低気圧が近づいてきたり、寒暖差が激しかったりすると不定愁訴に悩まされる…これらの症状の根本にあるのは自律神経の乱れです。ストレスも関与していますが、ポイントは「骨格のゆがみ」、特に「頭と首の境目のゆがみ」です。【解説】久手堅司(せたがや内科・神経内科クリニック院長)

解説者のプロフィール

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久手堅 司(くでけん・つかさ)

せたがや内科・神経内科クリニック院長。脳神経内科専門医、総合内科専門医、頭痛専門医、脳卒中専門医。医学博士。2013年8月、東京・二子玉川に「せたがや内科・神経内科クリニック」を開院。天候と不調の関係に注目した「寒暖差疲労外来」「気象病・天気病外来」の他「自律神経失調症外来」「頭痛外来」など特殊外来を立ち上げている。著書に『最高のパフォーマンスを引き出す自律神経の整え方』(クロスメディアパブリッシング)がある。
▼せたがや内科・神経内科クリニック(公式サイト)

原因不明の頭痛やめまい、動悸に著効

私が専門とする脳神経内科は、脳や脊髄、神経、筋肉の病気を診ます。

そのため、他科で原因が分からないとされた頭痛やめまい、全身の倦怠感、長引く微熱、胃腸障害、動悸、胸部圧迫感、発汗異常、吐き気、関節痛、血圧が不安定になるなどの症状に悩む患者さんたちが、多数訪れます。

特に、低気圧が近づいてきたり、寒暖差が激しいところにいたりしたときに、こうした不定愁訴に悩まされる方が多くいらっしゃいます。

こうした症状は、本人にとっては非常につらいのに、検査には現れにくく、医師も含めて周囲に理解してもらえないことが、つらさに追い打ちをかけています。

そういう方にぜひやっていただきたいのが、「耳ひっぱり」です。ホルモン療法などでは治らなかった不定愁訴が、改善した人がたくさんいます。

なぜ、耳ひっぱりが多くの不定愁訴に効果的なのかをご説明しましょう。

これらの症状の根本にあるのは、自律神経の乱れです。

自律神経は、意思に関係なく内臓や血管などの働きを調整する神経です。交感神経と副交感神経の二つがシーソーのように働き、あらゆる生命活動に影響しています。

交感神経は緊張しているときや運動したときに優位に働く神経で、血圧を上げ、脈や呼吸を速めて体を活動に対応させます。一方の副交感神経は、リラックスしているときや睡眠中に優位に働く神経です。血圧を下げ、脈や呼吸を遅くし、消化吸収を活発にします。

この自律神経のシーソーが適切にバランスを取って機能していないと、全身にさまざまな不調が起こってしまうのです。

自律神経の失調には、ストレスが大きく関与していると一般的には考えられています。けれども、私が診療を重ねる中で、実はもっと根本的なポイントがあるという考えに至りました。

そのポイントが「骨格のゆがみ」、特に「頭と首の境目のゆがみ」です。

物理的な圧迫が自律神経を狂わせている

鏡の前に立って正面から見たときに、あなたの体の「縦の軸」(背骨のライン)は床に対して垂直で「横の軸」(左右の耳を結んだ線)は床に水平になっているでしょうか。

私が1万人以上の患者さんを診る中で、自律神経失調症で受診される方々のほとんどは姿勢が悪く、首や肩がこっており、骨格にゆがみがあることに気付きました。

特に、パソコンやスマートフォン(スマホ)などの長時間の使用で、画面を見ようと頭が前に落ち、うつむいた姿勢を取り続けている人が非常に多いのです。

首は、脳が入った重たい頭を支えながら、上下や左右に振ったり、回したりと多様な動きができるように特殊な関節(環軸関節)を持っています。その可動性と引き換えに、環軸関節は、負担が大きく、ゆがみが生じやすい関節だと言えます。

自律神経は、脳の視床下部から始まり、脊髄から分岐して、全身の器官につながっています。脊髄は、脊椎という固い骨のトンネル(背骨)内を通っているおかげで、損傷から守られています。

その一方で、背骨、特に頸椎(首の部分の背骨)がゆがむと中を通る脊髄が圧迫され、自律神経も正常に働きづらくなってしまうのです。

さらに、常にあごを突き出し、ネコ背になっていると、物理的に肺がつぶされていますから、呼吸は浅くしかできません。

これでは体に十分な酸素が行き渡らず、大きなストレス要因となります。さらには、浅く短い呼吸では、交感神経が過度に刺激され、自律神経のバランスをくずします。

また、耳の奥には内耳と呼ばれる器官があり、平衡感覚や気圧の変化を感知しています。頸椎のゆがみは、この内耳のセンサーを過敏にして、平衡感覚と視覚にズレを生じさせ、めまいを起こす原因にもなります。

画像: 首のゆがみが自律神経失調の引き金

首のゆがみが自律神経失調の引き金

耳ひっぱりは、縦の軸を整える「タオルひっぱり」と横の軸を整える「耳ひっぱり」をセットで行うのがお勧めです(やり方は下記参照)。

骨格のゆがみによって自律神経失調を起こしている人は、耳ひっぱりを行うと非常に気持ちよく感じられると思います。

耳ひっぱりは、頸椎や顎関節、頭皮など、顔周りの関節・筋肉をまんべんなくゆるめていきます。筋肉の緊張がほぐれ、血行がよくなるので、頭痛や首・肩のこり、めまいへの即効性も期待できます。

めまいや頭痛に悩み、当院を訪れたAさん(20代女性)も姿勢が悪く、骨格のゆがみがあり、首や肩がこっていました。特に天気が悪くなるときに、症状が悪化するとのことでした。彼女も、デスクワークが続く以外にも、1日3〜4時間もスマホを使用していたそうです。

そこで、漢方薬の服薬とともに、耳ひっぱりをこまめに行うよう指導したところ、2週間後には、めまいと頭痛がほぼ解消したと非常に喜ばれました。ぜひ試してみてください。

耳ひっぱりのやり方

縦軸を整える
「タオルひっぱり」

画像1: 耳ひっぱりのやり方

フェイスタオルを縦に半分に折るのを3~4回くり返し、5cm程度の幅にする。

画像2: 耳ひっぱりのやり方

両耳の下を通すようにタオルを当てて端を持つ。

画像3: 耳ひっぱりのやり方

タオルを30度程度の角度に持ち上げて、手で前に引く力と拮抗するように頭を後ろに引き、30秒キープする。

画像4: 耳ひっぱりのやり方

タオルを30度程度の角度に下げて、手で前に引く力と拮抗するように頭を後ろに引き、30秒キープする。


横軸を整える
「耳ひっぱり」

画像5: 耳ひっぱりのやり方

耳たぶの少し上を持ち、横に広げるようにひっぱり、10秒キープして離すのを5回くり返す。

画像6: 耳ひっぱりのやり方

前回しを5回、後ろ回しを5回行う。

画像7: 耳ひっぱりのやり方

右耳を上に、左耳を下に斜めにひっぱる。

画像8: 耳ひっぱりのやり方

左耳を上に、右耳を下に斜めにひっぱる。③④を交互に5回くり返す。

画像: この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。

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