解説者のプロフィール

森美智代(もり・みちよ)
森鍼灸院院長・断食リトリートあわあわ主宰。1962年、東京都生まれ。鍼灸師。21歳のとき、脊髄小脳変性症(小脳および脳幹から脊髄にかけての神経細胞が徐々に破壊、消失していく病気で、歩行時のふらつきや、手の震え、ろれつが回らないなどの症状が出る指定難病の一つ)を発症。断食や少食療法の先駆的指導者である故・甲田光雄医師のもとで治療に取り組み、病気を克服。その後、鍼灸師の資格を取得し、森鍼灸院を開院。『開運!龍体文字の奇跡』『「おうち断食」で病気は治る』(いずれもマキノ出版)など、著書多数。
年齢とともに体は冷えていく
東洋医学でいうと、冷え症は典型的な「未病」の状態です。つまり、病気と健康の間のこと。日本人女性の7割が冷え症だというデータもあるようですが、年齢とともに体温が下がり、冷えを感じるのは当然でもあります。
なぜなら、私たちの体温は、「筋肉量」と「血流」が大きく影響するからです。
筋肉は熱を作る大きな装置です。しかし、年齢とともに運動量は減り、若い頃の筋肉量を維持するのは並たいていではありません。
筋肉が衰えてくると、血管を収縮させて血液を心臓に戻す筋肉のポンプ作用が弱まります。すると、血流もどんどん悪くなります。そうなると、さらに体は冷えて血流は悪化し、さまざまな悪影響が出てきてしまいます。
体中の臓器に必要な栄養や酸素が運べず、老廃物の回収もうまくいかなくなるからです。すると、頭痛、肩こり、便秘や腹痛、月経痛や生理不順、不眠、肥満など、多種多様な不調に悩まされるようになります。
また、体温が下がると免疫力も下がるので、ウイルスや病原体への抵抗力が弱まります。カゼも引きやすくなるでしょう。
そこで私が長年の経験を元に、お勧めしているのが、寝たままでできる「手足ブラブラ体操」です。
手足ブラブラ体操は、「毛管運動」とも呼ばれ、全身の血流をよくするための運動です。それだけではなく、二の腕、太もも、おなかなどの筋肉も鍛えられます。
私たちの全身の血管は心臓を中心につながっていて、最も細い毛細血管は、約8割が手足に集中しています。手足ブラブラ体操は、手足の毛細血管の血流をよくすることで、全身の血流を改善し、心臓の働きを助けてくれます。

手足ブラブラ体操をする森先生。この体操のコツは、腕や足の付け根から微振動させること
手足ブラブラ体操は、上の写真の通り、あお向けになって両手両足をまっすぐ上に伸ばし、ブラブラと動かすだけです。手首や足首は動かしません。
上手にやるコツは下項でお伝えするとして、この運動が血流改善や冷え解消に「即効性がある」理由をご説明しましょう。
一気に血流をよくし血管の柔軟性を高める
手足ブラブラ体操には、「細胞の断食」という異名があります。手足を上げて振ることで、末端の血液を一時的に少なくして細胞を飢えさせるからです。
1〜2分間、手足をブラブラした後、手足をおろして血液が末端に流れたとき、飢えた細胞がまるで吸い付くように血液を取り込むため、一気に血流がよくなると考えられています。
冷え症や高血圧の改善が期待できるだけでなく、この運動は血管の柔軟性も高めますので、低血圧の人は正常値になります。
末梢の血管がもろくなりやすく、血流を促進したほうがよい糖尿病のかたにも効果的でお勧めです。
年を取るとこむら返りを起こしやすくなり、30分以上、苦しまれるかたがいます。そんなときも、この運動をすれば3分ほどで治まることは実証済みです。
10年来の低体温症や子どもの便秘も解消
また、最近の体験者の声としては10年ほど前から34.5℃という低体温に悩んでいた70歳の女性が、手足ブラブラ体操を朝晩2分6回、計12回やったところ、たった2週間で体温が35.9℃にまで回復しました。
冬場は必須だったカイロが要らなくなり、血流がよくなったせいか肌つやがよくなり、目もパッチリしたとおっしゃっています。
年配の人だけではありません。最近の子どもたちは、昔に比べて体温が低下しています。また、甘いものや加工食品の食べすぎで肝臓に負担がかかり、便秘にもなりがちです。
鍼灸院スタッフの7歳になる娘さんは、昨年の夏、もともと便秘ぎみだったことと脱水が重なり、入院しました。また、ひどい寒がりで、冬になると朝はなかなか活動的に動けませんでした。
しかし、お母さんがかかとを軽く持って手足ブラブラ体操を朝晩2分4回、計8回続けたところ、うそのように寒がらなくなったそうです。悩みだった便秘も改善しました。
手足ブラブラ体操のよいところは、一度覚えたら、年齢を問わず誰でもできること。寝て行うので、転倒の心配もなく、高齢者にも安心です。
ただ、前掲の写真を見ると単純で簡単そうですが、実際やってみると、けっこう筋肉を使うことがわかると思います。
太ももの裏の筋肉を伸ばして柔らかくすることから、腰の筋肉も鍛えられるので、ギックリ腰の予防にも効果的です。
手足の末端を振るのではなく、二の腕と太ももを振る(微振動させる)のが正しいやり方です。
とはいえ、最初は正しくできなくても、ある程度の効果は得られます。次項のやり方を参考に、朝起きたときと、夜寝る前など、1日2〜3回、各1〜2分程度、布団の上で行ってください。
即効性のある体操ですから、ぜひ習慣化して、体を中から温めて、健康年齢をどんどん上げていきましょう。
「手足ブラブラ体操」のやり方
※手足ブラブラ体操を行うのは、起床時と就寝時など、1日2〜3回がお勧め!

❶あお向けになり、首の下に枕を置く。枕は硬枕が理想だが、座布団やタオルを丸めたものなど、硬めのもので代用してもよい

❷手足を垂直に上げる。指先から手のひらまでピンと伸ばし、足の裏は床と平行になるようにする。アキレス腱も伸ばす

❸②の姿勢のまま、手足を小きざみに震わせる。手首や足首を動かすのではなく、手足を伸ばしたまま二の腕や太ももなど、付け根を微振動させるのがコツ
❹1〜2分振動させたら、①の姿勢に戻り、しばらく休んでから起き上がることを1セットとし、1度に2〜4セット行う

腎臓病の人、足首に故障のある人、足に炎症のある人は、足首を固定して行う。100円ショップなどで売っているファイルボックスやブックエンドに足をはめて足首を直角にして固定するとよい。ずれる場合は、さらに手拭いやヒモなどで固定する

この記事は『ゆほびか』2020年4月号に掲載されています。
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