テレワーク推奨や外出自粛要請により、運動量が減っているかたが多いと思います。「4月に入ってから体重増加中」という声もよく聞きます。食事の量や内容を適切にするのはもちろんですが、極端に我慢するのはストレスの元。イシハラクリニック副院長の石原新菜先生は、1日30分のゆっくりランニングで、健康的なシェイプアップを実現。患者さんにも推奨しています。なぜ、ちょっと走るだけでもメリハリ体型になるのか、新菜先生に教えていただきました。ランニングの際にも「3密(密閉・密集・密接)」を避け、マスクやフェイスカバーを着用するなどの配慮をしましょう。
【解説】石原新菜(イシハラクリニック副院長)
解説者のプロフィール

石原新菜(いしはら・にいな)
医師。イシハラクリニック副院長。1980年生まれ。帝京大学医学部卒業後、同大学病院で2年間の研修医を経て現職。漢方医学、食事療法を中心とした治療に当たる。クリニックでの診療のほか、わかりやすい医学解説と親しみやすい人柄で、講演、テレビ、ラジオ、執筆活動と広く活躍中。日本内科学会会員。日本東洋医学会会員。日本温泉気候物理医学会会員。2児の母。
▼イシハラクリニック(公式サイト)
「美容」に使っている時間を「ラン」に換えよう
メリハリ体型には運動が大切
「やせたい」「美しくなりたい」という願望は、女性なら誰もが持っているでしょう。そのために、高価な商品を飲んだり塗ったりしている人も、多いかもしれません。
でも、ちょっと待ってください。「やせる」という健康食品も、「むくみが取れて引き締まる」という化粧品も、おそらく「新陳代謝をよくして、細胞を活性化させる」という機序ではないでしょうか?
だとしたら、それはランニングで手に入ります。
今、美容のために費やしている時間を、走ることに使ってみませんか?
小柄で筋肉量の少ない日本人女性が、極端な食事制限をすると、スマートではなく、貧相になります。実際、最近の女優さんやモデルさんたちも、プロポーション維持のために、ランニングをはじめ、さまざまなトレーニングを習慣化しています。体重を落とすだけでなく、メリハリのついた体型をつくるには、やはり体を動かすことが大切なのです。
また、食事だけでやせようとすると、肌が荒れたり、リバウンドしたり、あまり効果が得られないケースが少なくありません。食事を調整しつつ、運動と組み合わせるのがベストです。筋肉量を増やして基礎代謝量(安静時に消費するエネルギー量)を上げると、「食べても太りにくい、やせ体質」になりやすいのです。
筋肉なくして健康なし!
内臓やホルモンバランス、免疫力にまで影響する
ここで少し、筋肉の話をしましょう。
「筋肉を動かさずして、健康はありえない!」というのが、私の持論です。
私の患者さんには、なにかしらの運動を毎日続けてもらっていますし、テレビや雑誌の取材では、必ず「運動」のお話をします。運動が必要なのは、患者さんばかりではありません。すべての人が、運動できる体でいてほしいし、運動できるだけの筋肉を維持してほしい。筋力がなければ、運動能力だけでなく、内臓や脳、ホルモンバランス、免疫力までもが弱ってしまうからです。
私は、筋肉は熱を作る「臓器」だと考えています。筋肉は、私たちの体を動かすだけでなく、生命を維持する大事な役割を担っているのです。この場合の筋肉は、骨格筋(運動して鍛えることによって増やせる筋肉)を指します。心臓や胃など、内臓も筋肉でできていますが、それは除きます。
さて、体を横たえ、じっとしている状態では、筋肉の熱産生量は全身の約22%を占めます。熱を産生するということは、エネルギー(カロリー)を使っているということです。つまり、これが「基礎代謝量」ですね。
ちなみに、残りの78%の内訳は、次のようになっています。
肝臓=約20%
脳=約18%
心臓=約11%
腎臓=約7%
皮膚=約5%
神経その他=約17%
つまり、筋肉の生み出す熱量は、脳や肝臓などとほぼ同じです。
ところが、運動をすると、筋肉の熱産生率は最大となり、約80%まで上がることもあります。
このように、筋肉量が多いほど、また、運動量が多いほど、熱の産生量が増え、体温が上昇します。体温が上がると、基礎代謝だけでなく、免疫力もアップすることがわかっています。体温が1℃上がると、一時的ではありますが、基礎代謝が12%上昇、免疫力は5〜6倍強化されるといわれます。
つまり、筋肉量が多く、たくさん運動をする人ほど、食べても太りにくくなり、病気にもかかりにくくなるのです。
さらに、筋肉の中には、たくさんの毛細血管が存在します。毛細血管とは、動脈と静脈をつなぐ細い血管のことです。各細胞に栄養・酸素を供給し、老廃物を体外に排出する働きをしています。
筋肉が減ると、当然、毛細血管も減少します。それでは、栄養・酸素補給と、老廃物の排出がうまくいかなくなり、健康を害する可能性も出てきます。
毛細血管を増やすにはのんびりランが最適
なんだか脅してしまいましたが、怖がらなくても大丈夫。ランニングをすれば、下半身の筋肉と毛細血管を増やすことができます。
私たちの筋肉は、その7割が下半身についています。特に、太ももとお尻の筋肉は非常に大きい。ここを鍛えることで、効率的に基礎代謝量を上げることができます。最初は10分歩くだけでOK。太ももとお尻の筋肉を意識して、ちょっとがんばって歩いてみてください。慣れてきたら、ウォーキング→ジョギング→ウォーキングと、休み休みでもいいので、「走り」を取り入れてみましょう。
よく、「筋肉をつけるにはウォーキングやランニングなどの有酸素運動ではなく、負荷をかけた筋肉トレーニングが有効」といいますが、健康のためにつける筋肉であれば、ランニングで十分です。
ランニングで使う持久力に強い筋肉を「遅筋」、ボディビルやウエイトリフティングの選手のような、パワーがあって太い筋肉は「速筋」といいます。遅筋には毛細血管が多く、速筋にはそれほど多くないのです。ですから、毛細血管の増強には、のんびりゆっくり30分ほど走るくらいが最適といえます。

のんびり30分が最適
無理なく「やせ体質」への好循環に
30分のランニングが食欲を抑える
「走ったらおなかがすいて、食べる量がかえって増える」というのは、勘違いです。1時間以上走るのなら別ですが、30分程度の軽めの運動は、逆に食欲を抑える効果があるのです。
私の食生活をご紹介しましょう。朝起きたら、手作りのニンジンジュースを飲み、走りに出ます。その後は何も口にせず、クリニックへ。診療の合間に黒糖やショウガ入りの紅茶などをいただきますが、食事はとりません。夜は自宅で、玄米と野菜、魚を中心とした食事をとります。こうした生活ですが、日中、空腹を覚えることはありません。
以前、「雨だから」と走らない日が続いたことがありました、すると、診療の途中でおなかがすいてしまったのです。
これは自律神経の影響によるもの。
基本的に、運動しているときは交感神経が優位になります。交感神経は、体は闘争(逃走)モードにします。敵と戦う、もしくは敵から逃げるためには、瞬発力を発揮する必要があります。素早く攻撃するか、素早く逃げるか。心身が緊張するわけです。そのため、空腹感を覚えません。消化器全般が、活動を控えるのです。
ただし、交感神経が優位になったあと、揺り戻しで副交感神経が優位になります。軽い運動をしたあと、お風呂に入ってのんびりしていると、そのころに空腹感が訪れるのです。ですから、食事の量を減らしたい人には、朝のランニングがお勧め。走って交感神経優位になったまま、職場や家事に直行すれば、心身が戦闘モードなので、いい仕事ができます。空腹になるヒマもありません。
それでも、「つい仕事中にお菓子を食べてしまう」という人は、ちょっとトイレでスクワットをしてください。「夕食を食べ過ぎてしまう」という人も、食前のスクワットがお勧めです。これだけで食欲が治まり、必要以上に食べてしまう習慣から脱することができます。

足を肩幅に広げ、ひざがつま先より前に出ないように、腰を下ろす。10回前後行う。
良質の睡眠が得られ、肩こりやむくみが解消
ランニングもしくはウォーキングは、最初は週1回でもOK。少しずつ続けていくうちに体力がつき、体のだるさや重さも少しずつ楽になります。
走り始めた人からよく聞くのは、「よく眠れるようになった」という声。睡眠の質が向上すれば、健康は半分手に入ったといっても過言ではありません。睡眠は、細胞の修復をする大事な時間ですからね。もう一つが、「肩こりが消えた!」というもの。これも、わりと初期の段階で実感できる効果です。まさに、血流がよくなった証拠。肩こりがなくなるだけで、体はほんとうに楽になります。
また、「むくみが取れて、足が楽になった」という声も、よく聞きます。これは、たまった水分を出せる体の基礎ができたということ。「今まで寝て過ごしていた休日に、外出するようになった」という人も多いですね。体が軽くなる→活動量が増える→筋肉量が増える→代謝が上がる→やせやすくなる、という好循環に入ったということです。
「だるいから、動かないで疲れを取る」は、太る体質への第一歩です。とにかく外に出て、足を動かしてください。体質が変わり、見た目も変わります。
走ることは自分の体と向き合う術
「走ると足が太くなる」はウソ
ランニングやスクワットを勧めると、「足が太くなるから嫌です」といわれることがあります。これも大きな勘違い。30分程度のランニングや十数回のスクワットで、足が極端に太くなることはありません。
ランニングは足だけで走るのではなく、実はお尻周りの筋肉を主に使うのです。スクワットも同様。お尻や太ももの裏側など、ふだんの生活では使うことが少ない筋肉を刺激するため、プリッと上がったヒップライン、立体的で長く見える足になっていきます。
体重は単なる目安です。脂肪よりも筋肉のほうが重いので、ランニングを始めると体重が増えることがあります。でも、体型は締まってくる。体にメリハリがついて若返って体調がよければ、正直いって、体重はどうでもよくなります。体重よりも、全体的な体調や肌のキメ、目の輝き、声の調子、そういった物が気になってくる。ちょっとステージが上がる感じです。
ランニングをすることで、自分の体に関心を持ち、自分の体がいとおしくなる、というのも、皆さんにお伝えしたいことの一つです。
ちょっと走って「のどの渇き」を感じてみよう
多くの人が、自分の体質に合わない「健康法」で、逆に不健康になっています。なぜでしょうか?
それは、「体の声」を聞くことができないからです。
例えば、私のクリニックにも「健康のために水を一日2リットル飲んでいるのに、体調が悪い」という患者さんが多く見えます。水は、のどが渇いたら飲めむもの。体重も体調も体質も違う人たちが、一律に1日2リットルの水を飲む必要はありません。自分の体の声を聞き、それに応じた量の水を飲めばいいのです。
とはいえ、運動量の少ない現代人にとって、「のどが渇いた!」という感覚を覚える機会さえ、減っています。ですから皆さん、ちょっと走って、のどの渇きを感じてください。これが大事です。のどが渇けば、とる水分量は増えますが、筋肉があれば、そして、その筋肉を動かせば、細胞の間にたまってしまった余分な「水分」を押し出すことができます。
自分の体にとって、何が必要なのか、何が快適なのか。
ほんの少し走ることで、それが少しずつわかってくるはずです。
[別記事:近所をゆっくり走るだけで疲れやストレスが取れる→]
なお、本稿は『女のキレイは30分でつくれる』(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。詳細は下記のリンクよりご覧ください。

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