解説者のプロフィール

髙橋悟(たかはし・さとる)
日本大学医学部泌尿器科学主任教授。群馬大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院、虎の門病院、都立駒込病院、米国メイヨークリニックに勤務。2003年には明仁上皇の前立腺がん手術を担当する医療チームに加わったスペシャリスト。
▼日本大学医学部附属板橋病院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
尿を見ると体の状態が分かる
尿には、体内の情報が詰まっています。かつて泌尿器科の研修医は、患者の尿の色や性質、状態を細かく観察し、カルテに書いたものでした。
現在はそんなことをしなくても尿の情報を十分得られますが、それくらい、尿の見た目から得られる情報は重要です。
もちろん、尿に現れない病気もたくさんあるので、尿を見て全ての病気が分かるわけではありません。しかし、腎臓、尿管、膀胱、尿道など、尿の通り道に当たる臓器の異常は、尿に変化が現れやすく、隠れた病気を知るためにはとても優れた材料です。
何より尿を見るだけですから、痛くもなくお金もかかりません。しかも、一日に何度も出しては捨てるものですから、これを活用しない手はないでしょう。
健康な人の尿は、薄くて透き通った黄色で、にごりもありません。
私たちは「麦わら色」と言いますが、水分を多くとれば色が薄くなり、脱水気味だと濃い黄色になります。
尿臭も、健康な場合はさほど強くはありません。
健康であれば、色、泡立ち、にごり、匂いの四つがこのような状態ですが、何か病気になると、いずれかにサインが現れます。
そして、腎臓の病気が現れやすいのは、色と泡立ちです。
腎臓の病気を知るには色と泡立ちをチェック
色の変化で一番多いのは、血尿です。1Lの尿に1mlの血液が混じっただけでも、注意深く見れば、血尿だと分かります。
血尿とひと言でいっても、鮮血のように鮮やかな赤、薄いピンク色、ワインのような暗赤色、黒っぽい濃い赤など、その色調はさまざまです。
出血量が多いほど赤の色は濃くなり、少ないほど薄くなります。
出血場所も濃さに影響しています。尿の出口(尿道口)に近いほど、フレッシュな血の色に近くなり、反対に尿道口から離れると黒っぽい赤になります。
血尿の原因が、尿道から遠いところほど、赤血球に含まれるヘモグロビンが酸化するからです。
糸球体腎炎、IgA腎症、のう胞腎などの腎臓病は、尿道から遠いところの病気ですから、黒っぽい赤の血尿が出る傾向にあります。
見てはっきり分かる血尿が出て、何も自覚症状がない(無症候性血尿)ケースでは、腎臓病のほか、膀胱がんや尿路上皮がんなど、泌尿器系のがんの場合もあります。はっきりとした血尿が認められる人は、病院で受診しましょう。
血尿で注意しないといけないのは、目に見える「肉眼的血尿」だけでなく、尿検査に出さないと分からない「顕微鏡的血尿」もあることです。後者は、目に見えない血尿のため、目視で確認することが難しいです。
腎臓病の尿は泡立つ
血尿は、目で見ても色の変化が見つけられないこともありますが、尿の泡立ちは、腎機能の低下を知らせる特徴として分かりやすいです。
簡単なので、皆さんも、自宅でぜひお試しいただきたいです。
やり方は、普通の白い紙コップを用意します。
そこに、検尿と同じ要領で、最初と最後の尿を捨て、中間の尿だけを採ってください。そして1分間放置して、泡が消えるかを確認します。
身長の高い男性、勢いのいい放尿などで尿が泡立つこともあります。
しかしこういう泡は、水道水を勢いよくコップに入れると泡が出るのと同じようなものなので問題ありません。注意すべきは、1分たっても消えない泡です。

1分後に泡が消えない尿に要注意!
紙コップに尿を採って、1分後も写真のような泡が出ていたら、病院で検査してみましょう
※写真提供/日本大学付属板橋病院臨床検査部 主任 福田嘉明
そういった尿が出ている人は、たんぱく尿の可能性が否定できません。
たんぱく尿は、血液のろ過装置である糸球体の機能が低下して、フィルターからたんぱく質が漏れ出て起こります。
これは、腎臓病の悪化に伴って起こる典型的な症状で、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、ネフローゼ症候群などの腎臓病に見られる症状です。
慢性腎臓病は、本人が気付かないうちに進行するといわれていますから、健康診断をしばらく受けていない人は、一度、自分の尿を見ることをお勧めします。
ちなみに、消えない泡が出る尿は、たんぱく尿だけでなく、糖尿病の人にも起こり得ます。
見分けるために、臭いも確認するとよいです。糖が強く出ている場合は、果実のような甘い匂いがします。
このような尿の泡や、血尿などを見つけたら、すぐに泌尿器科や腎臓内科を受診してください。
[別記事:だるい、むくみ、夜間頻尿、手足のしびれは腎臓の機能低下のサイン→]

この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。
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