色素細胞の幹細胞を守るNICHEという環境がダメージを受けることで、色素細胞が生み出せなくなり、白髪になることが研究でわかりました。ダメージを防ぐ方法は日常生活でもあり、「首を温める」というのも一つの方法です。【解説】青木仁美(岐阜大学大学院医学系研究科再生医科学専攻組織・器官形成部門講師)

解説者のプロフィール

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青木仁美(あおき・ひとみ)
岐阜大学大学院医学系研究科再生医科学専攻組織・器官形成部門講師。再生医科学博士。岐阜大学農学部で品種改良や遺伝・育種の分野を学び、発生学の研究室を経て、医学系研究科に転科。皮膚や毛髪の色をつかさどる色素細胞の研究に取り組み、手軽に手に入る製品の実用化に向け、さまざまな企業と共同研究を行っている。

白髪の要因はなかなか特定できない

「髪の毛に塗るだけで、白髪が黒くなるクリーム」「肌に塗るだけで、黒ずんだ肌が白くなるジェル」──。こんな製品が近くのドラッグストアで手軽に手に入るようになったら、素敵だと思いませんか。私たちはそうした夢の製品の実用化に向けて、日々研究を続けています。

「白髪は染料で染めればいい」と思うかもしれませんが、染料は髪や皮膚に少なからずダメージを与えますし、髪の毛が伸びるたびに染めるというのもけっこう手間です。

一方、白髪は命にかかわるような病気ではありませんし、薄毛や脱毛ほど深刻とも思われなかったので、研究がなかなか進みませんでした。今のところ、薬や医薬部外品も作れません。

それでも、染料やヘアカラーの市場は非常に大きく、それだけ悩んでいる人が多いということでもあります。手軽に、安全に白髪を黒くできる製品ができれば、たくさんの人に喜ばれると私は確信しています。

そもそもなぜ白髪になるのでしょうか。実は、髪の毛はもともと色がなく、半透明の状態です。

髪の毛は、一本一本の根元にある毛包内の幹細胞色素細胞を生み出し、その色素細胞が「メラニン色素」をつくって、髪に受け渡すことで黒くなります。

この色素細胞の数が減ったり、消失したりして、メラニンを作れなくなると髪の毛は色がなくなり、半透明になります。これが光の反射で白く見えることで「白髪」になるのです。

白髪になる、つまり色素細胞の発生異常が起こる理由は、実は200種類以上の遺伝子で確認されていて、自分がどのタイプと特定することはほとんどできません。

ただ、最も代表的な理由はやはり加齢、老化です。また、紫外線も大きな理由と考えられています。喫煙やストレスなども、血流が滞り、細胞に必要な栄養が届かなくなることで、白髪の要因になると言われます。

白髪は特にフェイスラインにできやすいですが、これは化粧品による化学的な刺激を受けやすいから、という論文もあります。遺伝的な要因も含めて、これらのリスクファクターが複雑に絡み合うので、白髪の現れ方も個人差が大きいわけです。

色素細胞を守る環境が改善されれば白髪を防げる

理屈的には、色素幹細胞が髪の成長に合わせて、じゅうぶんな色素細胞とメラニンを作り続けて髪に届け、髪が生え代わっても失われずに機能し続ければ、何歳になっても黒い髪を維持できるということです。

かつては、白髪になるのは、色素細胞を生み出す幹細胞自体が機能を失うからと考えられていました。

ところが、私たちの研究で、色素細胞の幹細胞が機能を失うのではなく、幹細胞を守るNICHE(ニッチ)という環境がダメージを受けることで、色素細胞が生み出せなくなっていることがわかりました。

黒髪が白髪になるメカニズム

画像1: 【首を温める】頭皮の血流が促進され白髪の予防・改善につながると研究者も期待

髪の毛の根元にある毛包内の幹細胞が色素細胞を生み出し、その色素細胞が「メラニン色素」を作って、髪に受け渡すことで黒くなる

画像2: 【首を温める】頭皮の血流が促進され白髪の予防・改善につながると研究者も期待

血流悪化やストレスなどで、色素幹細胞を守るNICHE(ニッチ)という環境がダメージを受けることで、色素細胞が生み出せなくなり、白髪になる

色素細胞に直接アプローチするとなると、例えば、髪だけを黒くしたいのに肌まで黒くなってしまったり、微妙な色合いの制御が難しかったりといった問題がありました。

しかし、NICHEを守ればよいというアプローチなら、髪だけを黒くすることが可能ですし、よりマイルドに、かつ根本的に幹細胞の機能を元気にすることができます。現在の白髪研究は、この考え方が主流になっているのです。

これまでの研究で、NICHEを正常化するいくつかの天然由来成分が見つかっています。それらの成分を動物に経口投与ないしは塗布することで、毛一本のレベルでは黒くなる効果がある一方、肌の色素細胞には作用しないというところまで確認されています。

今後、さらに研究を重ねて、効果をより確実にし、色の濃淡なども細かく制御できる方法を確立したいと思っています。

温かい土地に住む人種は白髪になりにくい

なるべくNICHEがダメージを受けることを防ぐ方法は、日常生活でもあります。

首を温める」というのも一つの方法です。首には頭皮に血液を送る頸動脈があります。ストレスや冷えなどで血流が滞ると、色素幹細胞やNICHEにも必要な栄養が届きにくくなり、これが白髪の増加につながることも考えられます。

首を温めることで、血行を促進し、代謝や体温が上がれば、頭皮環境や体循環などに好適に作用し、細胞活性も上がります。結果として、髪の色素幹細胞を活性化させ、NICHEをダメージから守る作用も期待できると思います。

地球上に住む人類では、比較的寒冷な地域に住むコーカソイド(白色人種)が最も白髪になりやすく、次いでモンゴロイド(黄色人種)、暖かい地域に住むネグロイド(黒色人種)は、最も白髪になりにくいという研究データがあります。このデータも、体温が高い方が白髪になりにくいという話につながるかもしれません。

首を温めるには、下項の写真のようにホットタオルを巻くのも有効ですし、カイロを貼ったり、マフラーなどの暖かい布を巻いたりするのもいいでしょう。

血管を収縮させ、血流を悪くする喫煙は、髪の毛のためには止めたほうがよいでしょう。深酒や睡眠不足など、活性酸素が増える習慣も、細胞や血管の老化を促すため、極力避けましょう。

また、紫外線は頭皮や髪にダメージを与えることがわかっています。四季を通して、紫外線対策を行うこともたいせつです。

髪の毛はいっぺんに白くなることはなく、白髪になってもその隣には色素細胞を持つ黒い毛が存在します。色素細胞は、胎児期に移動し、毛包や皮膚に定着する小さな細胞です。もし、黒髪から白髪に色素細胞が移動してくれたら、黒髪を取り戻すことができます。

皆さんがいつまでも若く、美しくいられるように、私たちは研究を重ねています。皆さんも日々の生活の中で、頭皮や髪の毛へのダメージをなるべく避け、黒々とした髪を守る生活を心がけてください。

白髪を予防・改善する
「首のホットタオル」のやり方

画像1: 白髪を予防・改善する 「首のホットタオル」のやり方

タオルを水でぬらし、よくしぼる

画像2: 白髪を予防・改善する 「首のホットタオル」のやり方

タオルをラップでくるみ、レンジで温める

画像3: 白髪を予防・改善する 「首のホットタオル」のやり方

やけどに気をつけながら、タオルを首に巻いて温める
※カイロやマフラーなどで温めてもよい
※温めすぎてのぼせないように注意

画像: この記事は『ゆほびか』2020年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『ゆほびか』2020年4月号に掲載されています。

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