些細なことに動揺する、他人に深く共感し過ぎる……。そんな人が、あなたの周りにいませんか? HSPとは「生まれつき人一倍感受性が強く、非常に繊細な気質を持った人」という意味で、Highly Sensitive Person(=ハイリー・センシティブ・パーソン)と呼ばれています。そんな「敏感さん」との上手な付き合い方をご紹介します。(2020年6月28日更新)
【解説】みさきじゅり(HSP専門家・キャリアコンサルタント)

解説者のプロフィール

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みさきじゅり

HSP専門家・キャリアコンサルタント(厚生労働省認定国家資格)。自身もHSP。東芝、外資系企業勤務や大学生就活支援などを経て、2017年に活動開始。HSP研究の第一人者、エレイン・アーロン博士の「専門家認定プログラム」を日本人で初めて修了。「一人一人が納得して生き、働く社会の実現」を目指し、セミナーなども主催している。著書『ささいなことに動揺してしまう敏感すぎる人の「仕事の不安」がなくなる本』(秀和システム)が好評発売中。
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HSPとは?

人口の5分の1はいる繊細気質の「敏感さん」

ささいなことに動揺する、細かいことまで気にする、人のことに深く共感する……。周囲に、そんな人がいませんか? 

これらの特徴が当てはまる人は、もしかしたら、「敏感過ぎる気質」である「HSP」かもしれません。

HSPとは、「Highly Sensitive Person」という、英語の頭文字をとった言葉。日本語に訳すと、「非常に繊細な人」「すごく感受性の高い人」といった意味になります。

ここでは、そんなHSPについて分かりやすく説明するために、「敏感さん」という言葉を使います。

敏感や繊細というと、性格のように感じますが、そうではありません。研究によって、敏感さんは、物事を感じたり、他人に共感したりする脳の働きが、そうでない人よりも活発であることが分かっています。

同じ場所で過ごしていても、敏感さんの脳は、光や音、匂い、人の表情など、周囲の情報を丁寧に処理している、ということです。

それ故に、人の様子や環境の違いに敏感になります。

それら大量の情報を処理して、深く考慮した上で、結論を導き出すのも、敏感さんの脳の特徴です。情報処理の過程で、脳には大きな負担がかかります。そのため、敏感さんには、非常に疲れやすいという特徴もあります。

敏感さんは、性別、国籍、年代を問わず、人口の15~20%存在することが判明しています。つまり、5人に1人は敏感さんということになります。

育てにくい子どもだった

感受性が強過ぎて心身ともに疲れやすい

実は、私自身も敏感さんです。幼い頃は、感受性が鋭いが故に、心身が参ってしまって、よく幼稚園を休んでいました。親からすると、神経質で病弱な、育てにくい子どもだったと思います。

その後も漠然と、周囲とのかみ合わなさを感じながら過ごしていました。その違和感は、就職してから、さらに大きなものとなりました。

私は、全体の流れを理解してからでないと、作業をスムーズに進められませんでした。全体を理解するまでは、途中で手が止まったり、ミスをしたりと、仕事が遅いのです。

また、先輩との会話もかみ合いませんでした。どんなミスが起こりうるか、細かく想定して質問しても、先輩からは「ミスが起こってから聞いて」と言われるだけ。しかし、私の方は、事前に備えておかないと不安でたまりません。

そんなふうに、周囲との違いに悩んでいたとき、私は書店である本を見つけました。それが、HSP(敏感さん)研究の第一人者、エレイン・アーロン博士の著書だったのです。

この本を読んだ瞬間、「まさに私のことだ!」と、衝撃を受けました。

やがて、感受性の鋭さによる疲れはピークに達し、30代後半で退職。その後、同じように悩む人の力になりたいという思いから、HSP(敏感さん)専門に、仕事の相談を受けるようになりました。

画像: 細かな情報を大量に処理するのも敏感さんの特徴

細かな情報を大量に処理するのも敏感さんの特徴

HSPの特徴

気質の違いを受け入れて付き合うのが大事

ここまで、私自身の話をお伝えしましたが、敏感さんの特徴が、外面にどう表れるかは人それぞれ。ですから、私とは全く違って見えるタイプの敏感さんもいます。

しかし、どんな外面の表れ方をしていても、敏感さんには、次のように共通する、四つの特徴があります。

① 処理の深さ

大量の情報を取り込み、自分が納得するまで考え尽くします。その間、他の情報を取り入れる余裕はないため、周囲からは「ボーっとしている」と見られることも。一方で、全ての情報がつながり、全体像を把握すれば、優れた結果を出すことができます。

② 神経の高ぶりやすさ

ささいな刺激に対して、過剰に反応します。良いことがあると周りの人よりも感動し、悪いことがあるとひどく落ち込み、場合によってはびっくりして思考が停止。後から深く考えて、「こう言えばよかった」と思うことも、よくあります。

③ 感情反応の強さと共感力

喜怒哀楽の感情に強く揺り動かされるので、周囲から大げさと思われがちです。人の感情に対しても、自分のことのように共感します。

④ ささいなことにも気づく

敏感さんの脳は、周囲の情報を細やかに処理します。その結果、他の人は気づかない、ささいなことにも気がつきやすくなります。

ここまで読んで、「自分ってもしかして、敏感さんでは?」と、思った人もいるのではないでしょうか。そう思った方は、下のチェックリストをご覧ください。

HSPの診断に役立つチェックリスト

10個以上当てはまるとHSPの可能性が高い

「敏感さん(HSP)」チェックリスト 

1. 大きな音やまぶしい光、きつい匂いや痛みなど、さまざまな刺激が苦手
2. 自分を取り巻く環境の微妙な変化によく気づく方だ
3. 他人の気分に左右される
4. 忙しい日々が続くと、ベッドや暗い部屋など、プライバシーが得られ、刺激から逃れられる場所に引きこもりたくなる
5. カフェインをとると眠れなくなる、気分が悪くなる場合がある

6. 明るい光や、強い匂い、ザラザラした布地などが苦手。サイレンの音に圧倒されやすい
7. 想像力が豊かで、空想にふけりやすい
8. 美術や音楽に深く心動かされる
9. とても良心的である
10. すぐにびっくりする(仰天する)

11. 短期間にたくさんのことをしなければならないとき、混乱する
12. 人が何かで不快な思いをしているとき、どうすれば快適になるか、すぐに気づく(電灯の明るさを調節する、席を替えるなど)
13. ミスをしたり物を忘れたりしないよう、いつも気をつけている
14. 暴力的な映画やテレビ番組は見ないようにしている
15. 空腹になると、集中できなかったり、気分が悪くなったりする

16. 生活に変化があると混乱する
17. 繊細な香りや味、音、音楽などを好む
18. 突然のトラブルが起こるなど、動揺する状況を避けられるよう、普段から人一倍気を付けている
19. 仕事をするとき、競争させられたり、観察されたりしていると、緊張し、いつもの実力を発揮できなくなる
20. 子どもの頃、親や教師は自分のことを「敏感だ」「内気だ」と思っていた

10個以上当てはまると、「敏感さん」の可能性が高い。
出典:『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』より抜粋、一部改変(エレイン・N・アーロン著、冨田香里訳、講談社刊)

敏感さんの中には、その感覚の繊細さによる、生きづらさを抱えている人が多くいます。

しかしこれは、病気や障害ではないし、「治すもの」でもありません

その特徴を受け入れ、付き合っていくものと捉えましょう。

また、下項には、敏感さんの特徴に当てはまる人が周囲にいる場合の、接し方のポイントを掲載しました。もし、皆さんの周りにこういう特徴の人がいる場合は、参考にしてみてください。

「世の中には、人一倍敏感な人もいる」と知っていただくことで、ご本人も周囲も、過ごしやすくなることを願っています。

マンガで分かるHSP(敏感さん)

まんが・イラスト/おがたちえ

画像1: まんが・イラスト/おがたちえ
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▼おがたちえ
マンガ家。葬儀屋や編集者を経て、雑誌やウェブでマンガ執筆活動を開始。4コママンガやルポマンガを中心に執筆する他、日本人向けの台湾旅行ウェブサイト「台北ナビ」のキャラクターデザインなどを担当。『汚部屋掃除人が語る命が危ない部屋』(竹書房)など、著書多数。HSP専門家のみさきじゅり氏が監修する『繊細すぎて生きづらい~私はHSP漫画家~」(ぶんか社)を発売。

HSPへの対策・付き合い方

■監修/みさきじゅり(HSP専門家)

《成人している息子、娘の場合》

画像1: 【HSPとは?】対策と特徴(あるある)をマンガとイラストで紹介 診断に役立つチェックテスト付き

「 アドバイスをしない 」
「 話を聞いてあげる 」

「自分の息子や娘には、いい人生を歩んでほしい……」と、 ついアドバイスをしたくなるかと思います。

しかし、敏感さんにとって、これらはかえって逆効果。まずは、温かく見守って、話を聞いてあげるとよいでしょう。

画像: 《成人している息子、娘の場合》

…こんな時は?

突然、仕事を辞めてしまった
敏感さんは、少しでもキツい話し方をする人がいるだけで、思いつめてしまいます。もしかすると、その中でつらいことがあって、仕事を辞めてしまったのかも。本人が立ち直るまで、見守ってあげてください。

「お金がほしい」と言われた
「温かく見守る」と「甘やかす」は、大きく違います。「こういう理由で、あなたに渡せるお金はない」と伝え、相手の反応を見守ってあげてください。

《 未成年の子どもや、孫の場合》

画像2: 【HSPとは?】対策と特徴(あるある)をマンガとイラストで紹介 診断に役立つチェックテスト付き

「 苦手なもの・ことを聞いてあげる 」
  ※孫の場合、まずは親の意向を聞くこと!

小さな子の場合は、より注意深く見る必要があります。どういう音、匂い、感触が苦手なのか、さりげなく聞くとよいでしょう。

その際、「大丈夫?」「どうしたの?」と、聞くのは避けてください。敏感さんは、「全ての質問に答えなければ」と思い、余計にパニックになる可能性があります。

孫の場合は、必ず、親の意向を聞いてから、孫に話を聞きましょう。

画像: 《 未成年の子どもや、孫の場合》

…こんな時は?

不登校になってしまった
敏感さんは、先生が他の生徒を叱るときの声や、教室に充満している匂いが、人一倍気になって神経を使います。無理に学校に行かせようとはせず、本人が落ち着くまで、待ってあげてください。孫の場合、まずは親と子どもが直接話せるように見守りましょう。

買ってあげた服を着てくれない
敏感さんは、身に着けるものにも敏感なので、服の感触が合わないのかもしれません。その場合、「この服の素材は、この子には合わなかったんだ」と思ってあげてください。事前に試着をさせたり、孫の場合は親に聞いてから購入したりするのも、よいかもしれませんね。

《息子、娘の配偶者(嫁や旦那)の場合》

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「 アドバイスをしない 」
「 話を聞いてあげる 」

気をつけたいのは、長い目で見ること。「1年は口を出さず、話を聞こう」という気持ちで、温かく見守ってください。

敏感さんは、細かなことに気がつくので、気になることがあれば、まずは自分であれこれ、工夫をこらすはず。そのときも、急かさずに話を聞いてあげましょう。

画像: 《息子、娘の配偶者(嫁や旦那)の場合》

…こんな時は?

一つの家事のことを、自己流でやってしまう
敏感さんには「情報を深く考えつくす」特徴があります。一つの動作に対し、多くを心配するのがその例です。「どのようにしてあると、自分もらくだ」ということを説明すれば、敏感さんは納得します。

どうしても、やってほしくないことがある
やってほしくないことは、事前に伝えておいた方がよいでしょう。敏感さんだからといって、特別扱いや、腫れ物に触るように接する必要はありません。

《遠方の親戚や、近所の人の場合》

画像4: 【HSPとは?】対策と特徴(あるある)をマンガとイラストで紹介 診断に役立つチェックテスト付き

「 黙って見守る 」
「 相手が話し出したら聞いてあげる 」

敏感さんは病気や障害でなく、生まれ持った気質なので、黙って見守ることに徹してください。相手が話したら、話を聞いてあげましょう。

間違っても、「あなた繊細だけど、そういう気質?」など、無用な質問はしないように。

画像: 《遠方の親戚や、近所の人の場合》

…こんな時は?

親しくはないが、心配でいろいろ質問してしまう
人からいろいろなことを言われたり、聞かれたりするのは、誰でも気持ちのいいものではありません。しかし、場合によっては、聞かなければならないこともあります。その際は、質問の根拠を伝えるといいでしょう。

《友人など、親しい関係性の場合》

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「 悩んでいたら、さりげなく聞く 」
「 話を聞いてあげる 」

この場合は、話を振ってもいいでしょう。絶対に気をつけたいのは、断定形で話さないこと。敏感さんにとっては、自分を暴かれる感じがして、ひどく傷つきます。

「こういう情報があるらしい」と伝えるだけで、興味があれば、自分で調べるはずです。

「自分は敏感さんかも……」と相談されたら、話を聞いてあげてください。相手が悩んでいるならば、「あなたのおかげで、私も助かったことがある」の一言で、とても安心すると思います。

画像: 《友人など、親しい関係性の場合》

まとめ

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敏感さんと接するための第一歩は、「話を聞いてあげること」!

その人がたくさん考えて決めたことを、さりげなく共感したり、静かに受け止めてくれたりするだけで、ホッと生きやすくなるのです。

「あの人は、敏感過ぎる特別な気質だから」と思わずに、一人の人間の特徴として、温かく接してあげてくださいね。

※この記事は『安心』2020年3月号(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。

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