解説者のプロフィール

福田六花(ふくだ・りっか)
介護老人保健施設「はまなす」施設長。医師・医学博士。山梨県老人保健施設協議会会長。大学病院勤務時代にストレスと暴飲暴食で93㎏まで体重を増やすも、1996年にマラソンと出合い30㎏以上の減量に成功。2002年、富士山麓に移住して以降は医師業の傍ら年間30以上のマラソン・トレイルラン大会に出場。これまでに12のレースをプロデュースする。19歳からプロのミュージシャンとしても活動。シンガー&ランニングドクターとして多方面で活躍中。
バナナを提供したら棄権するランナーが減った
主として運動中や就寝中に、ふくらはぎが急にけいれんを起こして足がつる状態を「こむら返り」といいます。こうした筋肉の異常な収縮・硬直を防ぐために、私がお勧めしているのがバナナです。
私は医師として働く一方で、マラソン大会や、山道を走るトレラン(トレイルランニング)の大会に出場したり、そうした大会のプロデュースを手がけたりしています。
長距離走という過酷なスポーツにかかわるなかで、競技中に足がつり、動けなくなってしまう参加者を、数多く見てきました。そこで、レース途中の補給所で効率よく必要な栄養素をとってもらうために考案したのが、「塩バナナ」です。
バナナの皮をむき、塩を振りかけただけの物ですが、ランナーからの評判は上々。以前に比べ、足をつって途中棄権するランナーが減ったという効果も得られています。年間30回以上のレースに出る私も、出走前には塩バナナを欠かしません。
塩バナナは、長距離走や真夏の野外活動など、汗を大量にかいた状況でのこむら返りに、特に有効です。
アスリートではない中高年のかたのこむら返り予防には、バナナに塩を振らないほうがいいでしょう。大量の発汗を伴わないのに塩をとると、ナトリウムの過剰摂取になり、血圧の上昇につながるからです。
就寝する2時間前に食べるのがオススメ
こむら返りの患者さんを診ていると、原因によっていくつかのケースに分けられます。
いずれの場合も、体内の電解質が不足したり、電解質のバランスがくずれたりすることで、下肢などにけいれんが起こります。
電解質は、一般にミネラルと呼ばれ、水に溶けると電気を通す性質を持ち、体液(血液やリンパ液、組織液など)の濃度を調整したり、筋肉や神経の細胞の機能にかかわったりする、重要な物質です。
主な電解質として、ナトリウムやカリウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられます。
体内に電解質が足りなくなると、筋肉がけいれんを起こしたり、体内に水分を保持できなくなり、脱水症・熱中症になったりします。
【ケース1】
運動量の減少による筋力の低下です。特に下半身は、筋肉を動かさないと、血液が心臓に戻りづらく、血流が滞りがちになります。血液は、電解質を含む栄養素と酸素を、各細胞に運んでいます。血流が悪くなると、末端の部位は電解質不足になるのです。
【ケース2】
「冷え」も、こむら返りの原因となります。冬場はもちろん、夏も冷房で体が冷えて、足がつるかたは少なくありません。体が冷えることで、ケース1と同様に血流が悪くなり、電解質が不足します。
【ケース3】
暖房の効き過ぎが原因の場合もあります。冷えて血流が悪くなっているところに、急激に温め過ぎて汗をかき、脱水・電解質不足に陥って足をつるケースです。電気毛布を使用している人は要注意です。
【ケース4】
意外に多いのが、高血圧や心不全の薬の副作用で起こる、こむら返りです。降圧剤や、心不全の薬には、いろいろなタイプの物があります。なかでも利尿剤は、古くから使われている薬です。
利尿剤は、腎臓で作られた原尿(尿のもと)を再吸収する尿細管に作用して、体内の水分の排出を促進します。その結果、体液の量が減るので、血圧が下がったり、心臓の負担が軽減したりするというしくみです。
利尿剤のなかでも「ループ利尿剤」という種類の薬は、水分とともにカリウムが過剰に流出し、低カリウム血症を起こすことがあります。これが、こむら返りの原因となっているかたが多くいます。
ループ利尿剤は広く処方されている薬なので、利尿剤を飲んでいる人で、頻繁に足がつってつらい場合は、主治医に相談してみてください。
こむら返りの予防には、適度な運動や入浴で血流をよくすることが基本です。
それに加えて私は、夜のおやつにバナナを勧めています。バナナは、カリウムとマグネシウムを豊富に含んでいるからです。カリウムはリンゴの3倍、ミカンの2.4倍。マグネシウムはリンゴの6.4倍、ミカンの2.9倍もあります。
ほかの果物でもいいのですが、通年入手しやすい点や、皮をむく手間が少ないことなどから、バナナを勧めています。胃に負担がかからないように、就寝する2時間前くらいに食べるといいでしょう。

★夜間のこむら返り予防には、就寝の2時間前くらいに、1/2~1本食べる。
*大量に汗をかくスポーツなどの前後や最中には、バナナに天然塩を少々振りかけ、1/2~1本食べる。

この記事は『壮快』2020年4月号に掲載されています。
www.makino-g.jp