冷え症はアジア人特有の体質です。病気ではありませんから、直接命にかかわるということはありません。しかし、逆に体質であるため、改善するのは簡単なことではないのです。強い冷えを感じたら、しっかりと対策し、場合によっては通院することも必要となります。【解説】林忍(横浜血管クリニック院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

林忍(はやし・しのぶ)
横浜血管クリニック院長。慶應義塾大学医学部卒業。血管外科専門医として、慶應義塾大学病院、済生会横浜市東部病院、済生会神奈川県病院に20年間勤務した後、2016年2月、横浜血管クリニック開設。多くの血管外科臨床に従事し、特に下肢静脈瘤の累計症例数は1万例を超える。血管にまつわる病気のほか、冷えやむくみといった身近なトラブルの相談にも対応し、新聞、テレビ、雑誌などのメディアでも活躍中。慶應義塾大学外科学教室非常勤講師。

「冷え」に悩むのはアジア人だけだった!

私のクリニックは、文字通り血管の手術を専門としています。加えて、過去に多くの冷えに悩む患者さんを診た経験から、全国でも珍しい「冷え症外来」を設けています。

当院のホームページで最も閲覧者が多いのは、この冷え症外来のページです。実際、当院には「手足が冷たくて眠れない」「何枚着ても寒い」「肩こり、腰痛がつらい」「何をしてもやせない」などといった、冷えからくる症状に悩むかたが、多く受診されています。

先日もNHKの朝のニュース番組『おはよう日本』で当院の冷え症外来が取り上げられ、大反響を呼びました。

そもそも、血管外科医である私がどうして冷え症外来を開設したか、疑問に思うかたも多いでしょう。

私がかつて大病院の血管外科に勤務していた頃、冷えに悩んでいるという患者さんが内科から多く紹介されて来ました。大病院といっても冷え症を専門とする科などなく、冷え症に悩む患者さんはどこの科に行けばいいかわかりません。

患者さんはとりあえず内科を受診されるようですが、一般の内科では冷えを改善する手立てはありません。患者さんは血行障害など、血管の病気からの冷えを疑われて、血管外科を紹介されるというわけです。

なぜ、大病院に冷え症を担当する科がなく、内科でも冷え症を治せないのでしょうか。

その理由は、西洋医学には「冷え」という概念そのものがないからです。実は、冷え症で悩むのはアジア系の人種だけなのです。

よく街中で、冬場なのにTシャツ姿で歩いている欧米人を見かけることはありませんか? 欧米人はアジア人と違って、体質的に冷えを感じにくいのです。

東洋医学ではあたりまえのように語られる「冷え」ですが、西洋医学にはそういう考え方がありません。私たち西洋医学を学んだ医師も、冷え症について学んでいないのです。

頭と指先の体温差が10℃以上ある人も!

画像: 手の甲の体温を測る林先生。冷え症外来の診断はここから始まる

手の甲の体温を測る林先生。冷え症外来の診断はここから始まる

私は、冷え症外来に訪れる患者さんたちに、まず「冷え症は病気ではなく、体質である」ということをお伝えします。

先述のように、冷え症はアジア人特有の体質です。病気ではありませんから直接命にかかわるということはありません。しかし、逆に体質であるため、改善するのは簡単なことではないのです。

病気ではないとはいえ、冷え症を放っておくとさまざまな不調につながります。また、まれではありますが、閉塞性動脈硬化症(※)を始めとした大きな病気が隠れている場合もあります。
※足の血管の動脈硬化が進み、血管が細くなったり、詰まったりして、じゅうぶんな血流が保てなくなる病気

強い冷えを感じたら、しっかりと対策し、場合によっては通院することも必要となります。

冷え症外来では、まず、体の3カ所の体温を測ります。赤外線体温計を使って、おでこ、手の甲の親指と人さし指の間、足の甲の親指と人さし指の間の体温を測り、その数値の差を割り出します。

おでこの体温は、よく測定に使われるわきの下の温度と同等で、およそ36℃前後です。対して、手足の甲の温度は、冷え症でない人は33〜34℃程度、重度の冷え症の人だと20℃台前半、体温差が10℃以上あることもあります。

これほど体温との差があると、手足の指先が痛くなったり、しびれたりなどの症状が起こることもあります。

私は、おでこと手足の体温差が3℃以上だと軽度の冷え症、5℃以上だと体質改善が必要な中程度の冷え症、10℃以上はカウンセリングや治療が必要な重度の冷え症と診断しています。

おでこと手足の先の温度差で冷え症かどうかわかる

画像: 赤外線体温計を使い、おでこと手足の先の温度差を測る

赤外線体温計を使い、おでこと手足の先の温度差を測る

おでこと手足の先の温度差が…
3℃未満
末端冷え症ではない
3〜5℃ 軽度の冷え症
冷えやすい習慣に気をつける
5〜10℃ 中程度の冷え症
要生活改善。3つの冷え症解消術(下記)を実践する
10℃以上 重度の冷え症
3つの冷え症解消術のほか、通院治療が必要な場合も

この体温測定でわかるのは、下記の「末端冷えタイプ」と呼ばれる冷え症です。そのほか、問診などを経て、私は冷え症を大きく4タイプに分類しています。

末端冷えタイプ
 手足の先端が冷える、最も患者さんが多い冷え症
下半身冷えタイプ
 骨盤のゆがみなどが原因で、特に下半身の冷えが強い
内臓冷えタイプ
 手足に冷えは少ないが、内臓が冷えているタイプ
自律神経失調タイプ
 自律神経の乱れにより強い冷えを感じるタイプで、男性にも多い

各タイプの詳細については下項で解説します。

ほかにも、更年期障害が原因となっている冷えや、栄養不足による冷えなどもありますが、ほぼこの4タイプに分けられます。最も患者さんが多いのは末端冷えタイプですが、最近特に増えているのは「自律神経失調タイプ」です。

外気との温度差の大きい冷暖房下にさらされたり、大きなストレスを受けたりすることで体温調節をつかさどる自律神経が乱れ、冷えが起こるタイプです。冷え以外にも、疲れが取れない、イライラする、気が滅入るなどの症状がひき起こされ、男性にも多いことが特徴です。

画像: なるべく体を温める習慣をつけるのが大事

なるべく体を温める習慣をつけるのが大事

冷え症は特に女性に多い

理由は……
●熱を作る筋肉が少なく、冷えやすい脂肪が多い。
●月経時に血液が減り、体の末端まで届きにくくなる。
●冬の薄着やタイトな下着で血流が悪くなる。など

冷え症外来が勧める冷え撃退習慣

冷えは、血流が悪いため、毛細血管へ温かい血液が流れず、血管が収縮し、そのために手足などが冷えることで起こります。体が温まりやすい環境に導き、血流がよくすることが冷えの改善につながります。

当院の冷え症外来では、重度な冷え症の患者さんには、カウンセリングの後、漢方薬やビタミンEなどを処方すると同時に、次の「冷えを解消する3つの秘策」を勧めて、冷えの改善に努めています。

冷え症解消術❶
ぬるめの風呂に長く入る

まずは簡単にできること、入浴です。38℃〜40℃のぬるめのお湯に30分ほどつかるようにしてください。体がリラックスし、副交感神経が優位となって、血管を広げ、血行がよくなります。

逆に、熱いお湯のお風呂は、交感神経が高ぶり、血管が収縮するので、温まっているようでも結果的に体は冷えてしまい、逆効果です。

画像: 冷え症解消術❶ ぬるめの風呂に長く入る

冷え症解消術❷
体を温める食材を食べる

冷たい飲食物や甘い物、ファストフードやスナック菓子の食べ過ぎは、血液をドロドロにし、血行を悪くして、体を冷やす原因になります。また、無理な食事制限を伴うダイエットによるミネラルやビタミン不足も、冷えの元になります。

ショウガ、ニンニク、ゴボウなどの体を温める効果のある根菜や、暖かいみそ汁、スープなどは冷えを取るのに有効な食べ物です。「ショウガみそ汁」もお勧めです。

画像: 冷え症解消術❷ 体を温める食材を食べる

冷え症解消術❸
ジョギングなどの有酸素運動

運動不足は代謝を低下させ、血液の循環を悪くする原因となります。また、筋肉量が少ないと体内で熱を生産することができません。温かい血液を体じゅうに巡らせるためには、ジョギングなどの有酸素運動を行うことが有効です。

健康な人なら、心臓がドキドキして息が上がる程度の運動が目安です。私は、30分程度のジョギングを、週3回程度行うことを勧めています。できればジョギングのほうが望ましいのですが、ご高齢のかたなど運動が難しい場合は、ウォーキングでもOKです。

運動を習慣化できれば、筋肉量が増えます。筋肉が増えると体内で熱を生み出しやすくなり、自然と冷え体質が解消されていきます。

画像: 冷え症解消術❸ ジョギングなどの有酸素運動

繰り返しますが、冷えは体質ですから、簡単には改善しません。しかし、これらの秘策を続けていただくことで、少しずつ体質が変化し、冷え症が軽快したというかたも多くいらっしゃいます。

「どこに行っても治らなかった冷え症がかなりよくなった」「去年の冬より肌着を1枚減らせました」「布団の中でもつま先まで温まり、朝まで熟睡できるようになった」「冷え症とともに、腰痛、肩こり、むくみまで解消しました」などの多くの喜びの声を聞くと、冷え症外来を開設してよかったと思います。

「冷え」のタイプ別解消術

① 末端冷えタイプ

画像1: 【冷え症・タイプ別の解消法】専門外来の医師が食べ物、姿勢、入浴法を指南

【症状】
手の先やつま先が冷える。重症になると手足のしびれや不眠につながることも。冷え症の中で最も多い症状

【原因】
血液がドロドロだったり、血管が細く血行が悪い状態だったりすると、血液が手足の末端部分まで届かない。そのため、手先やつま先が冷えてしまう

【対策】
最もよいのは、食習慣を改善して体を温めるものを食べること。冷えた手足を温めるよりも、腹巻などでおなかを温めることが効果的。ぬるま湯にゆっくりつかるのもよい

② 下半身冷えタイプ

画像2: 【冷え症・タイプ別の解消法】専門外来の医師が食べ物、姿勢、入浴法を指南

【症状】
足先、ふくらはぎ、太ももなど、下半身が特に冷えるタイプ

【原因】
姿勢が悪い、同じ姿勢を長く保つなどが原因で、骨盤がゆがみ、下半身の血行がうまく流れず、代謝が悪くなっているパターンが多い。お尻や太もものセルライトがさらに冷えの原因に

【対策】
ぬるま湯に30分以上つかり、代謝をアップするのが効果的。同じ姿勢を長く続けないなど、姿勢にも気をつける

③ 内臓冷えタイプ

画像3: 【冷え症・タイプ別の解消法】専門外来の医師が食べ物、姿勢、入浴法を指南

【症状】
手足は温かいので、冷えを自覚しないことも。「下痢しやすい」「だるさが続く」「カゼを引きやすい」などの症状があったら要注意

【原因】
ストレスや疲労の蓄積により、血液の循環調整機能が低下していたり、運動不足で体の深部が冷えたりしていることが原因

【対策】
内臓の働きを活性化してくれるショウガやニンニクなどを取ると効果的。運動不足を感じる人はジョギングやウォーキングなどもやるとよい

④ 自律神経失調タイプ

画像4: 【冷え症・タイプ別の解消法】専門外来の医師が食べ物、姿勢、入浴法を指南

【症状】
疲れが取れない、イライラする、落ち込みやすいなど、心理的に不安定になる。最近増えているタイプで、男性にも多い

【原因】
強いストレスを受けたり、温度差の激しい冷暖房で体温調節をつかさどる自律神経が乱れたりすることで起こる

【対策】
強いストレスや冷えを感じたら、ぬるま湯のお風呂にゆっくりつかり、リラックスすること。ストレス解消のためとはいえ、喫煙は血管を強く収縮させるので厳禁

画像: この記事は『ゆほびか』2020年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『ゆほびか』2020年4月号に掲載されています。

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