東洋医学では、腎の衰えは水分代謝を狂わせるので、頻尿や尿もれ、残尿感などの悩みに直結します。また、むくみはもちろんのこと、ひざや腰の痛み、緑内障、耳鳴りやめまいなどの原因にもなります。【解説】船水隆広(呉竹学園臨床教育研究センターマネージャー)

解説者のプロフィール

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船水隆広(ふなみず・たかひろ)

学校法人呉竹学園臨床教育研究センターマネージャー。はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師として20年の臨床経験を持ち、欧米やアジア各国など国内外で鍼灸の指導に当たる。特にストレスケア、こころの病気に対する経絡治療や刺さないはり治療(さざなみ鍉鍼)を得意とする。心身健康科学修士、経絡治療学会評議員、日本伝統鍼灸学会理事、日本更年期と加齢のヘルスケア学会幹事、多文化間精神医学会会員。著書に『深い疲れをとる自律神経トリートメント』(主婦の友社)がある。

耳の柔軟性が老化のバロメーター

あなたの耳は柔軟ですか?耳を根元から前に倒したり、上下に半分に折ったりしたときに、硬くて折れそうな感じがしたり、強い痛みを感じたりした人は、要注意です。

東洋医学では、耳は「」と深いつながりがある部位とされています。東洋医学では相似したものに深い関連を見ますが、耳の形は腎臓の形にそっくりですし、耳も腎臓も左右に二つあるところも共通しています。

腎は、腎臓だけでなく生殖器、泌尿器を含めた概念で、体の水分代謝の要です。

そして、もう一つ、東洋医学においては生命エネルギーをためる場所であり、体の中で最も大事な場所として捉えられています。

私たちは生まれたときから、少しずつエネルギーを腎に貯蓄していき、そのエネルギーが満杯になるのが12~13歳の頃。ちなみに、女子の場合、このエネルギーが満ちたときに、生理が始まるようになっています。

腎がエネルギーで満杯になった状態をずっと維持していくことができれば、私たちはずっと健康で生きていけます。

それが加齢とともに少しずつ腎が弱って、生命エネルギーが少なく(腎虚)なっていきます。そしてついに腎のエネルギーが空っぽになったときに、人は亡くなるとされているのです。

腎は例えるなら、水の代わりにエネルギーをためた水風船のようなもの。腎にエネルギーが満ちているときには、ハリと潤いと柔軟性があります。腎の充実は耳にも外見にも現れ、細胞に潤いとハリがあり、姿勢もピンと伸びます。

一方、腎のエネルギーが減って弱まると、腎と耳はカサカサと水分が抜けてしぼみ、劣化したゴム風船のように硬くなります。体を内側から支える柱が縮んで、腰も曲がってきます。

つまり、腎のエネルギー不足こそが、老化現象といえます。

例えば、腎の衰えは、水分代謝を狂わせるので、頻尿や尿もれ、残尿感などシモの悩みに直結します。

また、余分な水分が体にたまりやすくなることから、むくみはもちろんのこと、ひざや腰の痛み、緑内障(視神経に障害が起こる目の病気)、耳鳴りやめまいなどの原因にもなります。

生殖器や性ホルモンもつかさどっており、女性では更年期障害でのぼせやイライラ、男性なら精力減退などを起こします。

また、腎が弱ると、髪のツヤがなくなってパサパサになり、抜け毛もひどくなります。脳ともつながっているので、認知症も進みやすくなると考えられます。

耳をひっぱる位置で効果が追加できる

腎を元気づけ、エネルギーを送り込む方法としてお勧めなのが、「耳ひっぱり」です。

下でご紹介しているやり方は、耳を満遍なく刺激できるように構成していますが、特に気になる症状がある人は、以下のポイントを意識してみてください。

画像: 耳の反射区は胎児の体の形に対応している

耳の反射区は胎児の体の形に対応している

耳の反射区(全身の臓器や部位と対応する場所)は、子宮内の胎児の体に対応していると考えられています。耳たぶが頭、耳輪が背骨に当たります。

目や耳、鼻など頭部の症状が気になるときには耳たぶを、腰痛などには耳の外周の中ほどと、後頭部とつながる付け根辺りを、念入りにひっぱるとさらに効果的です。

また、耳の外側への刺激は、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)のうち、全身の活動力を高める「交感神経」の働きを高めます。

それに対して、耳の内側(耳穴に近いへこんだ部分)への刺激は、心身をリラックスさせる「副交感神経」を優位にさせる働きがあります。

心身にシャキッと喝を入れたいときには耳の外側、不眠やダイエットに効果を上げたいときには耳の内側に指を当て、ひっぱるとよいでしょう。

心の不調には、耳神門(位置は下記参照)のツボへの刺激が有効です。手首の小指側に神門という精神症状に非常に効果のあるツボがあります。この神門と同様の作用がある耳のツボということで、耳神門と呼ばれています。

この耳神門に指を当てながら耳全体をひっぱるようにすると、相乗効果が得られます。うつやパニック障害の改善にも著効があり、気持ちの落ち込みにもイライラにも効いて、心を安定させてくれます。

耳ひっぱりをすると、初めは痛みを感じることがあるかもしれません。続けるうちに、腎にエネルギーが補充されて柔軟性が出てくるので、痛みもなくなります。

また、左右の耳で痛み方が違う場合は、痛い方をゆっくりと丹念にひっぱったりマッサージしたりしましょう。

いつまでも心身の健康と若さを保つために、耳ひっぱりを活用してください。

耳ひっぱりのやり方

画像1: 耳ひっぱりのやり方

耳たぶをつまみ、下に5~10回ひっぱる。

画像2: 耳ひっぱりのやり方

耳たぶから耳輪(耳の一番外側)に沿って少しずつ指の位置を上にずらしながら、放射上にひっぱる。3~5回行う。

画像3: 耳ひっぱりのやり方

耳神門のツボに人さし指を当ててつまみ、人さし指と親指で挟むように指圧しながら、上に5~10回ひっぱる。

画像4: 耳ひっぱりのやり方

指を当てる位置:耳神門のツボ
耳の上側前方で、軟骨がYの字になってできたくぼみの端

画像5: 耳ひっぱりのやり方

耳の穴の手前のくぼみ(耳甲介腔)に人さし指を入れてつまみ、耳の穴を開くように後ろに5~10回ひっぱる。

画像6: 耳ひっぱりのやり方

指を当てる位置
※耳の穴の中には入れないこと

画像7: 耳ひっぱりのやり方

耳の後ろに指を当て、根元から前に倒す。5~10回行う。

画像8: 耳ひっぱりのやり方

耳の上側と耳たぶを合わせるように、上下に半分にたたむ。5~10回行う。

画像: この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。

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