解説者のプロフィール

椎貝達夫(しいがい・たつお)
椎貝クリニック院長。取手方式という血圧調整、食事および薬物療法によって透析を避ける保存療法の考案者としても知られる。
瞑想で透析を先延ばしできた人が続々!
私は長年にわたり慢性腎臓病の保存療法に取り組んできましたが、かつては一つの〝壁〟に直面していました。
それは「推算糸球体ろ過量(eGFR)が15未満になると、それ以上は進行を食い止めるのが難しい」という問題でした。
当院で2013年5月までにeGFR未満で保存療法に取り組んだ患者92名の経過をまとめたところ、最短1ヵ月、最長でも38ヵ月でeGFR6に達しました。ここまでになると、透析は避けられません。
しかし近年、この壁を突破する光明が見えてきました。それは「瞑想」です。
2013年5月に私が世界で初めて瞑想を腎臓病の治療に導入しました。その結果、eGFR15未満で瞑想を始めた患者さんの中に、以前の最長期間38ヵ月をはるかに超え、5年、6年と透析に入らずに、元気に過ごしている人が続出したのです。
瞑想を導入したのは、ある患者さんを診ていたところ、「何か精神的な支えがあって腎機能が安定している」と思われ、精神面のケアが腎臓によい影響を及ぼすと考えたからです。
下のグラフは、当院で瞑想を指導した患者さん5名のeGFRの推移です。

ステージ5の患者5人は瞑想開始から6年たってもeGFR6まで悪化していない!
慢性腎臓病の進行が抑えられ、これほど長期にわたって透析を免れているのは驚くべきことではないでしょうか。eGFR未満から4年以上透析を免れる治療法は従来ありませんでしたから。
現在までに当院で瞑想を指導し、実行している患者さんは480名ほどに及びます。瞑想の効果はeGFR12~15で始めた人が成績がよく、それより下がってから始めても、あまり成績がよくないようです。
現在では、eGFRが20に達したら、瞑想に取り組むようにお勧めしています。もちろん、もっと手前から始めていただいても構いません。
瞑想はあらゆる慢性腎臓病に有効
瞑想は、おそらくあらゆる慢性腎臓病に有効だと考えられます。
では、どうして瞑想に効果があるのか、どんな瞑想なら有効なのかを、現在、MRI(磁気共鳴断層撮影)で脳の状態を調べて、検証しています。
私は、中枢神経を介して脳と腎臓の間にクロストーク(情報のやりとり)があることがカギだろうと推測しています。
「GLP-1受容体作動薬」という糖尿病の薬があります。膵臓に「インスリン(血糖値を下げるホルモン)を出して」と信号を送るホルモンのような働きをする薬ですが、この薬で末期の腎不全が改善するという報告があります。
この改善作用は、糖代謝が改善するためとはとうてい考えられず、この薬が中枢神経を介して脳に作用することに関係していると思われます。
こうした中枢神経を介した作用があるならば、瞑想で腎機能に好影響が及ぶのも、あながち不思議な話ではありません。
瞑想は正しい方向で行うのがポイント
瞑想は、患者さんが実行するだけで、お金がかからないのがよい点です。慢性腎臓病の患者さん向けの正しい瞑想のやり方が普及すれば、医療費の削減にもつながると期待できます。
また、一般に「精神の安定」や「ストレス軽減」に瞑想が役立つと言われていますが、患者さんの多くは、もちろんこうした効果を実感しています。
ただし、注意しておきたいのは「ただ瞑想さえすれば、慢性腎臓病の進行が止まるわけではない」ということです。
別記事で述べたように、私のクリニックでは4つの柱で慢性腎臓病の保存療法に取り組んでいます。
その実践には、患者さんご自身の努力が欠かせません。保存療法をきちんと行った上で、さらに瞑想を行うことで、成果が上がっているわけです。

腎臓病保存療法の「4つの柱」
また、当院で指導している瞑想は、慢性腎臓病の進行を抑えるために私が試行錯誤しながら一定の形にしてきたものです。
概要を示すと、「1回20分、1日に2回」の瞑想を行ってもらいます。座禅のあぐらは人によっては苦しい姿勢なので、いすに座っての瞑想をお勧めしています。
特に大事なのは、呼吸法です。腹式呼吸ですが、これは世界中のいろいろな瞑想に共通しています。おそらく腹式呼吸が瞑想の中心をなすものだと私は思います。
また、香りによるリラックス効果も瞑想の助けになります。いろいろ試してみたところ、ビャクダンの香りがよいようで、患者さんにお勧めしています。
瞑想の基本的なやり方は、下に紹介します。慢性腎臓病と診断されている方や、血清クレアチニン値が気になる方は、ぜひ取り組んでみてください。
なお、瞑想ならどんな方法でも同様に効果があるとは言えません。自己流やどこかの瞑想教室に参加して瞑想を実践して、「効かなかった」という結果だけを私のところへ持ち込まれても困ります。
腎臓病がすでにある程度まで進行している場合は、できましたら当院での診察と指導を受けて、正しい方法で実践していただければと思います。
腎機能を保つ正しい「瞑想」のやり方
※ TVは消して、音楽もかけず、できるだけ静かなところで行うようにしましょう。
※ ①と②の呼吸を交互に20分間くり返す。1日に2回行う。
【スタート準備】
・まずキッチンタイマーやスマートフォンなどを目の前に置いて、アラームを20分にセット。
・背もたれによりかからないようにいすに腰掛け、手のひらを下にしてももの上に置く。
・目を閉じるか、薄く開いて、タイマーをスタート。
❶はじめに、口か鼻、どちらからくなほうから息を10~15秒くらいかけてゆっくり吐く。肺を空にするイメージで、おなかがぺこっと凹むようにして息を吐ききる(腹式呼吸)。

❷①で息をすべて吐き出したら、口か鼻、どちらかやりやすいほうからゆっくり10~15秒くらいかけて目一杯、息を吸い、おなかをふくらませる(腹式呼吸)。息を吸うときに、両わき腹に力を入れて、おへそを突き出すようにすると行いやすい。

【ポイント】
・開始から3分くらいは腹式呼吸に意識を集中しましょう。慣れてきたら、無理に腹式呼吸を意識せず、ゆったりとした呼吸にして、心の遊ぶままに任せます。
・雑念が湧くままにして構いません。1つのことにこだわらないようにするのがコツです。
・瞑想中は、ビャクダンに限ってお香やアロマオイルを用いても問題ありません。
…腹式呼吸が難しい!
あお向けになって深く呼吸をすると、腹式呼吸になります。もし難しければ、何度かくり返して感覚を身に付けましょう。

この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。
www.makino-g.jp