解説者のプロフィール

杉山平熙(すぎやま・たいき)
すぎやま按腹鍼灸院院長。鍼灸師。日本の伝統医療である「按腹」と「打鍼法」の思想と技術を融合させた「へそ按腹法」を考案。全国から難病の患者さんがひっきりなしに訪れている。「自分で病気を癒やすこと」が大切とし、セルフケアのやり方も指導している。韓国やイタリア、ハワイ、ベナンなどからの研修生への指導や、アフリカなど医療の行き届いていない地域に広める活動にも取り組む。著書『お腹のしこりが万病の原因だった!』(コスモ21)が好評発売中。
腎臓が弱ると老化が進む
「先天の気の宿る場所」。東洋医学で、腎臓(腎)はそういう臓器と位置づけられています。
「先天の気」とは、この世に誕生するとき、お母さんの胎内で与えられ、蓄えて生まれ出てきた生命エネルギー(気)という意味です。
腎の気は、骨、耳、髪など、老化と深く関わる部分をつかさどっていて、腎が弱ると、老化そのものが進みます。腎に元気がないと、足腰が弱り、耳鳴りなども起こり、耳が聞こえにくくなりますし、白髪や脱毛に悩まされることもあるのです。
これらは、自然の老化ではありますが、腎の気が弱った人はより進みやすくなります。逆に、腎の気が豊富な人は、老化が進みにくく、若々しい体を保ちやすくなるのです。
腎は、そのように老化全体を左右する重要な臓器となっています。
一方、西洋医学でも、腎臓の重要性が注目されています。糖尿病や高血圧など、さまざまな慢性的な病や不調に対して薬を投与する際、腎機能も一緒に検査します。
なぜなら、腎機能が低下していると、薬の投与をやめたり、休んだりする必要があるからです。腎臓は薬の代謝を引き受けているため、長く多くの薬を摂取するほど傷みやすくもあります。
腎臓が回復不能なほど傷んでしまうと、病気を治療できても寿命が縮まってしまうので、西洋医学でも腎機能を重視しているわけです。
つまり、「腎臓によって生命が決まる」といってもいいほど、西洋医学でも、腎臓は重要な臓器といえます。
さて、腎は「先天の気」が宿る場所と言いましたが、生まれ持ったエネルギーが減り続けるばかりではなく、その気を補う方法があります。
その方法が、「おなかつまみ」です。正式には「へそ按腹」といい、私が開発した治療・健康法です。
基本的におなかは、刺激することで気血の巡りがよくなる上、内臓とダイレクトにつながっています。その意味で、おなかには内臓の反応が出やすく、逆におなかを刺激することで、内臓の働きを高めることができるのです。
その際の刺激は、軽くつまむのが最も効果的です。そのため、一般名称として「おなかつまみ」と呼んでいるわけです。
おなかには、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)の中でも、リラックス状態を作り出す副交感神経の働きを高める働きがあります。
現代人の病気には、ストレスによる体の過緊張が続いて起きているものが多いのですが、そうした病気にも、おなかつまみが効果的です。
もちろん腎臓の不調や腎臓病の改善にも、おなかつまみは絶大な効果を発揮します。
おなかつまみには、治療地図があります(下図参照)。これを見ると、腎は下腹部の左右(ヘソの左右斜め下)に当たることが分かります。

ヘソの横ジワは腎臓が衰えているサイン!
そのため、腎の悪い人は、下腹だけぽっこり出ていることがよくあります。また、腎が悪くてむくんでいる人、肥満の人は、ヘソのラインの横ジワが目立ちます。
ちなみに、腎臓が衰えると、「疲れやすく、むくみやすくなる」「肌がガサついて黒くなる」「尿に泡が目立つ」といった症状が出てきます。
出産経験のある女性だと、妊娠線がいつまでも消えずに、かえって広がりやすいのも特徴です。こうした症状があれば、検査値にはまだ異常がなくても、腎機能の低下が疑われます。
腎のおなかつまみをする際には、治療地図の「肝」と「心」のところも一緒に刺激することをお勧めします。
腎は肝・心と深い関わりを持って働いているからです。腎臓が衰えると、やがて肝臓や心臓も弱ってきます。それを防ぎながら腎臓を元気にするために、これらの臓器を同時に強くしていくことが大切です。
肝と腎のおなかつまみの際には、近いのでついでに「膀胱」も刺激しましょう。ここは、腎臓の下にある臓器なので、おなかつまみを行うことで、効果がより増します。
臓器と対応する範囲を全て満遍なく行う必要はなく、下記で紹介しているやり方で、十分に効果があります。
ポイントは「軽く行う」ということです。強過ぎると逆効果になります。軽く行うほど、気の流れや補給が促されて効果が上がるので、ぜひ私が紹介する方法を試してください。
おなかつまみのやり方
【注意点】
⃝おなかつまみは、1日3回、朝昼晩に行う。ただし、食後1時間と飲酒後は避ける。
⃝肌に直接触れて行っても、服の上からでも効果に変わりはない。
⃝がんの場合は、行わない。
⃝妊娠中の人は、肋骨の下さすり①、②のみ行う。
⃝脳梗塞のある人は、症状のない側だけを行う。
肋骨の下さすり

❶両手の甲を合わせ、みぞおちに当てる。

❷一番下にある肋骨の内側に沿って、わき腹へと息を吐きながらさすり下ろす。
※①~②をくり返し1分行う。
おなかつまみ
下図のつまむ範囲を満遍なくつまむ。
痛いところがあったら、皮膚表面が赤くなるまで念入りに行う。
【つまむ範囲】

【おなかのつまみ方】




この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。
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