解説者のプロフィール

坂井学(さかい・まなぶ)
坂井医院院長。1949年、鳥取県生まれ。大阪大学医学部卒業後、大阪府下などの複数の病院勤務を経て、1999年、和歌山市に坂井医院を開設。坂井医院では延べ15万人以上の患者さんと向き合い、多くの現代医療では治りにくい病気や痛みに悩む患者さんを治癒に導いている。全国各地で100回以上の招待講演会などを行い、医療に対する根元的な視点を示して、強い支持を得ている。現在もロングセラーとなっている『「体を温める」とすべての痛みが消える』、『「脊柱管狭窄症」を自分で治す本』(いずれもマキノ出版)などの著書がある。
▼坂井医院(公式サイト)
痛みが出たときに冷やすのは逆効果
冷え込みが厳しい季節に、体を温めるために「使い捨てカイロ」を使用する人も多いと思います。カイロを使って温めることに、私は大賛成です。カイロを貼って体の冷えを取り、血液循環がよくなれば、体の不調が治り、元気になるからです。
カイロが活躍するのは、体を温めるときだけではありません。坂井医院では、腰痛やひざ痛など、痛みで来院された患者さんたちに、湿布ではなく、カイロを貼ることを勧めています。これで実際に、腰痛やひざ痛、肩こり、股関節痛、頭痛、腱鞘炎、しびれなど、全身のあらゆる痛みが改善しているのです。
椎間板ヘルニア(※1)、脊柱管狭窄症(※2)、変形性股関節症、変形性膝関節症など、一般的には治癒が難しいと言われている症状にも著効を上げています。
※1 背骨でクッションの働きをする椎間板の中身の髄核が飛び出し、神経を刺激して痛みやしびれなどが現れる状態
※2 背骨を貫いている脊柱管という管が狭くなり、神経などを圧迫してさまざまな痛みや症状を引き起こすとされる状態
「痛みを取るのには、体を温めるのが最適」。こう言っても、にわかには信じられない人も多いでしょう。
例えば、腰痛やひざ痛などで病院に行くと、ほとんどの場合、湿布を処方されます。打ち身やねんざで応急処置をするときでも、つい冷やしてしまう人が多いのではないでしょうか。
しかし、痛みが出たときに冷やすのは逆効果なのです。これを理解していただくために、まず「痛み」の仕組みについて説明します。
血流を促進すれば体の回復は早まる
ケガや誤った使い方、誤った生活習慣、ストレスなどで血液循環が低下して体がダメージを受けると、私たちの体内では、ダメージを修復しようとする機能が働きます。「プロスタグランジン」という一種のホルモンが増加するのです。
プロスタグランジンの主な作用は血液循環をよくすることですが、同時に「炎症」という現象を起こします。
炎症は、痛みや腫れが出たり、皮膚が赤くなったり、熱を持ったりするので、どうしても目の敵にされがちです。皆さんも、炎症と言われると、「すぐに消さないと」と思うことでしょう。
確かに、炎症は不快ですし、体内で異常が起きているのではと不安になります。しかし、炎症は、体のダメージを修復するために起こる自然な現象なのです。
私は、こうした痛みの仕組みを患者さんに説明するとき、「痛み公式」として道路工事にたとえています。
❶まず、道路に凸凹ができました
これは、血液循環が低下したり、体が何らかのダメージを受けたりした状態です
❷道路を修復するために、工事を発注します
低下した血液循環を高めてダメージを修復しようと、プロスタグランジンの分泌が増えます
❸実際に、現場で工事します
プロスタグランジンの作用で血液循環がよくなり、同時に炎症や、炎症に伴う痛みや腫れが起こります
❹凸凹が直り、工事が終了します
ダメージの修復が終わって、血液循環も平常に戻り、炎症や痛みが治まった状態です

工事中に体を温めると、どんどん資材が送られてくるようなもの。ダメージの修復が早くなる
こう見ると、痛みは③の工事中のときに生じていることがわかります。つまり、痛みは、体の修復作業のときに生じる騒音やホコリのようなものなのです。体を傷つけているから痛むのではありません。工事が終われば、自然と消えていくものなのです。
この修復工事中に湿布を貼るとどうなるでしょう。湿布は、患部を冷やし、血液循環を低下させ、無理に炎症を止めます。すると、修復工事はなかなか終わりません。体のダメージが回復しにくくなるのです。
痛みは、その原因がなんであれ、血液循環が低下すると起こります。逆に言うと、「そこに血液がもっと欲しい」という体の要求が、痛みとして現れるわけです。
ですから、血液循環を高めれば、痛みが軽減し、体の修復も早くなります。血流を促進するためにたいせつなのが体を温めること。そして、患部の血流促進に役立つのが、カイロというわけです。
冷えや痛みを感じる場所に貼るだけ
痛みを改善するためのカイロの貼り方は、とても簡単です。そのまま、「痛みの出ている場所に貼る」だけです。
痛みが出ている場所こそが、まさに血液循環をよくして、ダメージを修復しようとしている現場そのものだからです。腰痛の人は腰の痛む部分に、ひざ痛の人はひざに、肩こりがひどい人は首や肩にカイロを貼るようにしてください(詳しいカイロの貼り方は下項)。
カイロには、下着の上から貼るタイプのもの、肌に直接貼るタイプのものなど、いろいろあります。貼る部位や肌の状態、痛みの範囲、好みなどで、適当なタイプを選んで使ってください。
慢性的な冷えや低体温は、体にとって、百害あって一利なしです。私たちの細胞は通常、37℃の状態で最も活動するようにできています。体温が下がる、つまり「冷やす」と、細胞の活動はじゅうぶんにできなくなり、体に深刻な影響を及ぼします。
冷えや低体温に悩む人は、内臓が集まっている腹部と、両ひざの裏側やふくらはぎにカイロを貼るのが有効です。
ひざの裏側の浅いところには、膝下動脈という太い動脈が走っています。ふくらはぎは「第2の心臓」とも呼ばれるように、下肢の血液を心臓に戻すポンプのような働きをしています。ひざ裏やふくらはぎにカイロを貼ると、温まった血液が全身を巡り、体温上昇につながるのです。
おなかも、痛みや不快症状があるときに、ぜひカイロを貼ってほしい部位です。胃腸の不調や便秘、下痢、食欲不振などの症状は、腹部が冷えているために起こります。おなかを温めると、こうした症状が軽快していきます。
また、下腹部を温めることで、生理痛や膀胱炎も楽になります。痔の痛みに効くこともあります。おなかに貼る場合、触れたときに冷たく感じる部分に貼ると効果的です。

おなかに貼ると内臓の不調や生理痛にも効く
バネ指(※3)や指関節の痛み、腱鞘炎など、手に痛みがある場合は、手袋をしてカイロを貼るといいでしょう。手のひらに貼ると、手全体が温まり、痛みが引いていきます。なかには、「もう切るしかない」という指のコブが温めることで消え、痛みもなくなったという例もあります。
※3 手の指の腱にコブができたり、腱を保護している腱鞘の一部がダメージを受けたりして、
指の曲げ伸ばしのときに痛みを伴う症状
体調全般を回復させたい場合は、「副腎」にカイロを貼るのが有効です。副腎と腎臓は、背中側の背骨と肋骨下部との間に左右あり、副腎は腎臓の上部にあります。
副腎は、副腎皮質ホルモンや副腎髄質ホルモンなどを分泌して、免疫、血液や体液の循環、性機能など、多方面にわたって全身の機能を調整している非常に重要な器官です。副腎を温めて、血液循環を高めれば、体調全般が整い、心身ともに元気になります。
カイロは安価で手に入り、使い方もとても簡単です。基本的に、貼ってはいけない人はいません。年齢・性別も問いませんし、ギックリ腰のような急性の症状、肩こりのような慢性的な症状、あらゆる関節や体の部位など、いたるところに貼って大丈夫です。
ただし、低温やけどの心配がありますので、就寝前はカイロをはずすようにしてください。また、貼る部位に切り傷ややけどがある場合は、治ってから貼るようにしましょう。
冷えや低体温は万病の元。カイロをフル活用して体を温め、痛みや不調のない生活を楽しんでください。
痛いところ別「カイロの貼り方」
※貼ってはいけない場所はないので、痛みのあるところに貼ること
※頭や顔などが痛む場合は首に貼る
※低温やけどになる可能性があるので、就寝前は外す
※患部に傷ややけどがある場合は、治ってから貼る
腰痛がある場合

写真は一例。痛みのある場所に貼る。広範囲にわたる場合は何枚貼ってもOK
肩こりがある場合

こり、痛みのある場所に貼る。首に貼ってもよい
ひざ痛がある場合

痛みのある場所に貼る
体を温めて不調を取る「カイロの貼り方」
※低温やけどになる可能性があるので、就寝前は外す
背中の副腎の位置に貼る

体調全体を底上げしたい場合は、背中の副腎の位置にカイロを貼る。大きいサイズのカイロを1枚横にして貼ってもいいし、写真のように2枚に貼ってもよい
おなかに貼る

腹部の痛いところ、冷えているところに貼る。特にない人は、中心に貼る。胃腸の不調、食欲不振、便秘、下痢、生理痛、膀胱炎などの改善に役立つ
両ひざの裏側とふくらはぎに貼る

冷えを改善したい人は、ひざ裏とふくらはぎに貼るのがお勧め。全身に温かい血が巡るようになる

この記事は『ゆほびか』2020年4月号に掲載されています。
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