【解説】石原新菜(イシハラクリニック副院長)
解説者のプロフィール

石原新菜(いしはら・にいな)
医師。イシハラクリニック副院長。1980年生まれ。帝京大学医学部卒業後、同大学病院で2年間の研修医を経て現職。漢方医学、食事療法を中心とした治療に当たる。クリニックでの診療のほか、わかりやすい医学解説と親しみやすい人柄で、講演、テレビ、ラジオ、執筆活動と広く活躍中。日本内科学会会員。日本東洋医学会会員。日本温泉気候物理医学会会員。2児の母。
▼イシハラクリニック(公式サイト)
走れば自然と「頭寒足熱」になる
女性は下半身に血液が行きにくい
動悸、肩こり、頭重、のぼせ、耳鳴り、高血圧。東洋医学では、これらをすべて、「昇症」によって現れる症状と考えます。昇症とは、上半身に血液が上ってしまった状態を指します。
昇症の人は、身体的な症状だけでなく、イライラ、うつ症状、怒りが収まらない、一つの考えにとらわれてしまう、など、精神面でも問題を抱えやすくなります。これは、「頭寒足熱」の逆パターン。
勘違いしている人が多いのですが、「頭寒足熱」は、「頭を冷やし、足を熱くしろ」という意味ではありません。「頭が熱を持つのはよくない」「足が冷たいのはよくない」、つまり「頭が熱を持たず涼やかで、足が温かいのが健康な状態」という意味なのです。
もう一つ、血液は「液」だから、下にたまると思っている人が多いようです。ところが、現代の日本人、特に女性は筋肉量が少なく、毛細血管が減っているので、血液が下半身に行くにくいのです。
頭ばかり使うと心身に不調が起こる
また、東洋医学では、「気(エネルギー)」「血(血液)」「水(血液以外の体液)」がバランスよく循環することで健康が維持されると考えます。血は気の影響を受けやすく、気がある場所へ集まっていく習性があるのです。そのため、頭ばかり使っていると、血はどんどん頭へ上り、頭に熱を運んでいきます。そこに、ストレスや疲労などが重なると、心身に不調を来すというわけです。
上った血液を下ろすには、下半身を動かして血流量を増やすのがいちばん。そうすれば、自然と血液が下りてきます。私のクリニックでは、症状に応じて漢方薬を処方しますが、患者さんにできる範囲で、ウォーキングやランニング、スクワットなどの運動を必ず勧めます。「頭寒足熱」の状態に持っていきやすいからです。
最初は歩くだけでも、歩いたり走ったりでもかまいません。ほんの少し足を動かすだけで、血の巡りが変わり、体の不調が軽減し、大病を予防し、さらにメンタルケアにもなるのです。
「怒りっぽい」のは性格ではなく体の不具合
足を動かすと頭がスッキリする
「朝30分のランニング」を始める前の私は、毎朝子供たちをどなっていました。よくご近所さんに通報されなかったと、冷や汗が出る思いです。
当時の私は、昇症だったのでしょう。気といっしょに血も頭に上るので、顔が紅潮して熱くなります。怒りでカーッとすることを、「頭に血が上る」といいますが、まさにそれが昇症です。そんなとき、人に「まあまあ、落ち着いて」といわれると、よけいに腹が立ちますよね。かといって、自分でも打つ手がない。
ここで視点を変えます。「頭に上った血を下ろす」のではなく、「足に血を集める」のです。それには、走って足の筋肉を動かすのがいちばん。走れば、頭にたまっていた血液がたちまち下半身へ向かいます。血が動きだせば、気も流れるので、頭がスッキリして冷静に考えられるようになるのです。
怒ったあとは「自己嫌悪」、走ったあとは「爽快感」
一般に、「怒りっぽい人」や「いつもイライラしている人」に対して、「性格だから直らない」と思いがちです。でも、漢方医である私から見ると、そうした精神状態も、体の不具合から発生しているもの。適切な治療をすれば治ります。
体と心のつながりを知っていると、案外簡単に感情をコントロールできるもの。「最近、怒りっぽいな」と感じている人は、そのエネルギーを走ることに使ってみてください。怒ったあとは「自己嫌悪」が残りますが、走ったあとには「爽快感」がやってきます。

早朝、木漏れ日の中を走る新菜先生
女性ホルモンのバランスも整う
毎月苦しんでいた生理痛から解放
最近、20~30代の若い女性が、更年期障害に似た症状を訴えるケースがあります。生理が来ない、冷えのぼせ、多汗、めまい、耳鳴り、イライラ、うつ症状などです。また、生理不順や生理痛、月経前症候群などを抱える女性も増えています。
そんなかたがたにも、私はランニングをお勧めしています。走って下半身を動かすことで、子宮や卵巣への血流が増え、働きもよくなってくるからです。卵巣は、女性ホルモンを分泌する大切な臓器。血流がよくなって、酸素と栄養素がたっぷり送り込まれれば、乱れていたホルモンバランスも整ってきます。
血液や気の流れが滞っている状態を、東洋医学では「瘀血(おけつ)」といいます。婦人科系の不調を訴える患者さんのほとんどは、瘀血の状態。ランニングには、滞った血液と気の流れをよくする効果があることは、くり返しお話ししているとおり。
実は私も、昔は毎月、生理痛に苦しんでいました。でも、毎日走るようになってからは、全く症状が出ません。たまに、生理前におなかがかたく張ることがありますが、走るとスッと楽になります。「瘀血が流れた!」と実感します。

更年期も乗り越えやすい
閉経後は生殖器への血流が減少する
更年期障害の原因は、西洋医学では、エストロゲンという女性ホルモンの急激な減少によるものとされます。そのため、人工合成したエストロゲンを補うことで症状を緩和する「ホルモン補充療法」が主流です。
一方、東洋医学では更年期障害を「腎虚」ととらえます。東洋医学では、成長や生殖、老化にかかわる臓器の機能を「腎」といいます。この機能は、西洋医学でいう腎臓だけでなく、泌尿器や生殖器も担っていると考えます。腎が低下した状態を腎虚といい、心身にさまざまな症状が現れます。更年期障害は、その一つです。
女性の場合、閉経を迎えると、妊娠・出産という役目がなくなるため、体が、卵巣や子宮への血流を減らします。その分、上半身に血液が向かうため、のぼせやホットフラッシュ、イライラ、肩こり、赤ら顔、頭痛、めまい、耳鳴りなどが起こるのです。当然、下半身は冷えるので、足は冷たくなり、便秘、下痢、ひざ痛、腰痛が起こることもあります。
更年期障害が軽い人たちの共通点
そう考えると、ランニングは、更年期障害に予防・改善にも非常に有効です。実際、更年期(45~55歳)の女性ランナーの皆さんは、驚くほど元気でキレイ。実例をたくさん目の当たりにしているので、ついつい患者さんへの説明にも力が入ってしまいます。
走ることで下半身の筋肉がつくと、毛細血管が増え、下半身に血液が巡ります。そのため、頭に血が上って不調が出ることが少なくなるのです。
更年期障害の程度には個人差が大きく、血液検査ではエストロゲンが減っているにもかかわらず、症状が軽い人や、全く出ない人がいます。更年期障害の軽い人に話を聞くと、共通するのは、「定期的に運動をしている」「忙しく仕事をしている」「頻繁に外出するような趣味を持っている」という点です。下半身を動かし、血液を全身に巡らせているのです。
生命力があふれて魅力的になる
性の悩みにも冷えが関わっている
私は診察の際、病気の症状だけでなく、生活全般について、細かくお話を聞くことにしています。ここ数年増えてきたのが、女性のセックスの悩みです。以前は更年期以降の女性がほとんどでした。ところが最近は、20代30代のかたが少なくありません。
相談内容で多いのが、性交痛と性欲減退です。実は、この二つの裏側には、「冷え」が潜んでいます。「手足が冷たい」「手足は温かいが、おなかが冷たい」「水を飲むと、いつまでも胃の中でチャポチャポ音がしている」という人は、体が冷えていると思ってください。
冷えがあると、「熱を逃がさないようにしなければ!」という体の防御反応で、血管が収縮し、血流が悪くなります。特に、子宮や膣は、血管が多く、血流の影響を大きく受ける部位。子宮も膣も、本来は常に温かい血液が流れ、やわらかいもの。それが冷たく固まっていると、性交時に痛みを感じるのです。
性交痛があると、性欲が減退するのもしかたないことかもしれません。しかし、性欲は、食欲や睡眠欲と同じように、本能として備わっているものです。若くして本能が薄れてくるのは、やはり健康とはいえないでしょう。
女性だけでなく、男性にも若い世代の腎虚が増えています。ED(勃起不全)や性欲減退はもちろん、足腰が冷える、痛む、しびれる、つる、むくむといった症状は、腎虚の現れです。また、尿の出方に力がない、尿の切れが悪い、頻尿といった泌尿器系の症状も目安になります。
パートナーと並んで走ったり歩いたり
こうした患者さんがたにも、私はランニングやウォーキングを勧めています。歩く、走るという動作は、下半身の筋力強化はもちろん、股関節を大きく動かすので、骨盤に刺激を与えます。その結果、下半身の血流量を増やすとともに、生殖器の収まっている骨盤内の血行も改善するのです。
私の周りには、男女問わず、「ランニングを始めたら、モテるようになった」という人がたくさんいます。体型が引き締まるとか、顔色がよくなって肌にツヤが出るとか、見た目が若返って魅力的になることで、人の関心を引くのでしょう。それ以外にも、走る習慣を持つ人は、男女とも、生命力があふれている気がします。理屈ではなく、本能に訴えかける魅力です。
パートナーがいるかたは、できれば時間の都合をつけて、いっしょにランニングやウォーキングをすると、よりいいでしょう。向かい合うのではなく、横に並んでおしゃべりするというのは、なかなか新鮮でいいものですよ。
なお、本稿は『女のキレイは30分でつくれる』(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。詳細は下記のリンクよりご覧ください。

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