「慢性腎臓病」は主に次の4つがあります。①糖尿病性腎臓病、②慢性糸球体腎炎、③腎硬化症、④多発性のう胞腎です。慢性腎臓病は原因が分からないものが大半ですが、日常生活においてはやはり「食事」が特に注意すべきポイントです。【解説】椎貝達夫(椎貝クリニック院長)

解説者のプロフィール

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椎貝達夫(しいがい・たつお)
椎貝クリニック院長。取手方式という血圧調整、食事および薬物療法によって透析を避ける保存療法の考案者としても知られる。

生活習慣はほぼ関係ない!

数年前、テレビアナウンサーが「人工透析の患者は健康管理できずに病気になったのだから自業自得。治療費は全額自己負担にせよ」とブログに書き、大きな批判を浴びて番組をすべて降板になる一件がありました。

これは完全に誤った知識に基づいた、許しがたい暴言です。人工透析が必要になる腎臓病の一部には生活習慣が関与するものもありますが、その大部分は原因不明ですし、明らかに遺伝によるものもあります。「いいかげんな生活のせい」というのは、ひどい言いがかりです。

ただ、人工透析の患者数が右肩上がりに増加し続け、医療費を圧迫する原因の一つとなっているのは事実です。日本では現在33万人超の透析患者がおり、その医療費が1兆6000億円(年間)、医療費全体の4%を占めると推計されています。

欧米では、末期の腎臓病対策を腎移植に切り替えつつあります。透析を抑え、腎移植が50‌%を超えている国が11ヵ国もあります。でも日本は、腎移植はわずか3%しか行われておらず、97%が透析です。

私は日本で透析が普及し始めた1960年代後半から、腎臓病の治療一筋に取り組んできました。透析が普及し始めた頃、患者さんも初めは「これで命が助かる」と喜んでいました。でも、一度、透析を始めたら、命が尽きるまで続く……。やがてその苦労が分かり、ふさぎ込んでしまう人も多くいました。

それを見て、「なんとか透析に入らないようにできないものか?」と思うようになったのです。そして、患者さんの腎臓の機能を保つことで極力、透析に入らないための保存療法を研究・実践し続けてきました。

私が実施している保存療法は四つの柱を中心にしたものです。それに加え、近年は「瞑想」も治療の一つとして導入しています。

こうした治療によって、他の医療機関で「もはや透析しかない」と宣告された患者さんが長期間にわたって透析を回避できているケースも多くあります。

ですから、すでに末期腎臓病の治療に入っている方も、どうか、諦めないでください

それに、私の開発してきた保存療法なら費用も人工透析の7分の1以下で済みます。医療費拡大に歯止めをかける意義も大きいと自負しています。

画像: 各国の末期腎臓病患者に適用される治療方法 日本は諸外国と比べて血液透析が圧倒的に多い

各国の末期腎臓病患者に適用される治療方法
日本は諸外国と比べて血液透析が圧倒的に多い

今や1330万人が悩む「国民病」

ここで、まずは「慢性腎臓病」がどんな病気かを概説します。

腎臓の主な働きは、尿を作ることです。血液中の不要な老廃物をこし取り、尿として排泄します。一方、必要な物質は回収して血液中に戻し、血液の成分を一定に保つ働きを持っています。

いわば、正常な腎臓は血液の「ろ過装置」のようなものです。

しかし、腎臓の機能が低下すると、不要な老廃物が血液中に残り、逆に必要な成分が尿に混じって流れ出てしまいます。

すると体内のさまざまな活動が正常に行われなくなり、やがて生命が危険にさらされます。

腎臓の機能が正常の30%以下になった状態が「腎不全」です。腎不全には、急性と慢性とがあります。急性腎不全は回復することもありますが、慢性腎不全になると、基本的に腎機能の回復は望めません。

腎不全が進むと全身の臓器に障害が起こり、疲れやすい体がだるい体のむくみ手足のしびれ皮膚のかゆみなどの症状が現れてきます。

夜間の尿量が増え、トイレに行く回数が増えるなど、尿量の変化も現れます。腎不全がさらに進行すると、今度は徐々に尿量が低下し、最終的には出なくなる事態に陥ります。

腎臓は血液を作るのに必要な造血ホルモン(エリスロポエチン)を分泌する働きもあり、その機能が低下して、貧血が起こるのも特徴的な症状です。

腎機能が60%以下(eGFFR60未満※1)。に低下した状態が3ヵ月以上にわたって続くと慢性腎臓病と診断されます。
※1 血清クレアチニン値、年齢、性別から腎臓の状態を推算する値。正常値は年齢や性別によって異なる

慢性腎臓病は世界的に増加傾向にあります。日本では現在、患者数が約1330万人と推計されています。

診断基準は、次の①、②のいずれか、または両方が3ヵ月以上持続するというものです。

①尿検査、画像診断、血液検査などで腎障害があると判断。

②腎機能が低下している。具体的には、糸球体ろ過量の数値が60未満。

糸球体ろ過量は、腎臓にどれだけ老廃物を尿へ排泄する能力があるかを示します。低いほど腎臓の機能が悪いということです。ただ、厳密に調べるには大がかりな検査が必要なため、通常は血液検査で分かる「血清クレアチニン値」と、性別、年齢から割り出す、推算糸球体ろ過量(eGFR)を用います。

次項では、慢性腎臓病の原因と進行を防ぐための生活上の注意について述べます。

代表的な慢性腎臓病の種類を解説

前項で述べたように「慢性腎臓病」は、腎機能が低下した状態が3ヵ月以上継続する病気の総称です。主に次の4つがあります。

①糖尿病性腎臓病
糖尿病に合併する腎臓病で、人工透析が必要となる病気の第1位です。

糖尿病の治療をしていれば、腎臓病にならないのではないかと考えがちですが、そうとも言えません。糖尿病がゆっくりと腎臓を傷め、たんぱく尿が出始め、この病気になることもあります。

たんぱく尿が多いと腎臓病の進行が速くなるため、たんぱく尿を減らすことが先決です。

②慢性糸球体腎炎
腎臓内で老廃物などをろ過する働きをしている「糸球体」に慢性的な炎症が起こり、たんぱく尿や血尿が出る病気です。

若い世代にもある日突然、発症することがあるのが特徴です。原因はいまだによく分かっていません。

国内における透析原因の第2位ですが、私のクリニックでは透析が必要になる末期腎臓病の第1位は、この病気です。

③腎硬化症
腎臓内の動脈硬化が進んで起こる病気です。たんぱく尿がほとんど出ていないのに、腎機能が低下していくのが特徴です。

慢性腎臓病の中でも多く、患者数が1000万人といわれています。ただし実際は、たんぱく尿がほとんど出ておらず、原因がよく分からない腎臓病を、腎硬化症に入れていることが多いと思います。

全国の集計では透析原因の第3位ですが、当院では、進行を止められる可能性が最も高い腎臓病です。

2015年3月から2019年9月の4年半にわたり、当院で治療した腎硬化症88名の推算糸球体ろ過量を観察したところ、83%が進行停止、5%が寛解(治った)、進行した人は12%にとどまりました。

画像: 椎貝クリニックでは腎硬化症の88%は進行停止と寛解

椎貝クリニックでは腎硬化症の88%は進行停止と寛解

④多発性のう胞腎
腎臓内にのう胞(中に液体がたまった袋状の組織)がたくさんできて、腎臓が腫れ上がり、腎機能が低下していく遺伝性の病気です。

両親のどちらかがこの病気だと、子の約半数に発症します。遺伝歴がなくても、発症するケースもあります。


ほかにも、「尿細管間質性腎炎」というまれな腎臓病があります。尿たんぱくが出ていないのに、次第に血清クレアチニン値(血液中に残る老廃物。腎臓のろ過機能が低下すると高くなる)が上がるのが特徴です。

この病気は腎臓病の専門医でも見逃しがちですが、当院で行っている投薬治療で進行を止められます。

全体として見ると、慢性腎臓病は原因が分からないものが大半です。生活習慣に問題がなくても、ある日突然、たんぱく尿が出始めたり、腎機能が下がったりするのは「運が悪かった」としか言いようがありません。

必要以上に過去の生活を悔やむよりも、大切なのは、これからです。

現在、明らかになっている腎臓病の「8大進行因子」を表にまとめました。これらを目標値に保つことが重要です。ぜひ、しっかり覚えてください。

8大進行因子目標値
1. 家庭血圧125/75mmHg未満
2. たんぱく尿1g/日未満
3. ヘモグロビン濃度(貧血のレベル)11g/dl未満
4. 血清尿酸(高尿酸血症)7mg/dl未満
5. 血清リン(高リン血症)4.5mg/dl未満
6. 血清重炭酸 低値22mEq/L以上
7. 食塩摂取量7g/日未満
8. SAS(睡眠時無呼吸症候群)ない、あるいは治療している状態
8大進行因子と目標値

その上で、日常生活においてはやはり「食事」が特に注意すべきポイントです。

近年の研究結果から、現在は「たんぱく制限は標準体重(kg)当たり0.6~0.8gでよい」とされています。

つまり、普通のたんぱく摂取量から少し減らせばいいのです。しかし、いまだに古い常識に基づいて、厳しいたんぱく制限が行われています。行き過ぎた低たんぱく食はサルコペニア(筋肉量の減少)を招きます。

ですから、私たち医療従事者側が、患者さんに合わせて、正しい食事指導を行える体制作りが必要です。

食事で最も重要なのは、食塩制限です。食塩は「1日7g未満」が目標。日本人の食塩摂取量の平均は約10gと多いので、かなり意識して減塩する必要があります。

カリウム制限もよくいわれますが、カリウムに関しては慢性腎臓病の人でも個人差があります。一律ではなく、血清カリウム値によって制限する・しないを決めます。

リン制限もよくいわれます。血清リン値は正常範囲内(2.5~4.5mg/dl)でも高めだと寿命を短くするという研究論文があり、健康な人でも少なめにしたほうがよいようです。

普通の人のリン摂取量は1日0.8~1.5gですが、慢性腎臓病では1日0.5g以下を目標にします。

適量であればお酒を飲んでも問題ない

「水を多く飲むと腎臓が守られる」という説がありますが、これは根拠がありません。

むしろ腎機能が低下すると、体に水がたまりやすくなるので、「水は少なめ」とします。24時間蓄尿をしないと普段の尿量が分かりませんが、1日の尿量が1500~2000mlになるように水を飲むのがいいです。

また、禁酒を指導する医師もいますが、「1日20g未満のアルコール量摂取」は問題ありません。日本酒なら1合弱、ビールなら500ml程度です。

画像: この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。

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