてお話ししましょう。

足には、たくさんの骨があります。指側には14個の趾節骨(しせつこつ)、2個の種子骨(しゅしこつ)、5個の中足骨(ちゅうそくこつ)があります。中央部には5個の足根骨(そっこんこつ)、かかと側には距骨(きょこつ)と踵骨(しょうこつ)という2個の骨があり、全部で28個の骨からできています。これらの骨がそれぞれ靭帯で連結され、さらに筋肉で支えられることにより、縦と横のアーチ状のドームを形成しています。

足の第一指のつけ根から、かかとのつけ根を結ぶ縦のアーチがいわゆる「土踏まず」です。足の第一指から第五指(小指)までを結ぶのが、横のアーチです。アーチ構造は歩行時のバネとして働き、スムーズな移動を可能にするのと同時に、体重が足にかかるときの緩衝器としての役割もあります。

画像1: 横アーチのくずれがきっかけに

この二つのアーチは、チンパンジーやオランウータンなどの類人猿にはありません。ヒトの足にだけあるものです。

類人猿とヒトの足の違いはほかにもあります。類人猿の足の第一指は、手の親指と同じように、横に広がる骨格です。それに対し、ヒトの足は5本の指が平行に並んでいます。そのため、足の第一指を外側にギュッと広げるための「母趾外転筋」が弱くなっています。

もう一つ、重要な役割を果たす筋肉があります。足の第一指のつけ根の裏側にある、「母趾内転筋」です。これは指先を内側にひねるための筋肉です。関節を支え、その動きを作り出すためには、母趾外転筋と、母趾内転筋のバランスが必要です。

画像2: 横アーチのくずれがきっかけに

横のアーチを作って足を引き締めているものが、靭帯なのか筋肉なのか、いまだに明らかになっていません。いずれにしても、足を引き締めている構造が衰え、横のアーチがなくなると、足が全体的に広がります。この状態を「開張足(かいちょうそく)」といいます。

開張足になると、足が横に広がった分だけ、母趾内転筋が外に引っ張られます。すると、足の第一指を外側に広げる母趾外転筋の力が弱くなり、足の第一指はつけ根の関節のところで第二指側に曲がってしまうのです。これが、外反母趾の起こるメカニズムの一つです。

男性も外反母趾を発症する

外反母趾を発症する約90%が女性です。特に、更年期以降の女性に目立ちます。もちろんこれらの人たちのなかには、若いころに外反母趾が始まり、その年代になってひどくなった人もいるでしょう。

どうして女性に多いのかについては、明確な答えは出ていません。しかし、一つ考えられるのは、女性は男性に比べると筋力が弱いという点です。足の筋肉が弱いことで、筋肉のバランスが悪くなり、外反母趾になりやすいのだと思われます。

男性の外反母趾の患者さんは少ないものの、そのなかに脊柱管狭窄症(背骨内部の神経の通り道が狭くなり、神経が圧迫されて痛みやしびれが出る病気)のような腰の病気を患っているケースがときどき見つかります。その場合も脊柱管狭窄症の影響で足の筋肉が衰えて、外反母趾を発症した可能性があります。くり返しになりますが、足の第一指の曲がっている角度が20度以上あれば、一度、整形外科を受診してください。

[別記事:【外反母趾・ハンマートゥ】ストレッチや体操で改善する方法→

なお、本稿は『外反母趾を自分で治す最強療法』(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。詳細は下記のリンクよりご覧ください。

画像: ▼「改善するには手術しかない」といわれてきた外反母趾。そんな常識を覆すセルフケアを一挙公開。▼医師と治療家が推奨する七つのメソッドを詳細に解説。▼外反母趾のさまざまな悩みにこたえる一冊。 www.amazon.co.jp

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