解説者のプロフィール

椎貝達夫(しいがい・たつお)
椎貝クリニック院長。取手方式という血圧調整、食事および薬物療法によって透析を避ける保存療法の考案者としても知られる。
尿が出ていると透析をやめられるかもしれない
慢性腎臓病が進行し、末期腎不全になると、日本ではほとんどの場合、人工透析に入ることになります。
透析には「血液透析」と「腹膜透析」という方法があります。血液透析は、1回3~4時間かかる治療を2~3日おきに通院して受けなければなりません。当然、生活に大きな制限が加わります。
一方、腹膜透析は在宅で自分で行えるので、仕事を続けることも可能です。
しかし、日本では末期腎臓病治療の94%は血液透析となっており、腹膜透析は3%しか行われていません(残り3%が腎移植です)。
また、腎機能の数値がいくつになったら透析の準備に入るのか、医師によってかなり考え方が異なります。推算糸球体ろ過量(eGFR)が「20を切ったら透析の準備」という医師もいる一方、「10を切ったら準備」「8を切ったら開始」という医師もいて、幅があります。
重い腎臓病ばかり見ている私からすると、他の医師の判断は早過ぎると思うことがよくあります。もちろん個々のケースによりますが、私の経験からはeGFRが7以上なら、透析に入らず、保存療法で治療していくべきだと考えます。
当院では、他の医療機関で人工透析に入った患者さんが「本当に透析が必要だったのか?」と訪れることがしばしばあります。そして、少数(年間2名程度)ながら、透析を離脱できるというケースもあります。
判断の目安の一つは、尿量です。人工透析に入り1~2年たつと、普通は透析翌日の尿量が1日500~1000mlまで減ります。ところが1年以上たっても1500ml以上の尿が出ていれば、腎機能がまだ残っている可能性があります。
また、透析の前後で血清クレアチニン値がどう変化したかも重要です。腎臓病の種類によっては、一時的に数値がぐんと悪くなるものの、その後に持ち直すことがあります。それを見過ごし、透析に早く入り過ぎてしまうことがあるのです。
もし、すでに透析をしているが尿量が減っていないという人は、勇気を出して主治医にデータを提供してもらい、他の医療機関にセカンドオピニオンを求めてもいいかもしれません。
ここで、当院で行っている保存療法「4つの柱療法」の基本的な考え方を紹介します。
①血圧コントロール
高血圧は腎臓病の進行を促す大きな因子の一つです。患者さんが自分で家庭血圧を測り、目標値「125/75mmHg未満」にコントロールします。
②食事療法
重要なのは、家庭で24時間蓄尿検査(24時間分の尿をすべて採取する)を定期的に行うことです。これによって食事の内容(たんぱく摂取量、食塩摂取量、リン摂取量など)が詳細に分かり、食事内容を改善する参考になります。
③薬物療法
慢性腎臓病は進むにつれて病気が複雑になり、処方する薬の種類や量がどうしても増えてきます。適切な処方をするためには、患者さんにも最大限に協力してもらい、詳細なデータを得る必要があります。
④集学療法
患者さんに「腎臓病手帳」をつけてもらい、そのデータを医療側と共有します。これが4つの柱で最も大切で、患者さん自身も病気の状態を正確に把握することで、よりよい治療ができます。
これらの保存療法で、長期にわたり慢性腎臓病が進行していない患者さんが数多くいます。
例えば、79歳の男性Aさんは糖尿病性腎臓病で、2010年に初来院。当時eGFRは19.3でした。尿酸値が高かったので尿たんぱくを減らす薬を3種類使用し、尿酸値と尿たんぱく値が目標値以内に減少。その後、現在までeGFRは20前後で安定しています。

腎臓病保存療法の「4つの柱」
ノルウェーは腎移植の割合が72%
保存療法を徹底して実践しても、病状が進行してしまうことはあります。腎機能が10~15%程度に低下した患者さんには、私はできれば腎移植をお勧めしています。
現在では「免疫抑制薬」という薬の進歩で、血液型が違っても腎移植は十分に行えるようになっています。そのため最近では、夫婦間での腎移植が増えています。ドナー(提供者)は腎臓を取り出すために体に小さな傷がつきますが、基本的に以前と変わらない生活を送れます。
北欧のノルウェーではなんと72%が腎移植です。その内訳は、生きている人から提供してもらう生体移植が25%、脳死の人から提供される献腎移植が75%です。「腎臓病で困っている人を救ってあげよう」という意識が国民に浸透していることがうかがえます。
一方、日本では運転免許証の裏面に臓器提供の意思の有無を記入する欄がありますが、記入している人が20%のみです。
提供の意思があっても、救急医療体制が不十分なため、亡くなった方の臓器を摘出して保存しておける場合が限られるという問題もあります。
献腎移植は現状、「チャンスが回ってくるには最低10年は待つ」と言われている状況です。人工透析を受けながらの厳しい生活から抜け出す手段に腎移植があることをもっと広く知ってもらい、ドナーが増えることを願っています。

この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。
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