解説者のプロフィール

北田雅久(きただ・まさひさ)
北田内科クリニック院長。岐阜大学医学部第三内科医局員、岐阜赤十字病院内科部長を務めた後、松波総合病院副院長に就任。内科統括部長、臨床検査部長、健康管理部長を経て、1995年に北田内科クリニックを開院。生活習慣病や甲状腺などの内分泌疾患を専門とし、「家族ごと診るかかりつけ医」の役割を果たすべく、地域医療に貢献している。日本内科学会認定医、日本糖尿病学会認定医、日本内分泌学会認定専門医。
患者に試してもらい3ヵ月で確かな効果
私が、タマネギの健康効果に着目したのは、もう15年ほど前になるでしょうか。クリニックに、ある検査装置を導入したことがきっかけでした。
それは、人工の疑似毛細血管に血液を通過させ、その流れ方を顕微鏡で観測して経過時間を測り、血液流動性を測定する装置(MC-FAN)です。
この装置は、主に大学病院や健診センター向けで、いわゆる「血液サラサラ」度合いを調べるものです。
導入当時、多くの患者さんが検査を受けられましたが、その全員を対象に、食事についての聞き取り調査を実施しました。すると、特に前日の食事内容が、検査結果に影響していると判明したのです。
血液がドロドロの人に多いメニューは、例えば、カレーやフライドチキン、フライ弁当、おやつにポテトチップス、といったぐあいです。油脂分の多い食べ物が目立ちます。
患者さんに確認したのは、前日に食べた物ではありますが、これはある程度、ふだんの食事を反映していると考えていいでしょう。脂っこい物を好む食習慣が、血液をドロドロにしているのです。
一方、血液がサラサラな人が前日に食べていたのは何か。それこそが、タマネギでした。
生活習慣病の改善に、食生活が重要であることは、私もかねてから認識していました。しかしこのとき、タマネギの健康効果に気づき、文献を調べたところ、タマネギは古代エジプトで薬草として重宝されていたことを知りました。
なんでも、王がピラミッドを造った際、建設に従事する労働者に肉の付け合わせとして、タマネギを食べさせていたとか。昔の人は、タマネギが血液をサラサラにして、健康づくりに役立つことに、経験から気づいていたのでしょう。
血液をサラサラにする食材としては、青背の魚なども挙げられます。患者さんには、いろいろと試してもらいました。その結果、3ヵ月で確かな効果が現れたのが、ほかでもない、タマネギだったのです。
こうしたことから、あらためて食事指導に力を入れ、「血液サラサラ度」が標準以下の人には特に、タマネギを勧めるようになりました。

50µℓ通過時のMC-FANによる画像(時間19.7秒)
患者さんの血液サラサラ度を測定した一例
75歳女性:50µℓが通過するのに19.7秒かかっている。血液がサラサラで滞りなく流れている状態。
心筋梗塞や脳梗塞の予防にも
クリニックでは、毎月1回、「糖尿病教室」として、患者さんやご家族向けの勉強会を実施しています。
その一環で、「糖尿病の合併症を予防する」と銘打って、タマネギ尽くしのメニューを並べた料理講座を開催したところ、受講者の皆さんに大変好評でした。
ちなみに、夫婦そろって食事指導を受けられる患者さんは、家族の意識も変わるため、効果が現れやすいようです。
タマネギには、含硫アミノ酸(イオウ化合物)や、ポリフェノールの一種であるケルセチンが豊富に含まれています。
これらの成分には、血栓(血の塊)を生じにくくする作用や、抗酸化作用が認められています。
血液をサラサラにするので、高血圧や動脈硬化、脂質異常症の予防・改善に有効。心筋梗塞や脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの予防にも効果的です。
全身の酸化を防ぐので、老化防止にも役立ちます。脳の若返り、つまり認知症予防にも効果を発揮するでしょう。
タマネギには、腸内細菌のエサになり善玉菌を増やすオリゴ糖や、食物繊維も豊富です。これらが相乗して、便秘を解消に導きます。腸内細菌叢(腸内フローラ)が整えば代謝が向上。やせたい人にも向くでしょう。
また、近年よく知られているとおり、腸は「人体で最大の免疫器官」です。つまり、腸内環境の改善は、免疫力アップやガン予防にもつながります。
私は以上の理由から、患者さんに、タマネギを積極的にとるよう勧めています。特に、皮茶は味もよく、麦茶がわりに最適です。お金もかからず、続けやすいでしょう。
[別記事:タマネギの皮茶の作り方→]
タマネギを料理に使うなら、1日に4分の1個ほど食べれば十分です。多少食べ過ぎても、薬と違い副作用もありません。
別記事のタマネギ料理レシピを参考に、ぜひ、毎日タマネギを食べて、健康づくりに役立ててください。
[別記事:タマネギ〝旨〟料理レシピ→]

■タマネギの健康効果
⃝糖尿病合併症の予防
⃝高血圧、動脈硬化、脂質異常症の予防・改善
⃝心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症の予防
⃝老化防止、認知症予防
⃝肥満解消、ダイエット
⃝便秘解消、ガン予防

この記事は『壮快』2020年4月号に掲載されています。
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