多彩な健康効果に注目が集まっている
[別記事:高野豆腐大活用レシピ→]
日本では、古くから親しまれてきた高野豆腐。豆腐を凍結・乾燥・熟成させることで、保存期間が延び、うま味や栄養も増す、先人の知恵が生んだ食品です。
現在、高野豆腐は99%以上が長野県で生産されています。長野は水が豊富な上、高野豆腐作りに向く気候であるため、農閑期の副業として発達したようです。今は機械で作るので、気候は影響しませんが、その伝統を受け継いでいるのです。
高野豆腐に含まれる成分の約50%はたんぱく質で、良質な脂質も30%含みます。必須脂肪酸であるα‐リノレン酸や、リノール酸といった多価不飽和脂肪酸を含むのが特徴です。
また、カルシウムや鉄、ビタミンEなどの微量成分も多く含まれています。

長年研究を続けている石黒さん
このように、高野豆腐は栄養価の高い食品ですが、和食離れなどの影響で、利用量が減少していました。
しかし近年、さまざまな健康効果が注目され始め、おかげさまで人気上昇中です。私たちも、高野豆腐のよさを多くの方にお伝えして、おいしく健康づくりに役立てていただけるよう、研究を重ねています。
私個人としては約10年、会社としては20年以上研究を続ける中で、多くの健康効果が分かってきました。その主要な研究成果をご紹介しましょう。
■悪玉コレステロールを減らす
総コレステロールと、動脈硬化を進めるLDL(悪玉)コレステロールの高い2名を含む、12名の被験者に、一日1枚の高野豆腐を4週間食べてもらい、検査値の変化を見ました。
その結果、総コレステロールは30%、LDLコレステロールは25%低下しました。動脈硬化を進める作用がLDLより強いとされる、ad‐LDL(超悪玉)コレステロールも、40%低下していました。
ただし、コレステロールが正常な被験者では、大きな変化はありませんでした。したがって、高野豆腐は、コレステロールが高いときのみ正常化させるのであり、食品としての安全性を持つことが分かります。
また、血中の余分なコレステロールを減らし、動脈硬化予防に役立つとされるHDL(善玉)コレステロールには、大きな変化はありませんでした。
動物実験でも、動物性たんぱく質(カゼイン)と高野豆腐のたんぱく質を食べさせた群で比較すると、後者のほうが、コレステロールの上昇が抑えられるという結果が出ています。

コレステロール値が下がった!
■食後中性脂肪の上昇を抑える
脂肪をとると、食後に血中の中性脂肪が上昇します。そのことと高野豆腐の関係を調べた研究です。
一般的な牛ひき肉100%のハンバーグと、牛ひき肉の80%を高野豆腐に置き換えたハンバーグを、それぞれ10人の被験者に食べてもらい、食後の中性脂肪の変化を見ました。
2種類のハンバーグの脂肪の含有量は同じにしましたが、高野豆腐を使ったハンバーグを食べた群では、中性脂肪の上昇が抑えられました。

中性脂肪値の上昇が抑えられた!
高野豆腐がコレステロールを減らしたり、中性脂肪の上昇を抑えたりするメカニズムについては、「レジスタントプロテイン(不消化性たんぱく質)」が重要な役目をすることが分かっています。
高野豆腐はたんぱく質が豊富ですが、その中にはレジスタントプロテインが多く含まれます。レジスタントとは「抵抗する」という意味で、「消化に抵抗する」ことから、この名称がつけられました。
普通、たんぱく質は胃や小腸で分解されてアミノ酸や小さなペプチドになりますが、レジスタントプロテインは、ある程度の大きさを保ったまま腸に到達します。
そして、食物繊維に似た働きをし、余分な脂肪などを吸着するため、コレステロールや中性脂肪といった血中脂質を減らす作用をもたらすのです。
コレステロール降下作用については、レジスタントプロテインが「胆汁酸の再吸収」を抑制することも関係していると考えられます。
胆汁酸は、胆汁(脂肪の分解を助ける消化液)の主成分で、コレステロールから作られます。腸で使われた胆汁酸は、再び吸収されて再利用されるしくみになっています。
レジスタントプロテインは、腸で胆汁酸も吸着して排泄を促し、この再吸収を抑制します。そのため、体内では胆汁酸の生成に新たなコレステロールが使われ、コレステロール降下作用をもたらすというわけです。
レジスタントプロテインは、大豆や豆乳、豆腐にも含まれますが、豆腐を圧縮→凍結→低温熟成させるという高野豆腐の製造過程で増えるため、大豆製品の中でも、特に高野豆腐に多く含まれています。

レジスタントプロテイン量の変化(たんぱく質100g中の量)
■ヘモグロビンA1cを下げる
コレステロールを減らす薬の中には、レジスタントプロテインと同じような胆汁酸の吸着作用を持つものがあります。
その薬は、コレステロール値だけでなく、ヘモグロビンA1c(過去1〜2ヵ月の血糖値が分かる数値で、正常値は6.5%未満)も下げることが報告されました。
これにヒントを得て、ヘモグロビンA1cと高野豆腐の関係についても調べました。
ヘモグロビンA1cが高めの被験者7人に、一日1枚の高野豆腐を食べてもらったところ、12週後には平均値で6.26%から6.01%へと、有意に(統計的に意味があること)低下しました。同時に、体脂肪率も有意に減少しました。
これは、レジスタントプロテインの作用で、脂肪や糖の吸収が抑えられたり、代謝が改善したりした結果と考えられます。

ヘモグロビンA1cが低下した!
■床ずれの治りを早める
寝たきりなどで深刻な問題となる床ずれ(褥瘡)ですが、その改善にも、高野豆腐が役立つという研究結果が得られました。
人工的に床ずれを作ったラットに、粉末の高野豆腐を与え、与えなかった群と傷の面積の変化を比べたところ、前者のほうが速やかに傷が小さくなり、治りが早まることが分かったのです。
これは、高野豆腐に豊富に含まれる良質なたんぱく質や亜鉛などのミネラル類が、傷の治りを早めたと考えられます。
なお、このときマウスに与えた粉状の高野豆腐は、体重60kgの人間に換算すると、一日1枚に当たる量です。

褥瘡(床ずれ)の治りが早まった!
■運動の効果を高める
信州大学での研究によると、ゆっくり歩きと速歩きを交互にくり返す「インターバル速歩」が、さまざまな病気を引き起こす慢性炎症を抑えることが分かっています。インターバル速歩の後に高野豆腐を摂取すると、その作用がさらに高まることが分かりました。
この研究では、インターバル速歩と組み合わせましたが、他の運動と組み合わせても、類似の効果が期待できるでしょう。
最近では、お年寄りの低栄養による筋肉不足なども問題になっていますが、筋肉増強のためのたんぱく質の摂取にも、高野豆腐が役立つと考えられます。
■新しい胆汁酸を増やす
ここ15年ほどの研究で、胆汁酸は、単なる消化液の成分としてだけでなく、体内でさまざまな情報伝達に使われ、代謝の調整に働いていることが分かってきました。
レジスタントプロテインをとることは、古い胆汁酸の排泄を促し、新しい胆汁酸を増やすことにつながるので、この面でも、代謝の促進や正常化に寄与していると推測できます。
私は、この作用を「胆汁酸リフレッシュ効果」と名づけています。
まだ仮説の段階ではありますが、ここで述べた血中脂質や体脂肪率の低下、血糖の低下作用、傷の治りの促進、炎症の抑制などには、レジスタントプロテインによる胆汁酸リフレッシュ効果も関係している可能性があります。今後は、この作用についても、さらに研究を進めていきたいと考えています。
加熱してから食べるようにする
高野豆腐を健康づくりに役立てるには、一日1枚(16.5g)を目安にとればよいでしょう。
私たちの行った研究では、調理法や味付けは、特に規定しませんでした。ヘモグロビンA1cの研究では、甘く味付けした市販の含め煮を食べた被験者もいますが、それでも改善したので、味付けに関わらず、高野豆腐自体をとることが重要と思われます。
無理なく続けるためにも、好みの調理法で、飽きないように工夫して召し上がるとよいでしょう。高野豆腐というと「和風」と決めつけがちですが、粉状の物をハンバーグやシチューに入れるなど、洋風のメニューにも手軽に使えます。
また、昔とは製法が変わっており、戻す手間がかからなくなったので、とても便利に使えるようになっています。
一つ注意が必要なのは、基本的に、加熱してから召し上がっていただきたいということです。みそ汁やスープに入れるのは手軽な利用法ですが、火を止める前に入れ、軽くでよいので加熱しましょう。
健康づくりや代謝改善に、ぜひ高野豆腐をお役立てください。
[別記事:高野豆腐大活用レシピ→]

この記事は『安心』2020年4月号に掲載されています。
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