芍薬甘草湯で使われる生薬は、芍薬と甘草だけです。この二つの生薬が、筋肉細胞の電解質のバランスを正常化し、筋肉のけいれんを鎮めます。芍薬甘草湯の長所は、その即効性にあります。【解説】諏訪通久(八潮中央総合病院整形外科・スポーツ整形外科センター長)

解説者のプロフィール

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諏訪通久(すわ・みちひさ)
八潮中央総合病院整形外科・スポーツ整形外科センター長。1981年生まれ。山形大学医学部卒業。専門はスポーツ障害全般、ひざ関節。日本整形外科学会専門医。日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツ医。日本医師会認定健康スポーツ医。日本医師ジョガーズ連盟認定ランニングドクター。日本陸上競技連盟公認コーチ・日本スポーツ協会公認陸上競技コーチ。フルマラソン2時間20分台の記録のほか、IAU世界選手権(50km)日本代表候補歴を持つ、日本最速のランニングドクター。2019年12月に、初の著書 『マラソン自己ベスト最速達成メソッド』(大和書房)を出版。

私はゼッケンの裏に貼り付けている!

整形外科を受診する患者さんのなかには、「足がよくつる」「夜中にこむら返りを起こして睡眠不足」という悩みを訴えるかたが少なくありません。

高齢者の場合、複数の科を受診しているケースが多く、既に数種類の薬を服用している人もいます。薬はできるだけ増やしたくないので、まず、「ウォーキングなどの軽い運動をする」「少量の水をこまめに飲む」など、生活習慣の改善を指導します。

それでも、改善しない場合は、芍薬甘草湯という漢方薬を処方しています。市販もされている、一般的な薬です。

芍薬甘草湯で使われる生薬は、芍薬(ボタン科の植物・シャクヤクの根)と甘草(マメ科の植物・ウラルカンゾウやスペインカンゾウの根)だけです。

この二つの生薬が、筋肉細胞の電解質(細胞の浸透圧を調節したり、細胞の働きにかかわったりする物質)のバランスを正常化し、筋肉のけいれんを鎮めます。

芍薬甘草湯の長所は、その即効性にあります。足がつったときに服用すると、すぐに痛みが楽になるのです。

私は、整形外科のなかでもスポーツ障害を専門としており、マラソンランナーの健康チェックや救護活動を行う「ランニングドクター」も務めています。

ランニングドクターとして走るときには、芍薬甘草湯をゼッケンの裏にテープで貼り付けています。自分がこむら返りを起こし動けなくなったら、任務を遂行できないからです。私のほかにも、芍薬甘草湯を持って走るドクターは少なくありません。

芍薬甘草湯は、大きな副作用が少ないので、スポーツをする人も比較的安心して服用できます。

ただし、製造メーカーや時期によっても成分が変わり、絶対に大丈夫とはいい切れないので、ドーピング検査を受けるレベルの選手には勧めていません。そもそも、ドーピング該当薬リスト自体、毎年更新されるものなので、注意が必要です。

また、心臓が悪いかたや高血圧のかたが、芍薬甘草湯を飲む場合は、医師や薬剤師に相談してください

高血圧の診断を受けていても、降圧剤を飲んで、血圧のコントロールができている人には処方するケースがあります。

逆に、血圧が高いにもかかわらず、治療や投薬を受けていない人には、芍薬甘草湯の服用はお勧めできません。血圧の状態や合併症の有無などによって、ほかの薬が選択される場合もあります。

画像: ドラッグストアでも売られている

ドラッグストアでも売られている

頻繁につる人は少量の水を3〜4時間おきに飲む

先述したように、芍薬甘草湯は即効性があります。ただ、睡眠中や起き抜けに、突然こむら返りが起こると、枕もとにある薬を取ることすら難しいでしょう。

ですから、「ほぼ毎日、就寝中や起床時にこむら返りが起こる」という患者さんには、寝る前に一回、芍薬甘草湯の服用を勧めています。

こむら返りは、もちろん、日中にも起こります。例えば、高齢者に人気のグラウンドゴルフは、待ち時間が長く、長時間ベンチに座ったままのこともあります。イスに腰かけた姿勢は、ひざ下の血流が悪くなるので、立ち上がって動き始めたとたんに足がつることがあるのです。

座っている時間が長いときには、足首をよく動かしましょう。イスに腰かけた状態で、足を少し前に伸ばし、つま先を上下に動かすだけでも、ふくらはぎへの血流が増えて、こむら返りの予防になります。

また、頻繁に足をつる高齢者の場合、水分不足が一因になっている可能性があります。特に夜は、「トイレが近くなるから」という理由で、水を飲まないかたが多いようです。

一方で、睡眠中は汗や呼気などでけっこうな量の水分を排出しています。つまり、明け方には脱水傾向になっているのです。

大量の汗をかく作業やスポーツを行う際は、水分とともに電解質を補給する必要があるので、スポーツドリンクや経口補水液が推奨されますが、睡眠時の発汗程度なら、水かお茶がいいでしょう。

スポーツドリンクは糖分が、経口補水液は塩分が多く含まれているため、常飲すると、カロリー(エネルギー)や塩分のとり過ぎにつながります。

水は、一度にたくさん飲むと尿で排出されてしまうので、50〜80mlの量を、3〜4時間おきに飲むようにしてください。朝食、昼食、おやつ、夕食、就寝前にそれぞれ飲むイメージでいいと思います。

そして、「ここで足がつったら困る」というときは、お守りがわりに芍薬甘草湯を持つといいでしょう。外出用のバッグに一つ、入れておくと安心です。

画像: この記事は『壮快』2020年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年4月号に掲載されています。

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