姿勢の維持には胸や腹の筋肉が膨らみ、突っかい棒のように腹側から背骨を支えていて、過度に緊張して常に縮んだ状態だと十分に膨らむことができません。耳の裏シールは、伸縮する皮膚の動きで、筋肉に微弱な刺激を与えてゆるめます。【解説】北裕二(パーソナルトレーナー)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

北裕二(きた・ゆうじ)

パーソナルトレーナー。ポイントテーピング考案者。大手フィットネスクラブでチーフトレーナー、店舗責任者、スーパーバイザーなどを歴任。運動指導だけではよくならない事例を多く見たことで、さまざまな手法を学び、独自メソッド「からだコネクト」を考案。プライベートトレーニングサロンki-ta(キータ)で、パーソナルトレーニング・加圧トレーニングをはじめ、古今東西の整体を組み合わせた独自の施術で、トレーニング初心者からプロスポーツ選手などのトップアスリートまで、幅広くサポートしている。全国各地での講座・講演も積極的に行っている。

100円均一ショップで買えるシールをはるだけ

耳の裏をはじめとする、いくつかのポイントとなる場所に小さなシールをペタペタはるだけで、痛みやこりが取れ、曲がった背すじが伸び、むくみが取れ、ウエストが細くなる。耳鳴りや頻尿が改善する。

こんな驚きの効果が出る「耳の裏シール」(正式には「ポイントテーピング」という)健康法をご紹介したところ、大きな反響をいただきました。

そこで今回は、基本のはり方に加え、肩・ひざ・腰といった筋肉がねじれやすい部分に、さらに効果を出すはり方も合わせてご紹介したいと思います。

耳の裏シール健康法で必要なのは、2cm角程度の大きさの肌用シールだけです。

お勧めは、磁気治療粒やゲルマニウム粒のはり替え用シール。すでに2cm角程度の形になっているので、台紙からはがして所定の場所にはるだけと、とても簡単です。

はり替え用シールは、100円均一ショップやドラッグストアなどで購入できます。

テーピング用テープやキネシオロジーテープ(伸縮性がある筋肉サポートテープ)、布ばんそうこうなどを2cm角に適宜切って使っても構いません。

コストパフォーマンスとしては、こちらの方がよいかもしれません。効果は変わらないので、手軽さとコスパのどちらを重視するか、ご自身の好みで選んでください。

屈筋をゆるめるには微弱な刺激が最適

それでは、耳の裏シールがなぜこれほど大きな効果を幅広く生み出すのかを説明します。

私たちの体を支えているのは、筋肉です。そして、筋肉がどれだけ力を出せるかは、筋肉がどれだけ膨らめるかと、全身の筋肉がどれだけ連係して働けているかで決まります。

関節には、曲げるときに縮む「屈筋」と、伸ばすときに縮む「伸筋」の2組の筋肉がセットで働いています。筋肉は、折り畳み提灯のようなもので、力を入れると収縮し、ゆるむと膨らみます。

これまで筋肉は収縮するときに力が入り、体を支えていると考えられてきました。しかし、実は、筋肉がゆるんだときにどれだけ膨らめるかがカギだったのです。

姿勢で考えてみましょう。一般的に姿勢を維持しているのは、脊柱起立筋など背中側の伸筋が収縮して、背骨を引っ張って伸ばしていると考えられています。

けれども、ずっと伸筋に力を入れっ放しでなければ姿勢の維持ができないのであれば、疲れてしまうと思いませんか? 

実際には、背中の逆側、つまり胸や腹の筋肉(屈筋)が膨らみ、突っかい棒のように腹側から背骨を支えているのです。

ところが、この突っかい棒が短かったらどうでしょう。屈筋が過度に緊張して常に縮んだ状態だと、いざゆるめようとしてもゆるみきれず、十分に膨らむことができません。

突っかい棒の長さが足りないわけですから、伸筋だけでは支えきれなくなって、背中や腰が曲がってきてしまうのです。

もう一つのポイントは、屈筋の緊張をゆるませるには、強い刺激ではなく、なるべく弱い力で刺激するのが一番効果的だということです。

押したりもんだり、たたいたり引っ張ったりといった強い刺激は、かえって筋肉を緊張・収縮させてしまい、逆効果になります。

耳の裏シールは、屈筋に沿ってシールをはり、動作に合わせて伸縮する皮膚の動きで、筋肉に微弱な刺激を与えてゆるめます。しかも肌に点々とはっていくだけですから、力加減など専門的な技術や知識もいらず、誰にでもできます。

画像: 全身の屈筋のライン 屈筋は耳の周辺から始まり上半身は前側、下半身は後側をつないでいる

全身の屈筋のライン
屈筋は耳の周辺から始まり上半身は前側、下半身は後側をつないでいる

屈筋は、耳たぶ下側のエラ(下顎角)につく咬筋、耳の裏側から首に走る胸鎖乳突筋といった耳周辺の筋肉から、首の前側の舌骨上・下筋、胸の大胸筋・肋間筋、胴の深部にある大腰筋、太もも裏のハムストリングス、ふくらはぎの腓腹筋・ヒラメ筋、足の裏で母趾球につながる長母趾屈筋に至る一連のラインを構成しています(上図参照)。

そこで、シールをはる最大のポイントになるのは、屈筋群の始点である耳の裏と、終点の足裏の母趾球です。屈筋群の始点と終点に微弱な刺激を与えることで、屈筋ライン全体がゆるめられます。

それに加え、屈筋ラインの途中にもシールをはることで、筋肉の連係が強くなり、筋肉をゆるめる刺激も全身に中継されやすくなります。

次項を参考に、まずは11ヵ所全部にはってみて、屈筋がゆるんで膨らんだ結果、体がどれだけ変わるか、ご自分の目で確認してください。 

耳の裏シールの基本的なやり方

基本的にシールは1~2日はりっぱなしでよい。入浴時などにはがれたら、はり直す。
かゆみ、かぶれ、発疹など肌に異常が出た場合は、すぐにはがして使用を中止する。傷や炎症がある場所にははらないこと。
体のゆがみが解消し、体が整ってきたら、中1日、中2日とシールをはらない日を増やしていくとよい。

【用意するもの】

画像1: 【コリ・痛み】2㎝角の肌用テープを貼るだけのセルフケア  微弱な刺激が筋肉の緊張を緩和

磁気治療粒やゲルマニウム粒のはり替え用シール。100円均一ショップでも購入できる。

画像2: 【コリ・痛み】2㎝角の肌用テープを貼るだけのセルフケア  微弱な刺激が筋肉の緊張を緩和

キネシオロジーテープや布ばんそうこうなど肌用テープを2cm角に切ってはるのでもOK!

■基本ポイント[屈筋ラインの始点と終点にはる(4ヵ所)]

画像1: ■基本ポイント[屈筋ラインの始点と終点にはる(4ヵ所)]

【耳の裏】
耳たぶの後ろ側にあるくぼみ。左右の耳の裏にはる

画像2: ■基本ポイント[屈筋ラインの始点と終点にはる(4ヵ所)]

【足の裏】
足の裏の親指の付け根の膨らみ(母趾球)の中央にはる

■中継ポイント[屈筋ラインの途中にはる(5ヵ所)]

画像1: ■中継ポイント[屈筋ラインの途中にはる(5ヵ所)]
画像2: ■中継ポイント[屈筋ラインの途中にはる(5ヵ所)]

【鎖骨の下】
鎖骨の下側を内から外に向けて指でたどったときに肩の近くで指が止まるくぼみ

画像3: ■中継ポイント[屈筋ラインの途中にはる(5ヵ所)]
画像4: ■中継ポイント[屈筋ラインの途中にはる(5ヵ所)]

【胸骨】
握りこぶしで胸骨をこすってみて、圧痛(押したときに感じる痛み)を一番強く感じるポイント

画像5: ■中継ポイント[屈筋ラインの途中にはる(5ヵ所)]
画像6: ■中継ポイント[屈筋ラインの途中にはる(5ヵ所)]

【おなか】
へそから45度斜め上に指2本分(約2~3cm)上がったポイント

■重心ポイント[脛骨の真下(2ヵ所)]

画像: ■重心ポイント[脛骨の真下(2ヵ所)]

【足の裏】
内くるぶしを足の裏に向かってたどり、かかとの膨らみとぶつかったところ

最初のうちは、基本ポイント+中継ポイント+重心ポイントの11ヵ所全てにシールをはり、屈筋ラインをしっかりゆるめ、筋肉のつながりを作る方が効果が分かりやすい。
一番最初は、確認のため体の片側だけにシールをはってみるのもよい。はった側だけ頬が持ち上がってほうれい線や二重あごが解消したり、すくんでいた肩が下がったりする変化を自分の目で確認できる。
中継ポイントと重心ポイントは、屈筋がある程度ゆるみ、筋肉のつながりが作れてきたら、省いてもよい。効果が落ちないことを確認しながら、1ヵ所ずつ減らしていくとよい。

■症状別の追加ポイント

基本的なはり方の11ヵ所に加えて、シールを各ポイントにはるのが基本です。中継ポイントを省いている際も、症状別で該当する箇所にははっておきましょう。

【四十肩、肩こりなど肩周りの症状に】

画像1: ■症状別の追加ポイント

❶鎖骨の上側を内から外に向けて指でたどったときに肩の近くで指が止まるくぼみ
❷鎖骨の下側を内から外に向けて指でたどったときに肩の近くで指が止まるくぼみ(中継ポイントと共通)
❸わきの下のシワの上端

【腰痛、股関節痛など腰周りの症状に】

画像2: ■症状別の追加ポイント

◯背中側で腰骨(腸骨)のカーブに沿って指でたどったときに背骨近くで指が止まるくぼみ

画像3: ■症状別の追加ポイント

❶へそから45度斜め上に指2本分(約2~3cm)上がったところ(中継ポイントと共通)
❷腰骨(腸骨)の頂点から約5cm下

【ひざ痛、O脚などひざ周りの症状に】

画像4: ■症状別の追加ポイント

❶ひざ裏のシワの中心から指4本分(約6~7cm)上
❷ひざ裏のシワの外側の端から指3本分(約5cm)下

画像5: ■症状別の追加ポイント

❶ひざの皿の上端から指3本分(約5cm)上
❷ひざの皿の下部外側にある骨の出っ張りの約2cm下にある筋肉のくぼみ

画像3: 【コリ・痛み】2㎝角の肌用テープを貼るだけのセルフケア  微弱な刺激が筋肉の緊張を緩和

後藤敏勝
サムライ整骨院院長。柔道整復師。心・身体・環境の三位一体の考えのもと、西洋、東洋、量子、食、住居、自然環境を組み合わせ、施術や生活のアドバイスをしている。『感情は、出し切る!事で消えていく』(Kindle版)の著書がある。


筋肉をつなぐ綱の柔軟性を高めて脳に伝わる痛みの信号を変化させる耳の裏シール

北裕二先生考案の「耳の裏シール」は、私も患者さんの治療後のメンテナンスなどに、補助的に活用させてもらっていますが、とても手軽でセルフケアとしても非常によいものだと思います。

耳の裏シールが、なぜこれほど幅広く、素早く大きな効果を現すのか。私は、耳の裏シールが「ファシア」に働きかけ、脳に伝わるさまざまな電気信号を変化させているのではないか、と考えています。

ファシアとは、筋膜をはじめとした、体全体に張り巡らされている「線維状の結合組織の総称」です。皮膚の下で、筋肉や骨、内臓などの組織と組織の間をつないでいます。ファシアは、ちょうど目の粗いスポンジのような立体的な網目の構造を持ち、組織の隙間を作っています。

このファシアの立体的な網目が柔軟に伸び縮みして、筋肉などが滑らかに動けるようにするほか、リンパなどの体液の循環を助けているのです。

また、ファシアのもう一つの重要な働きとして、細胞同士の情報ネットワークも担っているということが挙げられます。ある部位のファシアへの刺激が、糸電話のようにファシアの網を通して他の細胞へと伝わっていきますが、その速さは通常の神経を通した信号伝達速度よりも速いといわれています。

ひざや腰などに痛みがあるとして、その痛みを感じているのは、「脳」です。また、耳鳴りやめまいなども脳に伝わる信号の認識エラーが原因となっていることがあります。

耳の裏シールは、肌のポイントにはったシールが生み出す皮膚感覚の微弱な刺激がファシアに伝わり、ファシアの柔軟性を高めます。同時に、脳に伝わる痛みや雑音などの信号に干渉して変化させるという相乗効果で、多くの症状を改善しているのだと思います。

筋肉のポンプ機能が高まり血流がよくなる

「耳の裏シール(ポイントテーピング)」で、屈筋の緊張を取り、屈筋をしっかり膨らませられるようになることで、大きく三つのメリットがあります。

屈筋が関節の突っかい棒として働いて、伸筋のサポートができるようになり、関節を支える筋肉のバランスが整う。

筋肉のポンプ機能が高まり、血液やリンパ(体内の余分な水分や老廃物、毒素などを運び出す体液)の流れがよくなる。

屈筋群のつながりがよくなり、全身の筋肉が連動して大きな力を出せるようになる。

この結果、身体パフォーマンスがどれぐらい変わると思いますか? 

私自身で言えば、レッグプレス(足で重りを持ち上げるトレーニング)が通常は440kgを5回なのが、耳の裏シールをはると600kgを15回上げられるようになります。

まるでドーピングのような効果ですが、これはあくまでテーピングであって、決してドーピングではありません(笑)。

私は、プロスポーツ選手のパーソナルトレーニングも多数担当しているのですが、顕著に身体能力が上がることから、さまざまなスポーツのトップアスリートの中にも耳の裏シールの愛用者が増えてきています。

日本プロ野球某球団のエースピッチャーは、主に練習時に耳の裏にシールをはっています。

耳の裏シールをはり始めてからは、体の動きがとてもよくなったそうで、昨シーズンはひじを痛めることもなく、シーズンを通して活躍しました。2年連続2ケタ勝利という素晴らしい成績を収めたのです。

現役Jリーガーで、元日本代表でもあるゴールキーパーも、昨年から耳の裏シールを活用している一人です。

彼は昨シーズン、試合中にも耳の裏シールをはっていて、いい状態で過ごせたと大変気に入ってくれました。耳の裏シールをはると、筋肉の反応がよくなり瞬発力も上がるので、守備範囲が広がるのでしょう。また、シーズンを通してケガもなく、連戦でも疲労を感じることなく過ごせたそうです。

また、私はある大学の駅伝部のサポートもしており、トレーニングの際に耳の裏シールをはってもらったところ、みるみる選手たちの動きが変わりました。明らかに体が軽くなって、走るときのストライド(歩幅)が大きくなったのです。

選手たちに聞くと、走行中も効率よく呼吸ができたり、トレーニング後の疲労回復がとても早くなったりした実感があるそうです。チームの今後の躍進を期待しています。

寝たきりだった高齢者が自力で食事ができた

こうしたトップアスリートの能力向上に役立つ一方で、筋力が低下したり、関節の変形や痛みに悩まされたりして、毎日の生活にさまざまな支障が出ていた方のQOL(生活の質)を上げるのにも耳の裏シールは非常に役立ちます。

例えば、ご高齢で筋力が衰え寝たきりだった方は、ご家族が耳の裏シールをはってあげたら、体幹が安定して体を起こしやすくなり、自力で食事ができるようになったそうです。

また、脳内出血の後遺症でマヒが残っていた方で、耳の裏シールをはっていたら力が込められるようになり歩行が安定し、手指が動かしやすくなって、スプーンでなくはしが使えるようになった例もあります。

変形性股関節症で朝起き上がれないほどの激痛があったにも関わらず、耳の裏シールをはったらたちまち痛みが引いて、いつも通りに仕事ができ、その日も1万歩以上歩けたと報告してくれた方もいます。

年齢も体力も問わず、はるだけで誰もが体を使いやすくなる耳の裏シールを、ぜひ皆さんも活用してください。  

画像: この記事は『安心』2020年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年4月号に掲載されています。

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