解説者のプロフィール

石原結實(いしはら・ゆうみ)
イシハラクリニック院長。医学博士。1948年、長崎県に生まれる。長崎大学医学部卒、同大学博士課程修了。長寿で有名なコーカサス地方に5度赴き、長寿村の食生活を調査。ジョージア共和国科学アカデミー長寿医学会名誉会員の称号を得る。スイスの自然療法病院やモスクワの断食療法病院でガンをはじめとする、さまざまな病気の治療法を学ぶ。著書は300冊以上にのぼり、講演やメディア出演も多数。
3分間の貧乏ゆすりは20分間の歩行に匹敵!
一般に、ふくらはぎがつることを「こむら返り」といいます。まさに、筋肉がひっくり返ったような激痛なので、何が起こったのかと驚く人も多いでしょう。
心臓から遠い足は、血流が滞りがちです。血液の役割は、酸素と栄養素を全身の細胞に運ぶこと。血流が悪くなると、体の各部が酸欠・栄養失調に陥ります。
そのため、私たちの体は防御反応として、筋肉を無理やり収縮させて血流を促そうとするのです。その収縮が過剰になって、戻らなくなった状態が、こむら返りです。
人間は年を取ると、体温がだんだん下がってきます。体が冷えると、関節や筋肉がかたくなり、こむら返りも起こりやすくなります。寒い季節に足がつりやすいのも、同じ理由です。
こむら返りを防ぐには、下半身の筋力を強化することが重要です。ウォーキングやスクワット、もも上げ運動、かかと上げ運動、その場足踏みなど、下半身を動かす運動を、日ごろから行いましょう。回数や頻度は、できる範囲でかまいません。
意外なところでは、貧乏ゆすりも下半身の運動になります。3分間の貧乏ゆすりは、20分間の歩行と同じくらいの運動量になるともいわれます。
発酵食品や漬物にすると体を温める食品に変わる
もう一つの柱が、食生活です。体を温める食品を、積極的にとることが大事になります。
第一にお勧めしたいのは、ショウガです。ショウガは体を温める作用が非常に強いので、患者さんにも勧めています。紅茶やみそ汁に入れたり、料理にプラスしたりするといいでしょう。
体を温める食品と冷やす食品を見分けるには、色が目安になります。
暖色系(赤・黒・黄など)の物は体を温め、寒色系(青・白・緑など)の物は体を冷やすと覚えておくといいでしょう。白砂糖より黒砂糖、白いうどんより茶色いそば、白ワインより赤ワイン、白米よりも玄米、大豆よりも黒豆やアズキのほうが、体を温めます。
産地や旬もポイントです。南方で取れた果物や夏野菜を、寒い時期に大量に食べると、体が冷えてしまいます。日常的には、地元で取れた旬の物や、北方で取れた物を食べ、トロピカルフルーツや季節外れの食材は、嗜好品として楽しむようにしましょう。
ただ、体を冷やす食材も、熱や塩を加えたり、発酵させたりすることで、体を温める食品に変えることができます。
例えば、牛乳を加熱し、塩を加えて発酵させたチーズは体を温めます。キャベツや白菜も、塩で漬けて発酵させ、漬物にすれば、体を温める食べ物になるのです。北海道や東北で、発酵食品や漬物が生活に根づいているのは、先人の知恵といえるでしょう。
塩は、天然塩がお勧めです。天然塩は多種多様なミネラルを含み、体を温めます。
塩は体によくないという意見もありますが、適度な塩分は体に必要ですし、運動や入浴で汗をかけば排出されます。塩分摂取量に神経をすり減らすより、汗をかいて排出することに注力すべきです。運動や入浴は、こむら返り予防にもなります。
また、漢方には「相似の理論」という考え方があります。「形の似ている物は、似たような働きをする」というものです。人間のへそから下は、植物の根に似ているので、根菜を食べると下半身の補強になると考えます。
ですから、こむら返りの予防には、ヤマイモ、ゴボウ、レンコン、長ネギ、ニンジン、カブ、タマネギなどを、積極的に食べるといいでしょう。ちなみに、こむら返りの特効薬として知られる芍薬甘草湯という漢方薬も、シャクヤクの根とカンゾウの根が原料です。
根菜類は総じて体を温めるので、そうした意味からも、こむら返り対策に役立ちます。特にヤマイモは、ビタミンB1、カルシウム、カリウムをはじめ、疲労回復効果のあるムチンが豊富です。
魚介類も積極的に食べましょう。マグロ、サバ、ブリ、サンマ、イワシなどの魚は、血液をサラサラにするEPAやDHAなどの不飽和脂肪酸が含まれています。また、エビやカニ、イカ、タコ、貝類に含まれるタウリンも、血流をよくする作用があります。
すべてを実行するのは難しいと思います。できるところから始めてください。続けることで、こむら返りの起こる頻度に改善が見られるでしょう。
こむら返りを防ぐ食べ物
◎そば、玄米、黒パン ◎納豆、アズキ、黒豆 ◎黒砂糖、和菓子 ◎赤ワイン、黒ビール、紹興酒 ◎根菜、海藻 ◎北方産の果物(リンゴ、サクランボ、ブドウ、プルーン) ◎漬物、チーズ ◎赤身の肉、魚介類 ◎塩、みそ、しょうゆ …など


この記事は『壮快』2020年4月号に掲載されています。
www.makino-g.jp