解説者のプロフィール

渡辺完爾(わたなべ・かんじ)
渡辺医院院長。1979年、獨協医科大学医学部卒業。医学博士。幼少期より父の指導により、西式健康法を実践。2011年から渡辺医院院長として、西式健康法を基礎に断食療法、生食療法、運動療法など自然療法にて、さまざまな疾患の治療に当たっている。
▼渡辺医院(公式サイト)
20年以上前から毛細血管に着目
最近、毛細血管が注目されていますが、私は20年以上前から、毛細血管の働きを重視してきました。
全身の臓器が健康に働くためには、太い血管の血流よりも、末梢の毛細血管の血流が大事です。特に腎臓のように毛細血管が密集している臓器は、毛細血流の影響を一番に受けます。
心臓から送り出された血液は、太い動脈から枝分かれして毛細血管に入り、そこで細胞に栄養や酸素を渡し、老廃物や二酸化炭素を回収して細い静脈に入ります。
この末端で行われる物質のやり取りこそ、血液循環の最大の仕事で、それを担っているのが、毛細血管です。
その流れが滞れば、当然、細胞の活動は低下し、臓器の働きも落ちてしまいます。
私が治療に取り入れている西式健康法(故・西勝造氏が創始した自然治癒力を高める健康法)では、毛細血管こそ血液循環の原動力で、毛細血管が血液を引っ張って全身の血流をよくしていると考えています。
その毛細血流をよくする方法として私たちが提唱しているのが、「ゴキブリ体操(毛管運動)」です。
これは、あおむけに寝て手足を上に伸ばし、小刻みに手足を動かすというもの。この運動を行うと、たちまち毛細血管の流れがよくなり、全身の血液循環が改善するのです。
二足歩行の人間は血液が足にたまりがち
人間は二足歩行をするようになって重力の影響を受け、血液やリンパ液が下肢にたまりやすくなりました。
これを心臓に送り返すのが、ふくらはぎの筋肉です。歩いたり走ったりして足を動かすと、ふくらはぎの筋肉がポンプのように働いて、下肢の血流をよくし、心臓に戻りやすくします。
ところが、足をあまり動かさない生活などで、ふくらはぎの筋力が落ちた高齢者は、このポンプ機能が働かず、手足の末端の血流が滞ってしまいます。すると、老廃物が処理されなくなり、細胞にたまっていきます。
老廃物がたまれば、それを処理する腎臓の負担が大きくなり、だんだん腎機能が弱っていきます。
そこで私は、腎機能の衰えた慢性腎不全やネフローゼ症候群の患者さんに、ゴキブリ体操を指導しています。

枕を首の下に当てるとやりやすい
ゴキブリ体操は布団の上で行ってもOK
あおむけに寝て手足を上げると、手足の先にうっ滞している血液が下に流れやすくなります。流れたところは一時的に虚血(貧血)状態になりますが、それを埋めるように、次々に血液が流れてきます。
さらに手足をブルブル揺らすことで毛細血管が刺激され、血流が促進されます。
ゴキブリ体操をすると、こうして毛細血管に引っ張られるように、全身の血液循環がよくなるのです。
全身の血流がよくなれば、末梢での物質交代がスムーズに行われ、老廃物が速やかに処理されます。それによって腎臓の負担が減り、腎機能が回復してくるのです。
ゴキブリ体操のやり方
多くの方のクレアチニン値、尿たんぱくを改善したゴキブリ体操。人工透析を先延ばししたい方だけでなく、最近クレアチニン値が悪くなってきたと気になる方もぜひお試しください。首に枕を当てると、行いやすくなります。

❶あおむけに寝る

❷両手足を天井方向に上げる。手の指はピンと伸ばし、足の裏はできるだけ天井側に向ける

❸両手足を小刻みに1分ほどブラブラ揺らして手足を下ろす
①~③で1セット。朝晩で3セットずつ行う
ゴキブリ体操でむくみも解消
実際にゴキブリ体操をして、ネフローゼ症候群が改善した患者さんの例を紹介しましょう。
Aさん(50代女性)は当院に来られた時、ひざから下がパンパンにむくんでいました。尿にたんぱくが出ている人に多い症状です。血液検査をすると、クレアチニン値は0.69とほぼ正常だったものの(正常値は男性1.2mg/dl以下、女性1.0mg/dl以下)、尿たんぱくは209mg/dl(基準値120mg/dl以下)と腎機能が悪化していました。
Aさんは4日間入院し、その間、ゴキブリ体操、温冷浴、大気浴など、毛細血流をよくする健康法を行いました。その結果、尿たんぱくは41mg/dlまで下がり、尿量も増えて浮腫も改善しました。
Aさんには退院後もしっかりゴキブリ体操をしてもらい、月に一度、血液検査を行っています。10ヵ月たった現在、尿たんぱくは25mg/dlまで下がり、むくみも解消しています。
西洋医学では、心臓が全身の血液を巡らしていると考えていますが、心臓だけでは限界があります。むしろ私たちは、毛細血管こそ、全身の循環をよくする要だと考えています。
私は最近、ゴキブリ体操をすると、血管を広げて血の巡りをよくするNO(一酸化窒素)という血管拡張物質や、心臓をリラックスさせて心疾患を防ぐといわれるアセチルコリン(神経伝達物質)が分泌されるかもしれないと考えています。
なぜなら、NOやアセチルコリンは、速い血流と遅い血流の速さの差で産生されるからです。皆さんも、腎臓病だけでなく、血管のためにもゴキブリ体操を行いましょう。

この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。
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