座ったままでできる骨たたきには安全性の問題がなく、体をポコポコとたたくだけなので簡単に実行できます。測定したデータを分析したところ、骨密度や歩行能力に関係する体の状態が目覚ましく改善していることが分かりました。【解説】黒坂志穂(広島大学大学院教育学研究科健康スポーツ科学講座准教授)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

黒坂志穂(くろさか・しほ)
広島大学大学院教育学研究科健康スポーツ科学講座准教授。1984年、鳥取県生まれ。広島大学大学院教育学研究科修了。博士(教育学)。健康づくりのための体操の効果を研究しながら、多くの人と楽しい健康づくりを実施している。また、海外に骨の論文も発表している。

私自身の腰痛も解消した

[別記事:1日1分「骨たたき」のやり方→

私はもともと、アスリートとして水泳に携わっていました。水泳選手というと、筋肉もあって体も動かしていて、ものすごく健康と思われる方が多いのですが、これは誤解です。

実は、アスリートは不健康。時代による変化もありますが、水泳選手の場合は、タイムを上げるために水の抵抗が少ない真っすぐの姿勢が推奨されます。

本来、人間の背骨はゆるやかなS字を描くことで、衝撃を吸収しています。それがないためか、私は長年腰痛に悩んでいました。こういった不調が、森千恕先生の師匠に当たる勇﨑賀雄先生に出会い、骨と呼吸の勇﨑メソッドを学ぶことで解消したのです。

そんな私がデイサービス施設「金のまり」を最初に訪れたのは、2017年12月です。森先生が骨たたきの指導を開始されるタイミングで、利用者の方の骨密度や歩行能力に関係する体の状態を調べました。

今だから裏話としてお話しできるのですが、1回目のデータ測定が、実は大変でした。「どうしてそんなことをしなくちゃいけないのか」「歩くのは嫌だ」という声が次々に上がり、1回目のデータ測定には5時間もかかりました。

ところが、3ヵ月後に行った2回目のデータ測定は拍子抜けするほどスムーズに進み、2時間程度で終わりました。

3ヵ月間骨たたきを行ったことで、体を動かすことに抵抗がなくなったことに加え、「私、こんなに体が動くのよ」と自己イメージがポジティブに変化されたことがよくわかりました。

金のまりの利用者の多くが85歳以上で、要介護に認定されています。

こうした高齢者が骨強度を改善するための運動プログラムとして、ジャンプや足を横に踏み出すなど、骨に負荷と振動を与える「ハイインパクトトレーニング」が推奨される場合があります。

しかし、転倒をはじめとした安全性の問題があるためか、高齢者、特に要介護者へのトレーニングの導入には消極的で、検証データも非常に少ない傾向がありました。

一方、座ったままでできる骨たたきには、そうした危険性はありません。また、体をポコポコとたたくだけなので、簡単に実行できます。

こうして測定したデータを分析したところ、骨密度や歩行能力に関係する体の状態が3ヵ月で目覚ましく改善していることが分かりました。以下、簡単にご紹介しましょう。

転倒することがなくなった

・骨密度が5%上昇した
骨密度には、 YAM(若年成人平均値)という値が使われます。20~44歳の健康な女性の骨密度を100%として、自分の骨密度が何%に当たるのかを示した数値で、70%未満は骨粗鬆症の疑いがあると判断します。

画像: 骨たたきで骨密度が上がった!

骨たたきで骨密度が上がった!

骨たたきを行わなかった群は1回目→2回目で70%→65%と低下しましたが、骨たたきを行った群は、初回の65%が2回目で70%と改善しました。

・体重移動がスムーズになった
人間が歩く際、かかとから着地して、体重の乗る部分がかかとからつま先へと少しずつ移動する歩き方が理想です。

しかし、1回目の足底圧の測定では、利用者の方はかかととつま先がほぼ同時に着地していました。そして体重移動も、つま先→土踏まず→つま先と小刻みに変化していたのです。こうした体重の移動では体が不安定で、歩くときは小股になり、足も上がらなくなります。

それが2回目では、かかとで着地してから体重がつま先へと移動するパターンに変化していました。骨たたきを行うことで、足の指の付け根の部分の骨が刺激されて強化されたことが関係していると考えられます。

そして、金のまりのスタッフの方からは「転倒することがなくなりました」という報告もいただきました。

・速く歩けるようになった
歩く速度と健康度は比例しており、歩行速度は健康寿命のバロメーターとされています。そこで、金のまりの皆さんに、6mを最大速度で歩いてもらって、歩行速度を検証しました。

骨たたきを行わなかった人の歩行速度は、1回目も2回目も秒速約60㎝でした。それが、骨たたきを行った人は、1回目が秒速約70㎝だったのに対し、2回目は秒速約90㎝と、歩行速度が向上しました。

速く歩けるようになった理由には、骨密度の上昇と体重移動の変化が同時に起こったことが関係していると考えられます。

画像: 骨たたきは器と機能両方に働きかける

骨たたきは器と機能両方に働きかける

骨粗鬆症の薬を飲めば骨密度は上昇しますが、それだけでは体の機能は高められません。逆に体の機能も、骨がもろい状態では改善しにくいのです。

骨密度と体の機能の両方に、同時に働きかける骨たたきは、骨から元気に若返る体操だといえるでしょう。

[別記事:1日1分「骨たたき」のやり方→

画像: この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.