解説者のプロフィール

田中勝(たなか・まさる)
田中鍼灸指圧治療院院長。1948年生まれ、北海道出身。鍼・灸・あん摩マッサージ指圧師。治療にとどまらず、鍼温灸や経絡あん摩、関節運動法講習会を開催するなど、積極的に活動している。DVD『よくある症状への手技療法』(医道の日本社)が好評発売中。
▼田中鍼灸指圧治療院(公式サイト)
加齢による眼瞼下垂は腎臓の弱りが原因
私が考案した「ずらし指圧」は、ツボを押したまま、その指をずらす刺激法です。押す方向により、ツボの効果が幅広くなったり、深まったりします。
この手法を、目に関係するツボに応用したところ、眼瞼下垂に非常に効果的であることが、最近になって分かりました。
例えば、まぶたが下がり気味だった、50代の女性Aさん。目を見開くように言うと、「どうしたら目を見開けるのか、分からない」とおっしゃいます。
そんなAさんでしたが、ずらし指圧を1回行っただけで、まぶたを持ち上げられるようになりました。Aさん自身も感覚がつかめたようで、2回目のずらし指圧で、カッと大きく目を見開けるようになったのです。
眼瞼下垂は、加齢によって起こることがほとんど。東洋医学では、加齢で起こる症状は、全て腎臓の弱りから生じると考えます。
腎臓は、脳・脊髄・骨など、体の根幹となる部位と関係が深い臓器です。そのため、腎臓が弱ると、他の臓器も弱ります。
眼瞼下垂は、腎臓の弱りが経絡を通じてまぶたに届き、開閉がうまくいかなくなる症状です。経絡とは、生命エネルギーである「気」の通り道のことを言います。
経絡は全部で20あり、それぞれが特定の臓器の働きをコントロールしています。これらの経絡を通じ、気が滞りなく全身を巡れば、人は健康を保てます。
そこで、東洋医学では、経絡上にあるツボを刺激して、気の流れを整えます。つまり、ツボは治療点なのです。

加齢による眼瞼下垂のメカニズム
ツボを上方向に押すと目が開きやすくなる
では、眼瞼下垂に効くツボはどこでしょうか。それは、手の甲にある「合谷」と、後頭部にある「上天柱」「上風池」「上完骨」です。
合谷は、目・鼻・歯など、顔の全ての部位に関係が深いツボ。眼精疲労やアレルギーによる目のかゆみなど、目の症状全般に効くので、私自身もよく治療に用いています。
感覚器官や内臓は、その真後ろにツボがあるのが特徴です。目の場合は、後頭部にある上天柱・上風池・上完骨のうち、一つが治療点となります。
どのツボが治療点かは、人によって異なりますが、経験上、最も多いのは上風池です。
例えば、白内障(目のレンズに相当する水晶体が濁る病気)の手術予定だった患者さんは、上風池を押さえたところ、激しい痛みがありました。
痛みがあるのは、そこに弱りがあるということ。こういう場合、上風池を押したときの痛みがなくなると、白内障も改善へと向かいます。
その他にも、上風池への施術で、視界が明るくなったという人もいました。
一方、上天柱は目頭と、上完骨は目尻と関係が深いツボです。このどちらかが、治療点である人もいます。
眼瞼下垂の施術では、これらのツボを、目の動きに合わせてずらし指圧すると、効果が格段に高まりました。上方へずらすと目がより大きく開き、下方へずらすと、目が閉じやすくなったのです。
先日開催した講習会では、このずらし指圧を、参加者にも実践してもらうことに。すると、全員がその場で、大きく目を見開けるようになりました。
その即効性に、会場は大盛り上がり。「効果がよく分からない」という人もいましたが、そんな人も、目の動きと逆方向にずらし指圧を行うと、効果が実感できたそうです。
皆さんも、目の動きと逆方向へのずらし指圧は、ぜひお試しください。下方向にずらし指圧をしながら、目を開けようとすると、驚くほどまぶたが上がらないことでしょう。
その後、上を見ながら同じ方向にずらし指圧をすると、より目の開きやすさを実感できると思います。
ずらし指圧のやり方は、下項をご覧ください。
一日1分押すだけ!
「ずらし指圧」のやり方
「それぞれのツボを見つける」
合谷は、人によって微妙に場所が違うので、反対の手の人さし指・中指・薬指の3本を用いて刺激するのがお勧めです。この方法なら、ツボの位置を厳密に見定めなくても、確実に刺激できるでしょう。
親指と人さし指の間を何ヵ所か押して、重く響くところや硬い場所が見つかった場合は、そこだけ刺激しても構いません。
上天柱・上風池・上完骨は、後頭部に横一列で並んでいます。生え際のくぼんだ部分に、人さし指・中指・薬指の3本の指を当て、そこから1~2cm上の辺りを指圧してください。
その辺りを押しながら、指を横にずらし、痛かったりコリコリしたりする場所があれば、そこが治療点です。治療点が分からなくとも、3本の指で刺激し続ければ、効果が得られます。
この左右両方の合谷と、後頭部の3ヵ所のツボを、それぞれ1分ほどくり返して、ずらし指圧を行うのがお勧めです。

手の甲を上に向け、親指と人さし指の間に、反対の手の親指を当てる。そのまま手首に向かって押してゆき、骨と骨が合わさる部分の手前で、指が止まる位置。ここに、合谷のツボがある。

耳の後ろにある骨の出っ張り(乳様突起)と、後頭部の骨の出っ張りのすぐ下のくぼみ(ぼんのくぼ)を結んだ線の中心から1~2cm頭頂部付近に上がったところ。ここに、3つのツボが並んでいる。
「ずらし指圧を行う」
回数は、一日1回から始め、慣れたら2回に増やしていってください。即効性があるため、症状が重い人でも、二~三日で目が開きやすくなるでしょう。
眼瞼下垂やその他の目の症状がひどい人は、ツボを刺激したときに、強い痛みがあるかもしれません。しかし、続けるほどに痛みは和らいでいきます。
痛みがなくなった頃には、普段から目の開け閉めがしやすくなっているはずです。眼瞼下垂に伴って生じていた頭痛や肩こり、他の目の症状も、かなり改善しているかと思います。
【ずらし指圧の方法】
①ツボを垂直に押す。
②①の状態のまま、指を5~10mmの範囲で上にずらし、少し痛いが我慢できる程度の強さで押す。
③目をできるだけ見開き、10秒ほどキープする。
④①の状態に戻した後、指を5~10mmの範囲で下にずらし、少し痛いが我慢できる程度の強さで押す。
⑤目を閉じ、10秒ほどキープする。
⑥①~⑤を、左右それぞれ1分ほどくり返す。
●ポイント
親指と人さし指の間の何ヵ所かを押して、硬いところを探す。もしくは、押す方の手を手の甲側に回し、人差し指・中指・薬指の3本で押す。

●ポイント
人さし指・中指・薬指の3本を耳の後ろに当てた状態で、薬指を少し下げ、指を並行にする。3本を斜めに当ててもよい。

ずらし指圧と同時に実践してほしいのが、食生活の改善。前述した通り、眼瞼下垂の根本の原因は、腎臓の弱りです。
塩分のとり過ぎがよくないのは広く知られていますが、実は、牛肉・乳製品・ビールのとり過ぎも、腎臓を弱らせる一因となります。
思い当たる人は、摂取量を2分の1程度に抑えるといいでしょう。逆に腎臓を強くするのは、黒い食べ物です。黒豆や黒ゴマ、海藻類を積極的にとるようにしてください。

この記事は『安心』2020年4月号に掲載されています。
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