解説者のプロフィール

中村篤史(なかむら・あつし)
ナカムラクリニック院長。医師。神戸市中央区にて内科・心療内科・精神科・オーソモレキュラー療法を行う「ナカムラクリニック」を開業。対症療法ではなく、根本的な原因に目を向けて症状の改善を目指す栄養療法を実践している。ナカムラクリニックの「院長ブログ」にて健康情報などを配信中。http://www.clnakamura.com/
どんな病気も、キャベツ食べていれば治るんじゃない?
甘くて柔らかい春キャベツは、生のままざく切りにしてマヨネーズをかけて食べてもうまいし、バターで炒めてしょうゆをかけてもいけるし、ゆでてポン酢とおかかをのっけて和えてもいい。胃袋にもお財布にも優しい、最強の野菜の一つだと思います。
そんなキャベツ、実は、健康面でも最強の野菜だってご存じでしたでしょうか?
今回は、「どんな病気も、キャベツ食べていれば治るんじゃない?」という身もふたもないようなお話をします。
パスカルは「人間とは、考える葦である」と言いましたが、医学的には「人間とは、1本のチューブである」と言えます。
口に始まり、お尻で終わる1本のチューブに、さまざまな物質を送り込む。かみ砕き、飲み込み、消化し、排泄する。
この一連の作業を毎日くり返し、やがて機能が低下し、死ぬ。純粋に機能の観点だけから見れば、人生とは、このチューブの運用作業なのです。
健康のためには、このチューブを大事にしないといけない。変なものを通過させて、負担をかけてはいけない。調子が悪いときは、適切なメンテナンスも必要となります。
解剖学的には、大腸の長さは約1.5m、小腸の長さは約6mあります。
大腸の内壁を全部広げると、その面積はテニスコート半面分(約100㎡)、小腸はさらにその倍、テニスコート1面分もの表面積があります。
こんなにも広いのは、栄養分の消化と吸収がそれだけ重要だからです。
また、これだけ広い面積ですから、腸炎、腫瘍、過敏性腸症候群、クローン病など、さまざまな病気が起こり得ますが、これらは全て、出現する部位や症状の違いであって、根本的な問題は同じです。
その問題とは、全身性毒血症(要するに、体によくないもののとり過ぎ)と栄養不良(摂取するべきものの不足)、この2つです。
そもそも、消化管の表面は上皮組織で覆われているのですが、これは基本的に、体表を覆う皮膚細胞と同じものです。
つまり、皮膚は、体の表面にだけあるのではなく、おなかの中にもあるのです。
そして、上皮細胞の構造をしっかり保つためには、ビタミンAとCが必須です。野菜や果物が必要な理由はまさにここにあって、生野菜や果物にはこれらのビタミンが豊富なのです。
消化器系に病気がある人は、まず、「毒」の摂取をやめること。具体的には、タバコ、アルコール、肉の過食、添加物、ストレスなどをできるだけ取り除くことです(もちろん、肉や酒を適量摂取するぶんには構いません)。
胃腸に負担のかかるこのような習慣を改めないままでは、どんな治療に取り組んだとしても、回復の望みは薄いです。
一方、野菜をメインにした食事には、大きな利点があります。
野菜はかさ(容量)が豊富なため、便が軟らかくなり、便通がよくなります。排便時に力まなくてもいいので、腸に不要なストレスがかかりません。
そして、ビタミンCやカロテンの含有量が多いことです。肌はきれいになり、免疫力は上がり、体形はスリムになる。そして、値段も肉より安い。
「断食健康法」のことを聞いたことがある人は多いと思います。胃腸に何らかのトラブルがある人は、断食するだけで、ずいぶんらくになります。
消化のために働き通しの胃腸に、「断食」という休息を与えることで、腸の上皮細胞の修復が促されます。
腸上皮のターンオーバーには3~5日かかるので、ほんの数日断食をするだけで、腸壁はすっかり修復されるのです。
水だけしか飲まないという絶食は心配だし不安というなら、生の野菜を搾って作る野菜ジュースを飲みながらの断食をお勧めします。
ビタミン(C、Aなど)や電解質ミネラル(ナトリウム、カリウムなど)を摂取できるし、微量ながら炭水化物も含まれているので血糖値も安定します。水だけを飲む断食よりもはるかにらくにできて、しかも充分な効果が期待できます。
アメリカのガーネット・チェイニー博士が行ったこんな研究があります。
100人の胃潰瘍患者に1Lの生キャベツジュースを毎日飲むように指導して、症状の変化を追いかけました。
効果は劇的で、胃痛がなくなり、レントゲン所見でも回復スピードが明らかに速いことが確認されたのです。食事は他に何も変えていないし、薬物治療も行っていません。ただ、生キャベツジュースを加えただけです。
患者の81%は1週間以内に症状が消失し、中にはたったの4日で効果を実感した人も多数いました。なお、一般的な病院で行われる標準治療で、同じような症状が改善するのに必要な期間は、平均で1ヵ月以上です。
チェイニー博士は、このような結果をもたらした成分を「ビタミンU」と呼びました。現在でこそ、キャベツ科(アブラナ科)の野菜(スプラウト、カリフラワー、ケール、ブロッコリーなど)には抗がん作用があることが認められています。
どうでしょう。これを読んで、わざわざ病院に行って、胃潰瘍の薬を飲むくらいなら、生キャベツジュース飲んどけばいいやんか!と思いませんか?
ちなみに、チェイニー博士のこの症例報告は70年近く前に行われたものです。
最後に、こんな話を一つ。
直腸から原因不明の出血に悩んでいる人がいました。その人は食事の改善を思い立ち、野菜中心の食事に変え、キャベツジュースを飲み始めたところ、あっさり治ったのでした。
彼の回復ぶりに驚いた主治医が、いったい何をしたのかと尋ねたので、彼はキャベツジュースのことを話しました。
主治医は「キャベツで治るなんて、そんなことはあり得ません」とひと言。
医学は70年前よりも進歩しているのかな?
参考 “Colitis, diverticulosis, irritable bowel syndrome and other GI problems including ulcers” Andrew W. Saul
■イラスト/阿部千香子

この記事は『安心』2020年4月号に掲載されています。
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