【解説】高山かおる(埼玉県済生会川口総合病院皮膚科主任部長)
解説者のプロフィール

高山かおる(たかやま・かおる)
埼玉県済生会川口総合病院皮膚科主任部長。東京医科歯科大学附属病院臨床准教授。1995年、山形大学医学部卒。日本の大学病院では稀有な皮膚科のフットケア外来を開局する。難治性の巻き爪、陥入爪、肥厚爪、タコ、ウオノメなどの疾患を抱える患者に対して、トラブルの根治を目指した、原因の追及、診察、専門治療のほか、セルフケアの指導を行う。フットケア師によるフットケア、オーダーメイドのインソール作製などによる免荷療法など、それぞれの専門家と連携を取りながらの保存的治療も積極的に導入している。専門は、接触性皮膚炎、フットケア、美容。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。
▼埼玉県済生会川口総合病院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
足の爪をこまめにチェック・ケアしよう
足の指の爪の役割とは?
爪は、皮膚の一番外側にある角質層が変化したものです。爪の主な働きは、次の4点です。
❶指を保護する
❷指の力を強くする
❸指の触覚を鋭くする
❹指の動きのバランスを取る
足の指に爪がなかったら、歩くときにつま先に力が入らず、足で地面をつかんだり、後ろに蹴ったりすることができません。バランスも崩れて、転倒しやすくなるでしょう。足の爪は小さくても、立ったり歩いたりするのに欠かせないとても大事なものなのです。
爪の病変は、手よりも足によく起こります。特に、トラブルに見舞われやすいのが、足の第1指(親指)です。体重を支えているとき、足の第1指にはほかの指より大きな力がかかっています。さらに、歩いたり走ったりするときは、足の第1指で地面を蹴ります。このとき、足の第1指には下からの力がかかります。
実は、足の指の骨(末節骨)は、指の先端まで達していません。足の第1指に下からの力が加わったとき、骨のない先端を爪が支えることで、指にかかる力に反発しています。つまり、爪があるおかげで、足の第1指は体重を支えたり、地面を蹴ったりできるのです。

足の爪の病変とはどんなもの?
爪病変は多い順に、巻き爪、陥入爪、爪白癬(爪水虫)、肥厚爪です。巻き爪や陥入爪は痛みがあるので、医療機関を受診する頻度が高くなります。爪病変の原因は、4つに大きく分類できます。
①骨の異常に起因するもの
開張足や外反母趾のような足の変形があると、足の第1指の爪が押されて、巻き爪や陥入爪、肥厚爪といった爪の異常をもたらします。
②爪の切り方によって起こるもの
巻き爪や陥入爪は、深爪のような誤った爪の切り方がしばしば原因になります。
③爪そのものの病気によって起こるもの
爪白癬に代表される感染症などです。
④病気とはいえない爪のトラブル
二枚爪や縦線(爪に縦に線が入る状態)、緑色爪(爪が緑膿菌に感染し緑色に変色した状態)など。セルフケアだけでよくなることが多いものです。
足の爪病変が改善して次の新しい爪が生えてくるまで、1年以上みたほうがいいでしょう。さらに、年齢を重ねると爪の伸びは遅くなり、乾燥しやすく、厚くなる傾向があります。普段から自分の爪をよくチェックして、こまめにケアをしましょう。

巻き爪とは? 陥入爪とは?
爪のトラブルで一番多いのが巻き爪です。爪の端が内側に巻き込んだり、直角に折れ曲がったりします。陥入爪は、爪が皮膚に食い込んで炎症を起こしている状態です。どちらも足の第1指に起こることが多い病変です。
【巻き爪】外反母趾や靴の圧迫で起こる
巻き爪は、主に外反母趾や、合わない靴の圧迫によって起こります。外反母趾などの足の変形があると、爪は横や下からの圧力を受けやすくなり、爪に覆い被さるように軟部組織が厚くなります。それに押されて、爪が内側に巻いていくのです。
また、窮屈な靴を履いていると、爪が両端から押されるので、皮膚を挟み込むように内側に巻いてしまいます。

爪の切り方も、原因になることがあります。
本来、爪が皮膚をきちんと覆っていれば、地面からの力にきちんと対応できます。しかし、深爪をして爪の面積が小さくなると、地面からの力に負けて、爪が皮膚の中に埋もれてしまいます。皮膚に埋まった爪は、外からの力に押されて中のほうに伸び、その結果、爪が内側に巻き込んでしまうのです。
また、爪の角を斜めに切る「バイアスカット」も巻き爪を誘発します。布を繊維に対して斜めに切ると、くるくる丸まります。爪も布と同じように繊維構造をしているので、爪を斜めに切ると、巻きやすくなるのです。

巻き爪は普段は痛みがなくても、運動したり、長時間歩いて靴が当たったりすると痛むことがあります。
【陥入爪】 爪の切り方が一番の原因
陥入爪は、組織が傷ついて炎症を起こしているので痛みがあり、赤く腫れたり、肉芽(傷口が治る過程でできる小さく軟らかい顆粒状の組織)が盛り上がったりすることもあります。

陥入爪の一番大きな原因は、深爪です。爪を短く切りすぎると、爪の押さえがきかなくなり、皮膚の軟部組織が上に隆起してきます。すると、伸びてきた爪が軟部組織にぶつかって傷をつくり、陥入爪になってしまうのです。
巻き爪や陥入爪について、私は手術をすすめません。手術は根治療法とはいえず、予後が悪いケースもよく目にします。まず保存的治療をして、それでもダメなら手術を選択するというスタンスです。
巻き爪・陥入爪のフットケア
テーピング法
爪に皮膚の軟部組織が覆い被さってくるのを防ぐために、テーピングで爪と軟部組織の間にすきまをあける方法です。どちらも、爪の際がはがれてきたら、テーピングの替えどきです。
痛みの悪循環を絶つので、軽い巻き爪や陥入爪なら、このテーピング法だけで治ることもあります。使用するテープは、薬局やスポーツ用品店で購入できます。
伸縮性のあるもののほうが使いやすいようです

コットンパッキング法
痛みを緩和する応急措置です。爪が遊離端(爪の白い部分)から2ミリほど伸びていればできます.脱脂綿や不織布を米粒くらいの大きさに丸め、痛みのある爪と皮膚の間に挟みます。小さすぎると効果がなく、大きすぎると痛いので、何度か試して大きさを調整してください。

巻き爪・陥入爪の矯正治療(保存的治療)
医療機関で行う治療法としては、手術をせずに、爪の形を矯正するものもあります。主なものを4つご紹介します。基本的に私は手術ではなく、こうした保存的治療を優先して行っています。
超弾性ワイヤー法
爪の先端に2ヵ所穴を開け、太さ0・4〜0・5ミリの特殊な弾性ワイヤーを通します。ワイヤーがまっすぐに戻ろうとする力を利用して、巻き爪を矯正します。ワイヤーは1〜2ヵ月に1度、入れ替えます。この治療は、爪が短すぎるとできません。爪が伸びるまでアクリル樹脂人工爪療法(後述)で治療することもあります。
超弾性クリップ法
爪の先に形状記憶合金製のクリップを差し込み、上に戻る力を利用して巻き爪の形を矯正します。クリップは患者さんが自分で装着できます。爪が薄く、超弾性ワイヤー法をすると爪が割れたり、過度に矯正されたりしてしまう人に適しています。この治療も、爪が遊離端から2ミリほど伸びないとできません。

アクリル樹脂人工爪療法
爪の上にアクリル樹脂製の人工爪をつけ、爪が短いために生じる皮膚の盛り上がりを抑えたり、爪の食い込みを緩和したりします。
ガター法
爪が深く食い込むと、爪と皮膚との溝に炎症が生じます。その溝(ガター)に、細くて柔らかい医療用のチューブを差し込んで爪と炎症の間にすきまをつくり、爪の食い込みを防ぎます。また、とがった爪を保護することで、痛みと炎症を緩和できます。
ワイヤー法やクリップ法は、歯の矯正治療と同じように時間がかかりますが、治療を始めると、まもなく痛みがなくなり、爪が巻かずに生えてきます。早い人で1年、遅い人でも2年ほどでよくなります。
こうした爪の矯正治療を行う医療機関は、まだそれほど多くはありません。受診前に電話で確認するとよいでしょう。
肥厚爪とは?
肥厚爪は、その名のとおり爪が厚くなる病変で、2つのタイプがあります。
1つは、爪が上に重なって厚くなっていく「厚硬爪甲」。主に足の第1指の爪に現れます。
もう1つは「爪甲下角質増殖」といって、爪の下の角質が増殖して厚くなるものです。こちらは、第1指以外にも起こります。
厚硬爪甲
爪全体が上に重なり、厚く、硬くなった状態です。爪の色が混濁し、灰色から茶褐色、黒、緑色に変色していきます。放置すると、爪が鉤型に弯曲する爪甲鉤弯症(そうこうこうわんしょう)という爪病変になることがあります。爪甲鉤弯症になると、カタツムリの殻のように爪がふくらみ、爪が前ではなく、後方を向いてしまうこともあります。

爪甲下角質増殖
爪の下の角質が増殖し、爪床から押し上げられるとともに、押し上げられた爪が厚くなります。爪と爪床との間にボロボロした角質がたまってきます。
爪甲下角質増殖は、爪白癬(爪水虫)から起こることが多い病変です。窮屈な靴など、外部から強い圧力が加わったときにもなります。後者の場合、靴からの物理的な圧迫や体重の増加などで、指先に圧力がかかると、爪周りの軟部組織が盛り上がり、爪が圧迫されます。すると、足指の爪が全体的に小さく厚く変形し、爪の下に角質がたまってきます。
また、足の第2指と第3指がハンマートゥ(「く」の字に曲がって固まった病変)だと、爪にこの症状が起こります。指が変形することで地面に強く接し、下からの圧迫が強くなるためだと考えられます。

さらにギリシャ型の足といって、第1指より第2指が長い人は、外からの圧迫を受けやすく、爪甲下角質増殖を起こしやすくなります。

肥厚爪の予防と対策
予防としては、深爪をしない、自分の足に合った靴を履く、水虫にならないように気をつける、といったことが大事です。
有効な治療法が確立されていないのが現状で、保存的治療を目的としたフットケアが中心になります。爪が曲がって肥厚している場合は、爪の繊維の向きをまっすぐに整えたり、本来の方向に伸びるような溝づけを行ったりします。また、爪が末節骨を超えて伸びていけるように、アクリル爪をつけることもあります。
肥厚爪、特に爪甲下角質増殖は爪白癬が原因となることが多いので、爪白癬がないかどうかを調べ、白癬菌が見つかったらその治療を行います。
爪の切り方・削り方
厚く硬くなっている爪は、普通に切るとパチンと割れてしまいます。それを防ぐために、斜めに切り込みを入れたあと、少しずつ爪を切ります。自分で爪が切れないときは、家族に切ってもらってください。その場合は、ニッパー型で刃のまっすぐなタイプの爪切りが使いやすいでしょう。デコボコしているところや、厚くなっているところは、一方向に削ります。削りすぎないように、少しずつヤスリを当ててください。

爪白癬とは
爪白癬は、爪の水虫です。水虫は白癬菌という真菌(カビ)による感染で、皮膚の水虫がひどくなると爪にも感染し、爪白癬になります。爪白癬のある人は、ほとんどが足水虫を合併していると考えていいでしょう。
爪白癬は、かゆみはありません。最初は爪の表面が黄色や褐色に変色し、縦じわやデコボコが目立つようになります。やがて爪が白濁し、厚くなって、内部が空洞になることもあります。放置すると爪の下の角質がどんどん厚くなり、爪がもろくなって砕けやすくなります。また、変形して、巻き爪や陥入爪のようになることもあります。
糖尿病の人は特に注意が必要です。爪が分厚くなると、靴を履いているときに圧迫されて足の第1指が壊死することがあります。さらに、それが糖尿病性壊疽の原因になり、指や足の切断につながることがあります。

爪白癬の予防と対策
温泉やスポーツジム、公共施設など、人が大勢集まるところで裸足になったら、靴を履く前に足を拭いてください。そして、家に帰ってからきれいに洗います。また、人にうつさないように、切った爪は飛び散らないようにして、紙に包んで捨てます。爪切りもきれいに洗います。
爪白癬になったら、医療機関を受診してください。治療は薬物治療が中心です。爪は外用薬が浸透しにくいため、並行して内服薬も飲みます。爪白癬は内服薬でしっかり完治しないと、再発をくり返します。自己判断せず、医師から「完治しました」といわれるまで、内服薬は続けてください。半年から1年くらいかかります。
日常的に起こる爪のトラブル
病気とはいえないまでも、日常的によく見かける爪のトラブルがあります。代表的なものを簡単に紹介します。
二枚爪
爪は皮膚の一種ですが、皮膚の一番表面にある角質層に当たる部分がはがれた状態です。その一番大きな原因は、乾燥です。かかとが乾燥してガサガサするのと同じ現象です。手の爪によく起こりますが、足の爪にも起こることがあります。心配することはありませんが、爪にクリームなどを塗って保湿するといいでしょう。

縦線
爪にできる縦のすじ(線)のことで、年を取るほど線が濃くなります。顔のしわと同様に、老化によって起こる生理的な変化の1つと見ていいでしょう。放置してかまいませんが、気になるようなら保湿クリームでケアしてください。

緑色爪
緑膿菌という、どこにでもいる弱毒の菌によって起こる日和見感染の1つです。炎症を起こした痕など、爪甲が爪床から少しはがれてできたすきまから入り込み、感染します。感染した部分が緑色になることから、緑色爪といいます。清潔を保っていれば自然に治ることが多いのですが、ひどい場合は治療が必要です。

爪カンジダ症
カンジダという、真菌の一種による日和見感染です。爪カンジダ症は、爪の周りに炎症を起こす爪囲炎から始まります。爪の周囲に痛みや赤みが出て、爪が白濁したり変形したりすることもあります。これも爪白癬と間違いやすいので注意が必要です。爪カンジダ症は長い時間、足がぬれたりすると起こりやすくなります。薬による治療が必要です。

[別記事:医師が教える足のセルフケア→]
なお、本稿は『巻き爪、陥入爪、外反母趾の特効セルフケア』(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。詳細は下記のリンクよりご覧ください。
