解説者のプロフィール

高橋洋子(たかはし・ようこ)
みたにアイクリニック院長。東京生まれ。東京女子医科大学卒業。白内障の手術を執刀するなかで、メガネなしで生活することのすばらしさや利便性に気づき、どの年代の人にも裸眼で見える生活を供給したいと思うようになる。2011年、東京国分寺市にみたにアイクリニックを開院。
目の疲れも老眼も、原因は似ている
私が勤務するクリニックには、毎日、たくさんの患者さんが目の不調を訴えて来院されます。近年増えているのは、目の疲れや、老眼に悩む患者さんです。
目の疲れにはさまざまな原因が考えられますが、その一つに「調節障害」があります。調節障害とは、目のピントを合わせるための調節力に問題がある状態を指します。
目は本来、さまざまな距離のものでも一瞬にしてピントを合わせるオートフォーカス機能が備わっています。その機能を担っているもののひとつが、角膜の奥にある水晶体(目の中でレンズの役割を担う器官)です。
調節していない状態では、水晶体は薄く平坦で、遠くにピントが合っています。一方、近くを見るときには周辺にある毛様体筋という筋肉が緊張して水晶体が厚く膨らみ、ピントを合わせます。
ところが、何らかの原因で水晶体の厚さの調整などがうまく行われないと、ピントが合わずに視界がぼやけてしまうのです。
もともと目の調節力は10代からゆるやかに落ちはじめ、25歳からは年齢を重ねるごとに衰えていきます。調節力の低下が自覚症状となって現れるのが40歳過ぎからで、これが「老眼」です。
つまり目の疲れも老眼も、原因は似ているのです。どちらも何もせずにいると疲れがたまり、つらいままになってしまいます。
そんな悩みを持つ人にお勧めしているのが、目を蒸しタオルなどで温める、温熱療法です。

現代は目を酷使する場面がたくさん!不調を感じている人も、そうでない人も、ぜひ目を労わって
10分温めただけで老眼が改善!
私は過去に大学病院に勤務していたとき、ある企業のアイケアグッズの開発に携わりました。
目に関するさまざまな研究を行い、その一環として「目の周りを温めると、どのような効果が得られるか」という臨床実験に取り組んだのです。
目を温める実験(目の温熱療法)の対象は、老眼の症状を自覚しはじめる30代後半から50代の人たちです。
使用するアイマスクは市販の使い捨てカイロを改良し、目の周囲に使えるようにし、さらに水蒸気が発生するようにしました。このアイマスクで、目の周りを10分間温めることで、どの程度、調整力つまりぼやけが改善したかを調べました。
その結果、50代(平均年齢54.2歳)の10名に改善効果がみられました。目から40cm程度離さないとピントが合わなかった老眼が34cmまで近づけてピントが合うようになったのです。
同じ調査を30代後半から40代(平均年齢39.3歳)の10名に行ったところ、33cm程度でピントが合うようになりました。
さらに、30代後半から40代(平均年齢39.7歳)の10名に毎晩、就寝前に温熱療法を行い、目の調整力が低下する午後4時頃に改善効果を調べました。すると、開始2週目から老眼の改善効果が見られ、その効果は8週目まで持続しました。
これらの結果から、温熱療法によって目の調節力が改善すると、毛様体筋への負担が軽減し、結果的に目の疲労対策にも有効だと考えられます。
ではなぜ、目を温めると眼精疲労や老眼が改善されるのでしょうか。
大きな理由の一つは、体をリラックスさせる副交感神経が優位になり、毛様体筋が働きやすくなったからです。
また、血流が促進されることで毛様体筋の血液循環がよくなったことや、水蒸気を含んだ温熱療法によって、より深部まで温熱が伝わったことも目の症状の改善の一因に挙げられるでしょう。
自宅で目の温熱療法を行う場合は、下でご紹介しているように、電子レンジで濡らしたタオルを温め、使用してください。
または、市販の蒸気が出るタイプのアイマスクを使うのもいいでしょう。
私は眼精疲労などで悩む患者さんに目の温熱療法を勧めているのですが、「目が疲れにくくなった」「ぐっすり眠れるようになった」など、うれしい感想をたくさんいただいています。
蒸しタオルを使った目の温め方

❶フェイスタオルを濡らして絞り、電子レンジで1分ほど温める

❷①を3分間、目の上に載せる。タオルが冷めてきたら再び電子レンジで温め、約10分間、目の周りを温める
目に合ったレンズを使用することがたいせつ
最近、目の疲労を訴える人が多くなった大きな原因の一つに、日本のメガネやコンタクトレンズの販売環境にあると私は考えています。
欧米諸国ではメガネもコンタクトレンズも医療機器扱いのため、購入時には眼科医の検査が必要です。視力検査もその人の目に最適のレンズを選ぶ作業も、慎重に行わなければならないと考えられているからです。
かつては日本でも、眼科医の処方箋がなければメガネもコンタクトレンズも買えませんでした。
ですが現在、日本では、医療従事者の介在なしにメガネやコンタクトレンズを買えるお店がたくさんありますし、インターネットでも購入ができます。
実際に今、私のクリニックには、根拠が不明な度数のメガネやコンタクトレンズを使い、目の不調で駆け込んでくる人も多いのです。
つまり、目の疲れは、自分の目に合わないメガネやコンタクトレンズの使用も一因なのです。
自分に合った矯正と温熱療法で目を大事に
おそらく大抵のかたは、メガネやコンタクトレンズを作る際に、「遠くまでハッキリ見えるものがいい」と考えることでしょう。
その考え方は間違ってはいませんが、現代人はスマートフォンやパソコンといった近くのものを見る時間が圧倒的に多いのが現実です。にもかかわらず、度数の強いレンズを使用してしまうので、「過矯正」という症状が現れるのです。
人間の目は、リラックスした状態では遠くにピントが合うようにできています。近くのものを見るときには、毛様体筋が緊張することで、ピントを合わせているのです。
過矯正のメガネやコンタクトレンズは遠くのものを見るために調整されているため、近くのものを見ようとすると目はピントを合わせるために必要以上にがんばらなければなりません。
その結果、疲労が蓄積し、目の疲れや頭痛といった症状を引き起こすのです。
本来、目の負担を軽減させるためのメガネやコンタクトレンズが、逆に目を疲れさせてしまうのは、本末転倒です。
自分の用途に合ったメガネやコンタクトレンズを使いこなせば、目の疲れは軽減するでしょう。老眼は、つらい症状ではありますが、さほど不自由を感じることなく生活を送ることも可能なのです。
目の疲れや不調に悩んでいるかたは、この温熱療法を試してみるほか、普段使っているメガネやコンタクトレンズがちゃんと自分の目に合っているかどうかを眼科医に相談することもお勧めします。
目をたいせつにして、ストレスなく見える生活を楽しんでください。

目を温めるとハッキリ見えるだけではなく、リラックス効果もバッチリ!

この記事は『ゆほびか』2020年4月号に掲載されています。
www.makino-g.jp