腎臓は糸球体という組織が100万個も集まってろ過機能を果たしています。運動すると糸球体内の血管が広がり、圧が下がって腎臓への負担が減ります。このことが、腎機能の改善につながっていると考えられます。【解説】上月正博(東北大学大学院医学研究科教授・東北大学病院リハビリテーション部長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

上月正博(こうづき・まさひろ)
1981年、東北大学医学部卒業。東北大学大学院医学系研究科機能医科講座内部障害分野教授。東北大学病院リハビリテーション部長。日本腎臓リハビリテーション学会理事長。運動療法を取り入れるなどした「腎臓リハビリテーション」を確立させ、腎疾患を抱える患者を治療。

腎臓病になっても運動は推奨!

腎臓病になったら「安静第一」。かつてはそれが常識でした。腎臓病の患者さんが運動すると、たんぱく尿が出ます。

これは腎臓病の悪化を意味するとともに、たんぱく尿自体が腎臓の負担になるので、運動は厳禁と考えられていたのです。

ところがここ約20年で、その常識がくつがえされました。腎臓病になったら、適度な運動を行うほうが、悪化を食い止め、病状も改善することが分かったのです。

そのきっかけになったのは、国際高血圧学会で、私たち東北大学のグループが行った研究発表でした。そもそも私たちも、思いがけないことから、この研究を始めました。

当時、私たちは、末期腎不全のラットを使って、腎機能の改善に役立つ降圧剤の研究をしていました。そのときはまだ、運動が腎機能を低下させると信じていたので、薬を投与する群と別に、運動させる対照群を作って比較していたのです。

ところが、妙な結果が出ました。薬の投与群と、運動させた対照群の、どちらもたんぱく尿は増えず、同じような効果が出たのです。

つまり、運動に、薬と同等の効果があったことになります。試しに、運動させた上で薬を使う実験を行うと、さらによい結果が得られました。

私は、「運動は、腎機能の改善に役立つのではないか」と考え始めました。


そこで患者さんに、無理のない程度の運動を指導してみたら、悪化防止だけでなく、改善することが判明したのです。

この研究結果を、国際学会で発表したところ、世界中で腎臓病と運動に関する研究が進められるようになりました。研究が進むことで、腎臓病と心臓病を合併した患者さんの死亡率が下がることも分かりました。

もともと、腎臓病と心臓病は合併しやすく、そうなると腎機能が急激に低下します。しかし、そういう患者さんでも、適度な運動で、腎機能と心臓の状態が改善するのです。

運動を取り入れることで、腎機能の程度を示すeGFRが改善することも分かりました。

1日に約4000歩以上歩く腎臓病の患者さんは、それ以下の患者さんに比べ、腎機能が悪化しにくく、改善しやすかったのです。平均で、eGFRが3ヵ月で後者では2.3低下したのに対し、前者では6.7上昇したのです。

下図をご覧ください。これは慢性腎臓病の人たちを、運動した群、通常の治療のみで運動をしていない群に分けた実験結果です。

画像: 腎臓病になっても運動は推奨!

運動した群のほうは、eGFRが上昇したのに対して、していないほうはeGFRが低下しています。

運動するとたんぱく尿が出るのは確かです。しかしそれは、一時的で、長期だとかえって腎機能を改善しています。運動が腎機能を改善し、透析の先延ばしに貢献するということです。

私たちの研究で、透析を導入した後も適度な運動によって、悪化防止や体調の改善に役立つことも分かりました。海外の研究では、透析患者の死亡率が下がったという論文も発表されています。

これらの研究を受け、日本では、2016年にまだ糖尿病腎症に限ってですが、世界で初めてリハビリ運動が健康保険の対象になりました

東北大学式腎臓リハビリは腎臓の負担を減らす

かつては腎臓病には禁忌とされていた運動が、腎機能の改善に役立つのは、どんなメカニズムによるのでしょうか。

腎臓には、毛細血管が毛糸玉のようになった糸球体という組織が、100万個も集まって、ろ過機能を果たしています。

高血圧などで、この糸球体への圧力が高まると、腎機能が低下しやすくなります。腎機能が低下すると、糸球体への圧が高まるという悪循環に陥ります。

ところが、運動すると糸球体内の血管が広がり、圧が下がって腎臓への負担が減ります。このことが、腎機能の改善につながっていると考えられます。

現在、私たちは、無理なくできて腎機能の改善に役立つ運動療法を考案し、「東北大学式・腎臓リハビリテーション(やり方は次項参照)」と名づけて普及に努めています。

世界初の腎臓リハビリテーションの学会も立ち上げ、世界中の腎臓リハビリをリードする役割を期待されています。

腎臓リハビリは、安全性の高い運動療法ですが、以下の場合は控えてください。
・高血圧で、最大血圧が180mm‌Hg以上
・糖尿病で、空腹時血糖値が250mg/dl以上
急性腎炎、心臓病などの病状が不安定なとき、慢性腎不全が急に悪化したときなども、運動は控えましょう。また、必ず医師に相談して行ってください

東北大学式 腎臓リハビリのやり方

腎臓リハビリ体操」「腎臓リハビリ運動」「腎臓リハビリ筋トレ」。これらの動きを全て行う必要はありません。その日の体調や空き時間をみて、自分に合ったものだけを行っても効果を期待できます。

1. 腎臓リハビリ体操

腎臓リハビリ体操は、腎臓リハビリ運動や腎臓リハビリ筋トレの準備体操、整理体操としてA~Dを5~10回ずつを1セット行う。

運動強度が低いので、運動が苦手な人は、これだけを単独で行ってもよい。腎臓リハビリ体操だけを単独で行う場合は1日3セット。

Ⓐ かかとの上げ下ろし
両足を肩幅よりやや狭くして立つ。その状態で、かかとの上げ下ろしを行う。

画像1: 1. 腎臓リハビリ体操

Ⓑ 足上げ
イスの後ろに立ち、片手で背もたれをつかむ。体を支えながら、一方の足を前→上→後ろの順番に動かす。反対の足と交互に行う。

画像2: 1. 腎臓リハビリ体操

Ⓒ ばんざい
足を肩幅に広げて立つ。手のひらを正面に向けながら、ばんざいをするように両腕を上げて下ろす。

画像3: 1. 腎臓リハビリ体操

Ⓓ 中腰スクワット
足を肩幅に開いて立つ。そのまま軽くひざを曲げて腰を落とし、元の姿勢に戻る。

画像4: 1. 腎臓リハビリ体操

2. 腎臓リハビリ運動

ここで紹介するウォーキングだけでなく、サイクリングや自転車こぎ(エルゴメーター)も腎臓リハビリ運動になる。1回20~60分間、週3~5回が目安。

効果の高いウォーキングのやり方

画像1: 2. 腎臓リハビリ運動

3. 腎臓リハビリ筋トレ

お尻上げ
5~10回を1セット。1日3セット。

あお向けに寝て両ひざをそろえて、直角に曲げる。

画像2: 2. 腎臓リハビリ運動

足の裏を床につけたまま、3~5秒かけてゆっくりと息を吐きながらお尻を上げる。その状態のまま、5~10秒静止。息を吸いながら3~5秒かけてお尻を下げて①に戻る。①~②をくり返す。

画像3: 2. 腎臓リハビリ運動

ひざ胸突き
5~10回を1セット。1日3セット。

床に座って両足を伸ばす。両腕を支えにしながら、体を70度くらいに後傾させる。

画像4: 2. 腎臓リハビリ運動

片方の足を30~40cm浮かせる。

画像5: 2. 腎臓リハビリ運動

息を吐きながら3~5秒かけて浮かせた足を胸に引きつけて1秒静止。息を吸いながら3~5秒かけて同じ足を前に伸ばして①に戻る。反対側の足でも同様に行う。
①~③を左右の足で交互にくり返す。

画像6: 2. 腎臓リハビリ運動
画像: この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。

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